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召喚された脳みそ  作者: 花束 ねる


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22/31

第22話 屋外環境の体感を実施します



「局長、外出計画が完成しました」

『おお!』

「承認をお願いします」

『うん。承認する』

「まだ内容を説明していません」

『……そうだった』


クルトは計画書を開いた。


「外出場所は王宮庭園です」

『いいね』

「移動方法は、容器を固定した運搬台を使用します」

『……台車みたいなもの?』

「はい」

『なるほど』

「運搬担当者は二名です」

『二人も?』

「安全確保のためです」

『……そうだね』


「外出時間は十五分です」

『……短くない?』

「初回のため、短時間で実施します」

『……なるほど』

「問題がなければ、次回以降の延長を検討します」

『……次回もあるんだ』

「希望されれば」

『……そっか』


クルトは次の項目を確認した。


「移動経路は、関係者以外の立ち入りが少ない通路を使用します」

『……やっぱり、人に見られない方がいいんだね』

「混乱を避けるためです」

『……そうだね』

「また、移動中は容器に覆いを使用します」

『……覆い?』

「外部から局長の姿が見えないようにします」

『……なるほど』


ルメは少し考えた。


『……クルト』

「はい」

『私、そんなに見せちゃいけないものなのかな』

「局長の存在は、関係者には周知されています」

『……うん』

「ただし、初めて実物を見る者が驚く可能性はあります」

『……ルーチェちゃんも驚いてたね』

「はい」

『……ちょっと気持ち悪いって言われたし』

「はい」

『……そこは否定してくれないんだ』

「本人の感想ですので」

『……そうだね』


クルトは計画書を閉じた。


「以上です」

『うん。承認するよ』

「ありがとうございます」


その日の午後。


ルメの入った容器が、運搬台に固定された。


職員二名が固定状態を確認する。


「固定完了しました」

「移動を開始します」


ゴロゴロゴロ。


『……おお』


車輪の音が響いた。


『……動いてる』

「はい」

『……本当に動いてる』

「はい」


執務室の扉が開いた。


運搬台が廊下へ出る。


ゴロゴロゴロ。


『……クルト』

「はい」

『今、どこ?』

「執務室前の廊下です」

『……そうなんだ』


ルメには何も見えない。


聞こえるのは、車輪の音と職員たちの声だけだった。


途中、誰かの足音が近づいた。


「……何を運んでいるんですか?」

「局長です」


足音が止まった。


「……局長?」

「はい。外出中です」


少し間が空いた。


「……失礼しました」


足音が遠ざかっていった。


『……クルト』

「はい」

『今の人、驚いてた?』

「はい」

『……そうだよね』

「局長の姿は見えていません」

『……見えなくても驚くんだ』

「局長が運搬されているためだと思われます」

『……なるほど』


しばらくして、扉が開いた。


「庭園に到着しました」


運搬台が止まった。


『……外?』

「はい」

『……本当に?』

「はい。王宮庭園です」


覆いが外された。


ルメはしばらく黙っていた。


風の音がした。


遠くで鳥が鳴いている。


『……鳥がいる』

「はい」

『……風も吹いてるね』

「はい」


それだけだった。


外の空気を吸うことはできない。

日差しを肌で感じることもできない。

景色を見ることもできない。


『……クルト』

「はい」

『今、何が見える?』

「庭園です」

『……それは知ってる』

「花壇があります」

『うん』

「庭師が作業しています」

『……ロアンさん?』

「はい」

『そうなんだ』


ルメは以前、久留米ケイトウの身体で、この庭園を歩いたことがある。


土に根を下ろし、水を吸った。


日光を受け、花を通して周囲を見ることもできた。


あのときは、庭園の様子がよく分かった。


今は、何も見えない。


『……クルト』

「はい」

『今、何が咲いてる?』

「確認します」


クルトが花の名前をいくつか挙げた。


『……そうなんだ』

「はい」

『……どの辺に?』

「花壇の中です」

『……うん』


花の名前は分かった。


けれど、どんなふうに咲いているのかは分からなかった。


『……クルト』

「はい」

『私、ここに来たことあるよね』

「はい」

『でも、全然違うね』

「身体の状態が異なります」

『……そうだね』


しばらくして、クルトが時計を確認した。


「局長、予定の十五分が経過しました」

『……もう?』

「はい」

『……そっか』


運搬台が動き出した。


ゴロゴロゴロ。


執務室に戻ると、クルトが記録板を開いた。


「初回外出は、問題なく終了しました」

『うん』

「次回以降も実施可能です」

『……そうだね』

「外出による改善効果を確認します」

『……改善効果?』

「はい。局長のご意見をお願いします」


ルメは少し考えた。


『……外に出られることは分かった』

「はい」

『でも、外に出たって感じは、あんまりしなかった』

「承知しました」

『……それでも、また行きたいかな』

「理由を伺ってもよろしいですか?」

『……うーん』


景色は見えなかった。

風も感じられなかった。

自分では一歩も歩いていない。


それでも、執務室の外には、自分の知らないことがある。


『……次は、何か分かるかもしれないから』

「承知しました」


クルトは記録板に書き込んだ。


「外出の継続を希望」

『……うん』


少し間が空いた。


『……クルト』

「はい」

『ところで、ルーチェちゃんには何て報告するの?』

「改善提案を実施したと伝えます」

『……そうだね』

「外出時間は十五分。安全上の問題はありませんでした」

『うん』

「局長の満足度は、未確定です」

『……そこまで報告するの?』

「改善提案者ですので」

『……そうだった』


クルトは記録板を閉じた。


「娘にも、結果を伝えておきます」

『……お願い』





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