第14話 設置場所を変更します
数日後。
庭園管理部門から、久留米ケイトウの苗が届いた。
「局長、苗が納品されました」
『来た?』
「はい」
『今度こそ?』
「久留米ケイトウ、一鉢です」
『おお』
ルメは少し嬉しくなった。
ようやく植物が来た。
鉢と土だけの状態から、やっと前に進んだ。
『……どんな感じ?』
「赤い花が咲いています」
『うん』
「茎と葉に異常はありません」
『うん』
「全体として良好な状態です」
『……そっか』
クルトは記録板を確認した。
「ロアンが植え付けを済ませています」
『早いね』
「庭園管理部門で作業を完了したそうです」
『……ロアンさんにお礼を言わなきゃ』
クルトは鉢植えを運んだ。
「では、設置します」
『うん』
「予定どおり、窓際に置きます」
『……うん』
少し離れた場所で、鉢が置かれる音がした。
『……置いた?』
「はい」
『……そっか』
ルメは考えた。
同じ部屋にケイトウがいる。
赤い花が咲いているらしい。
土もある。
水も吸える。
日差しも届く。
自分には何も感じられない。
それでも、少し嬉しかった。
『……クルト』
「はい」
『私の近くに置けない?』
「生命維持装置の近くですか?」
『うん』
「日照条件が変わります」
『……少しだけでも』
「確認します」
クルトは鉢を持ち上げた。
そして、生命維持装置の近くに移動した。
「この位置でしょうか」
『……どこ?』
「局長の容器から、近い位置です」
『……うん』
「ただし、窓から離れています」
『……そうだね』
クルトは記録板を確認した。
「この場所では、日照が不足する可能性があります」
『……やっぱり?』
「はい」
『……じゃあ、戻して』
「承知しました」
鉢が再び運ばれた。
窓際に置かれる。
『……ごめんね』
「問題ありません」
『……クルトにじゃなくて』
「植物に対してですか?」
『……うん』
「植物からの応答は確認できません」
『……知ってる』
ルメは考えた。
植物の身体だったとき、自分には土の感触があった。
水を吸う感覚があった。
日差しの暖かさも知っている。
だからこそ、ケイトウを暗い場所に置きたくなかった。
『……やっぱり窓際がいいね』
「はい。生育条件を優先します」
『うん』
クルトは記録板に書き込んだ。
「設置場所、窓際」
『うん』
「一時的に生命維持装置付近へ移動」
『うん』
「日照条件を考慮し、元の位置へ戻しました」
『……そこも書くんだ』
「設置場所の変更履歴です」
『……そうだね』
しばらくして、ルメは尋ねた。
『……クルト』
「はい」
『ケイトウ、今どうしてる?』
「窓際に設置されています」
『……そうじゃなくて』
「何を確認されますか?」
『……元気そう?』
「外観上の異常はありません」
『……そっか』
少し間が空いた。
『……花、どんな形?』
「久留米ケイトウ特有の、扇状に広がった形です」
『……脳みそみたい?』
「類似した凹凸があります」
『……やっぱり』
ルメは考えた。
自分はまだ、その形を見たことがない。
ロアンも、クルトも、似ていると言う。
それなら、きっと似ているのだろう。
『……クルト』
「はい」
『毎日、様子を教えてくれる?』
「生育状況の報告ですね」
『うん』
「承知しました」
『ありがとう』
クルトは記録板に書き込んだ。
「久留米ケイトウ、生育観察を開始」
『うん』
翌朝。
「局長、本日の生育状況です」
『うん』
「花の状態、良好」
『うん』
「葉の状態、良好」
『うん』
「土壌の状態、良好」
『……うん』
「昨日からの大きな変化はありません」
『……そっか』
ルメは少し考えた。
『……明日もお願い』
「承知しました」
翌日。
「局長、本日の生育状況です」
『うん』
「花の状態、良好」
『うん』
「葉の状態、良好」
『うん』
「昨日からの大きな変化はありません」
『……うん』
ルメは考えた。
植物は、毎日劇的に変わるわけではない。
自分がケイトウだったときも、六時間で大きく成長したわけではなかった。
ただ、土にいて、水を吸って、日差しを受けていた。
それで十分だった。
『……クルト』
「はい」
『明日もお願いね』
「承知しました」
クルトは記録板に書き込んだ。
久留米ケイトウ。
設置場所、窓際。
生育状況、良好。
局長への報告、継続。
なお、局長本人による植物の目視確認は、引き続き実施できなかった。




