↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚された脳みそ  作者: 花束 ねる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/32

第23話 見学者が案内を希望しています



翌日。


「局長、娘に昨日の外出結果を報告しました」

『おお。どうだった?』

「喜んでいました」

『……そっか。よかった』

「ただし、一点指摘がありました」

『……指摘?』

「はい。『きょくちょー、お花見えなかったんだね』と言っていました」

『……うん。そうなんだ』

「それなら、次は自分が教えてあげるそうです」

『……ルーチェちゃんが?』

「はい」

『……そっか』


ルメは少し考えた。


『……じゃあ、お願いしようかな』

「承知しました」


数日後。


ルメの入った容器が、運搬台に固定された。


職員二名が固定状態を確認する。


執務室の扉が開いた。


「きょくちょー!」


聞き覚えのある声がした。


『ルーチェちゃん、こんにちは』

「こんにちは!」


ルーチェは容器に近づいた。


クルトが口を開いた。


「ルーチェ、今日は局長の外出に同行するだけだよ」

「わかってる!」

「容器に触ってはいけないよ」

「わかってる!」

「運搬台にも触ってはいけないよ」

「わかってる!」

「花壇の植物を抜いてはいけないよ」

「……わかってる」

『……最後だけ返事が遅かったね』

「……もうしないもん」


職員が運搬台を押し始めた。


ゴロゴロゴロ。


「きょくちょー、動いてるよ!」

『……うん。分かるよ』

「すごいね!」

『……そうだね』


廊下を進み、庭園へ向かう。


「きょくちょー、もうすぐお外!」

『うん』

「あとちょっと!」

『うん』

「もうちょっと!」

『……うん』

「着いた!」

「ルーチェ。まだ扉の前だよ」

「……あれ?」


扉が開いた。


運搬台が庭園に出た。


「今度こそ着いた!」

『……ありがとう』


覆いが外された。


ルーチェは辺りを見回した。


「きょくちょー! お花いっぱい!」

『……どんな花?』

「赤いの!」

『赤い花なんだね』

「あと黄色いの!」

『うん』

「あと、ちっちゃいの!」

『……ちっちゃいの?』

「うん! すっごくちっちゃい!」

『……そうなんだ』


クルトが補足した。


「赤い花が三株、黄色い花が二株あります」

『……なるほど』

「小さい花は、花壇の手前に植えられています」

『うん』


ルーチェが声を上げた。


「きょくちょー! こっちのお花、おじぎしてる!」

『……おじぎ?』

「うん! 頭が重そう!」

『……そうなんだ』

「お父さん、これ何のお花?」

「確認するよ」


クルトが花の名前を伝えた。


ルメは、その姿を想像した。


花の重みで茎が曲がり、地面に向かって頭を下げている。


『……なるほど。おじぎしてるんだ』

「そう!」


少し先で、ルーチェが立ち止まった。


「きょくちょー!」

『なあに?』

「こっちのお花、怒ってる!」

『……怒ってる?』

「うん! 顔が真っ赤!」

『……それ、赤い花なんじゃない?』

「そうだよ!」

『……そうだよね』


クルトが口を開いた。


「花に感情があるという報告はありません」

『……クルト』

「はい」

『そこは説明しなくていいよ』

「承知しました」


ルーチェは次の花を見つけた。


「きょくちょー! こっちにも赤いお花!」

『……また赤い花?』

「うん! なんか、頭がもこもこしてる!」

『……もこもこ?』

「お父さん、これなあに?」

「久留米ケイトウだよ」

『……え?』


ルメは少し考えた。


『……クルト。それって』

「はい。以前、局長が使用された植物型身体です」

『……まだそこにいたんだ』

「はい。試験終了後も、庭師が管理しています」

『……そうなんだ』


「きょくちょー、このお花だったの?」

『うん。前は、そのお花で歩いてたんだよ』

「ええっ! じゃあ、きょくちょーが二人いる!」

『……いや、今はこっちだけだよ』

「でも、お花もいるよ!」

『……いるね』


ルーチェは少し考えた。


「じゃあ、このお花も、きょくちょー?」

『……どうなんだろう』

「お名前は?」

『……ルメ、かな』

「じゃあ、お花はルーだね!」

『……ルー?』

「うん! ルーとルメ!」

『……なんだか似てるね』

「わたしもルーって呼ばれるんだよ!」

『……そうなの?』

「うん! だから、わたしもルー!」

『……同じ名前が二つになっちゃったね』

「三つだよ!」

『……三つ?』

「ルーと、ルメと、きょくちょー!」

『……全部いるんだね』


ルーチェは楽しそうに笑った。


『……じゃあ、ルーちゃんって呼んでもいい?』

「いいよ!」

『ありがとう、ルーちゃん』

「うん!」


ルーチェは久留米ケイトウに顔を近づけた。


「きょくちょー、こっちのお花、元気だよ!」

『……そっか』

「ちゃんと咲いてる!」

『……うん』


ルメは、以前の身体を思い出した。


根を動かして歩いたこと。

土に戻って水を吸ったこと。

花を通して庭園を見たこと。


あの身体は、今も花壇で生きている。


けれど、そこに自分の意識はない。


『……ルーちゃん』

「なあに?」

『その花、どんなふうに咲いてる?』

「えっとね、頭が赤くて、もこもこしてて……」


ルーチェは少し考えた。


「なんか、赤い雲みたい!」

『……赤い雲?』

「うん! 地面から雲が生えてるみたい!」

『……それは面白いね』

「そうでしょ!」


ルメは、自分が以前どんな姿をしていたのか、初めて誰かの言葉で想像した。


それからも、ルーチェは花を見つけるたびに声を上げた。


背の高い花。

横に広がった花。

隣の花に寄りかかっている花。

まだ咲いていないつぼみ。


クルトは花の名前や位置を説明した。


ルーチェは、花が何をしているように見えるのかを話した。


同じ庭園だった。


前回と同じ運搬台。

同じ容器。

同じ、見えない景色。


それでも、ルメの頭の中には、前回より多くの花が咲いていた。


『……ルーちゃん』

「なあに?」

『もう少し、ほかの花も教えてくれる?』

「いいよ!」


ルーチェが次の花壇へ向かおうとしたとき、クルトが時計を確認した。


「局長、予定の三十分が経過しました」

『……え? もう三十分?』

「はい」

『……前回より長いはずなのに』

「前回の外出時間は十五分でした」

『……うん。今回は、ずっと短く感じたよ』

「承知しました」


『……クルト』

「はい」

『次は、もう少し長くできる?』

「安全上の問題がなければ可能です」

『じゃあ、お願い』

「承知しました」


ルーチェが声を上げた。


「じゃあ、次も一緒に行こうね!」

『……うん』


執務室に戻った後、クルトが外出結果を確認した。


「局長、今回の外出はいかがでしたか」

『楽しかったよ』

「前回との違いは何でしょうか」

『……うーん』


ルメは少し考えた。


『前は、何があるか教えてもらったんだよね』

「はい」

『今日は、ルーちゃんが何を見つけたか教えてくれた』

「はい」

『……それが面白かったのかな』

「承知しました」


クルトは記録板を開いた。


「では、改善効果ありと記録します」

『うん』

「改善提案者にも報告します」

『……お願い』


少し間が空いた。


『……クルト』

「はい」

『私、次の外出が楽しみになってきた』

「承知しました」

『……これも改善効果になる?』

「はい」

『……そっか』


一年以上、外に出たいと思わなかった。


外に出ても、何をすればいいのか分からなかった。


けれど今は、次に行きたいと思っている。


『……クルト』

「はい」

『次の身体ができたら、ルーちゃんと一緒に歩いてみたいな』

「承知しました」

『今度は、自分でも花を見たいんだ』

「はい」


クルトは記録板に追記した。


「次期植物型身体での庭園散策を希望」


『……クルト』

「はい」

『それも仕事の報告書に書くこと?』

「局長の生活環境改善に関する記録です」

『……そうだった』


ルメは少し考えた。


『……次は、どんな花になるんだろうね』

「候補の選定を進めています」

『……そっか』


ルメは、まだ見えない庭園を思い浮かべた。


次に花が咲いたら。


今度は、自分で見つけたものを、ルーチェに教えてあげたいと思った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。