第13話 納品物に不備はありません
庭園管理部門から、荷物が届いた。
「局長、鉢植え用の物品が納品されました」
『来た?』
「はい」
『ケイトウも?』
「納品物を確認します」
『……うん』
クルトは記録板を手に取った。
「植木鉢、一点」
『うん』
「受け皿、一点」
『うん』
「培養土、一袋」
『うん』
「以上です」
『……ケイトウは?』
「含まれていません」
『…………』
ルメは考えた。
鉢がある。
土がある。
受け皿まである。
だが、肝心の植物がない。
『……苗はどうなったの?』
「現在、庭園管理部門に確認中です」
『……そうなんだ』
クルトは納品記録を確認した。
「数量に相違はありません」
『……うん』
「破損もありません」
『……うん』
「納品物に不備はありません」
『……ケイトウがないけど』
「ケイトウは今回の納品対象に含まれていません」
『……そうだね』
クルトは記録板に書き込んだ。
「納品確認、完了」
『…………』
ルメは少し考えた。
何も間違っていない。
ただ、何も始まっていない。
『……クルト』
「はい」
『鉢はどこに置いたの?』
「局長室の保管場所です」
『……土は?』
「同じ場所です」
『……見せてもらっても、わからないよね』
「はい。現在の身体には視覚がありません」
『……知ってる』
クルトは記録板を確認した。
「必要であれば、物品の状態を説明します」
『……お願い』
「植木鉢は一つです」
『うん』
「受け皿も一つです」
『うん』
「培養土は袋に入っています」
『……うん』
「以上です」
『…………』
ルメは考えた。
説明は正確だった。
正確すぎて、想像する余地がなかった。
『……鉢って、どんな感じ?』
「植物を栽培するための容器です」
『……そうじゃなくて』
「形状についてでしょうか」
『うん』
「上部が開いた容器です」
『…………』
ルメは質問を変えた。
『……かわいい?』
「評価基準が不明です」
『……そうだよね』
しばらくして、庭園管理部門から連絡が届いた。
「局長、ケイトウについて回答がありました」
『どうだった?』
「現在、使用可能な苗を確認しているそうです」
『……苗がないの?』
「局長室での栽培に適した状態のものを選定中とのことです」
『そっか』
「ロアンから伝言があります」
『何?』
「鉢と土は逃げないから、慌てるな、とのことです」
『……はい』
クルトは記録板に書き込んだ。
「苗の選定、継続中」
『うん』
ルメは考えた。
ケイトウの身体を借りたときは、植物になるだけで精一杯だった。
今度は、植物が来るのを待っている。
一年以上、脳だけで過ごしてきた。
待つことには慣れているつもりだった。
だが、土が届いたと聞いてから、少し落ち着かない。
『……クルト』
「はい」
『鉢と土、先に準備しておいてもいい?』
「ロアンに確認します」
『……お願い』
しばらくして、回答が届いた。
「局長、ロアンからです」
『うん』
「苗が決まってから植え付けるので、土は袋のまま保管するように、とのことです」
『……そっか』
クルトは記録板を確認した。
「現時点で実施可能な作業は、すべて完了しています」
『……うん』
「次の工程は、苗の選定結果を待つことです」
『……うん』
クルトが納品書を整理した。
植木鉢、一点。
受け皿、一点。
培養土、一袋。
納品確認、完了。
なお、植物は未納品だった。
行政改革局長室の鉢植え設置計画は、予定どおり準備段階にあった。




