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召喚された脳みそ  作者: 花束 ねる


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第27話 視線を集中させないでください



「局長、視覚機能の追加試験を開始します」

「……うん」

「まず、花の運動機能を確認します」

「……さっきは動かなかったんだけど」

「今回は動かし方を変えてみてください」

「……動かし方?」

「はい。まずは前回と同じ方法を試してください」


 ルメは3番の花に意識を向けた。


 クルトの顔が見える。


 右を向こうとする。


 動かない。


「……やっぱり動かないね」

「はい。前回と同じ結果です」

「……うーん」


 ルメは考えた。


 これまでは、人間の身体を動かすつもりで試していた。


 顔を右へ向ける。


 首を回す。


 けれど、今の身体に首はない。


「……あ、そうか」

「何か分かりましたか?」

「……顔を動かそうとしてた」

「はい」

「……でも、今は花なんだよね」


 ルメはもう1度、3番の花に意識を向けた。


 今度は顔ではなく、花そのものを少し右へ傾けるつもりで。


 ピクッ。


「……あ」

「第3花が動きました」

「……動いた?」

「はい。わずかな運動を確認しました」

「……おお」


 ルメはもう1度試した。


 花を左へ。


 ピクッ。


「……おおお」

「左右への運動を確認しました」


 ルメは調子に乗って、もう1度動かした。


 右。


 左。


 右。


 左。


 しかし、思ったほど動かない。


「……あれ?」

「どうしましたか?」

「……動くんだけど、なんか重い」

「重量感がありますか?」

「……そういう感じじゃないんだけど。動かしにくい」

「承知しました」


 クルトは記録板に書き込んだ。


「第3花、随意運動を確認。運動量は小さい」


「……ねえ、クルト」

「はい」

「……これ、6つ全部動かせるのかな」

「順番に確認します」

「……うん」


 ルメは1番の花に意識を向けた。


 天井の照明が見える。


 少し横へ。


 ピコッ。


「……あ」


 もう1度。


 ピコッ。


「……おお!」

「第1花、運動を確認しました」

「……こっちはすごく動く!」


 右。


 左。


 右。


 左。


 天井の照明が小刻みに揺れた。


「……面白いね」

「第3花より運動量が大きいようです」


 続いて2番。


 窓の青空が見える。


 少し右へ。


 ピコッ。


 左へ。


 ピコッ。


「……こっちも動く!」

「第2花、運動を確認しました」

「……1番と2番は、やたらと動くね」


 次は4番。


 研究室の奥の景色が見えている。


 右へ。


 花は、わずかに揺れただけだった。


「……あれ?」


 もう1度。


 ピクッ。


「……動くけど、ちょっとだけ」


 5番。


 床と研究員の靴。


 ピクッ。


 6番。


 鉢の縁と土。


 ピクッ。


「……ねえ、クルト」

「はい」

「……なんで1番と2番だけ、あんなに動くんだろう」

「確認します」


 クルトは植物担当の研究員を呼んだ。


 眼鏡をかけた、少し気の弱そうな研究員が鉢に近づいた。


「花の状態を確認してください」

「は、はい」


 研究員は6輪を順番に観察した。


「花や茎に異常はありません」

「運動量の差について、何か分かりますか?」

「向きが違いますね」

「……向き?」

「第1花は真上、第2花は斜め上です」

「……上を向いてるから動きやすいのかな」

「可能性はあります」


 研究員が天井を見上げた。


「光の当たり方も違いますね」

「……光?」

「第1花には天井の照明が直接当たっています。第2花には窓からの光が入っています」

「ほかの4輪は?」

「比較すると、弱いですね」


 ルメは少し考えた。


「……じゃあ、光を当ててみようよ」

「照度による運動の変化を検証するのですね」

「……うん。同じ条件にしてみないと分からないでしょ」

「承知しました」


 眼鏡の研究員が、研究室の棚から携帯用のライトを持ってきた。


「第3花に照射してください」

「は、はい」


 研究員はライトを花に近づけた。


 3番の視界が急に明るくなる。


「……あ、ちょっとまぶしい」

「照射距離を調整してください」


 研究員がライトを少し離した。


「……まだちょっとまぶしいかな」


 さらに離す。


 花から50センチほどの位置で止めた。


「……うん。これくらいなら大丈夫」

「局長、花を動かしてみてください」

「……うん」


 少し右へ。


 ピコッ。


「……あっ」

「第3花、運動を確認しました」

「……さっきより動く!」


 今度は左へ。


 ピコッ。


 右へ。


 ピコッ。


「……おおお」

「運動量が増加しています」


 研究員がライトの向きを変えた。


 4番の花を照らす。


 ピコッ。


「……こっちも動いた!」


 5番。


 ピコッ。


 6番。


 ピコッ。


「……全部動くね」

「光の照射によって、運動が促進される可能性があります」

「……じゃあ、6つ全部に当てたらどうなるんだろう」


 クルトは研究員を見た。


「6輪を同時に照らせますか?」

「はい。少し離せば……」


 研究員はライトの位置を調整した。


 6輪の白い花が、まとめて照らされる。


「準備できました」

「局長、6輪を同時に動かせますか?」

「……やってみる」


 ルメは6つの花に意識を向けた。


 まずは、それぞれ違う方向へ。


 右。


 左。


 上。


 横。


 ピコッ。


 ピコピコッ。


 6輪の花が、別々の方向に小刻みに動いた。


「……おお!」

「6輪すべてで随意運動を確認しました」


 ルメはもう1度動かした。


 ピコッ。


 ピコピコッ。


 研究員たちが手を止めた。


 鉢の上で、6輪のクリスマスローズがそれぞれ違う方向へ動いている。


「……これ、面白いね」

「運動機能は良好です」


 クルトは記録板に書き込んだ。


「次に、6輪を同じ方向へ向けられるか確認します」

「……全部一緒に?」

「はい」

「……やってみる」


 ルメは6つの花に意識を向けた。


 今度は、全部同じ場所へ。


 ライトを持っている眼鏡の研究員の方へ。


 クイッ。


 6輪の白い花が、一斉に向きを変えた。


「ひっ」


 眼鏡の研究員が、肩を跳ねさせた。


「……あれ?」

「どうしましたか?」

「……眼鏡の人が6人いる」

「1人です」

「……うん。分かってるんだけど」


 ルメは6つの視界を確認した。


 どの視界にも、同じ眼鏡の顔が映っている。


 少しずつ角度が違う。


 6つの顔が、重なって見えた。


「……なんか、6人に囲まれてるみたい」

「同一人物を6つの視界で認識しているのですね」

「……そう、それ」


 ルメは6つの視界に映る顔を見比べた。


 6輪の花は、同じ方向を向いたまま動かない。


「……不思議だね」


 眼鏡の研究員は、ライトを持って固まっていた。


「局長」

「……うん?」

「植物担当者が怖がっています」

「……えっ?」


 ルメが研究員を見るのをやめると、6輪の花がふにゃっと元の向きに戻った。


「……ごめんね」


 6輪が小さく、ピコピコと揺れた。


「い、いえ……」


 研究員が半歩下がった。


 ルメは、その動きが気になった。


 もう1度、研究員の方を見ようとした。


 クイッ。


 6輪の花が、再び一斉に研究員の方を向いた。


「うわっ!」


 眼鏡の研究員が、思わず身を引いた。


 しかし、今度は逃げなかった。


 6輪の花をまじまじと見つめる。


「……全部、こちらを向いてる」


「……あっ」


 ルメが意識を緩めると、6輪はまたふにゃっと元の向きに戻った。


「……ごめん。つい」

「局長、追跡を中止してください」

「……はい」


 6輪の花が静かになった。


 研究員は、そっとライトを下ろした。


「……ねえ、クルト」

「はい」

「……花って、そんなに怖いかな」

「通常、6輪同時に人を追跡しません」

「……そっか」


 クルトは記録板に書き込んだ。


「6輪同時の方向転換を確認。対象の追跡も可能」


「……あの、クルト」

「はい」

「……それ、怖がってたことも書くの?」

「試験中の反応として記録します」

「……そっか」


 ルメは少し考えた。


「……でも、これなら見たいものを6つの花で確認できるね」

「はい」

「……1つずつ見ることもできるし、全部で同じものを見ることもできる」

「そのとおりです」


 クルトは記録板を閉じた。


「疲労はありませんか?」

「……あ、ちょっと疲れた」

「では、運動試験を終了します」

「……うん」


 眼鏡の研究員がライトを消した。


 6輪の花は、ルメが向きを変えようとするのをやめると、それぞれ元の方向へ戻った。


 ルメはしばらく動かずにいた。


「……ねえ、クルト」

「はい」

「……これ、移動するときもライトが必要なのかな」

「今後の試験で確認します」

「……ライトを持ってついてきてもらうの?」

「必要であれば、人員を配置します」

「……照明係だね」

「はい」


 ルメは少し考えた。


「……私が花を動かすために、人が1人必要になるの?」

「現時点では、その可能性があります」

「……それは、ちょっと効率が悪いね」

「代替手段を検討します」

「……固定できるライトとか、ないかな」

「候補を調べます」


 クルトは記録板を開いた。


「照明器具の固定方法について、検討項目に追加します」


 ルメは3番の視界に意識を向けた。


 クルトが記録板を整理している。


 その後ろでは、別の研究員が、もう1枚の記録板に文字を書き込んでいた。


「……あれ?」


 ルメは3番と4番の視界に映る記録板を見比べた。


「……ねえ、クルト」

「はい」

「……その記録って、2人で書いてるの?」

「はい」

「……同じ内容?」

「はい」

「……ふうん」


 クルトは記録板を閉じた。


「何か問題がありますか?」

「……ううん。あとで聞くよ」

「承知しました」


 ルメは研究室の奥へ意識を向けた。


 4番の花が、かすかに揺れた。





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