第11話 土の持ち込みには許可が必要です
翌朝。
行政改革局長の机に、庭園管理部門からの報告書が届いた。
「局長、庭園管理部門から回答がありました」
『土の件?』
「はい」
『どうだった?』
「局長室への土壌搬入について、条件付きで対応可能とのことです」
『おお』
「ただし、設置目的の確認を求められています」
『植物を育てるため』
「栽培する植物は?」
『まだ決まってない』
「栽培開始予定日は?」
『未定』
「必要な土壌の量は?」
『……未定』
「設置場所は?」
『……これから考える』
「承知しました」
クルトは記録板に書き込んだ。
「現時点では、搬入申請に必要な情報が不足しています」
『……そうなるよね』
局長は考えた。
土が欲しい。
それだけでは、王宮の備品は動かせないらしい。
「なお、庭園管理部門から追加の質問があります」
『何?』
「局長室で植物を育てる理由についてです」
『……理由?』
「通常、植物は庭園または温室で管理されます」
『うん』
「局長室で栽培する必要性を説明してください」
『……近くに土が欲しい』
「植物の栽培目的とは異なりますね」
『……そうだね』
クルトは記録板に書き込んだ。
「局長」
『何?』
「土壌を局長室に設置しても、現在の身体では利用できません」
『……知ってる』
「根がありません」
『……知ってる』
「土壌から水分や養分を吸収することもできません」
『……それも知ってる』
局長は少し考えた。
『……でも、次に植物の身体になったら使えるかもしれない』
「次回の実証試験は庭園で実施する予定です」
『……そうだった』
クルトは記録板を確認した。
「ただし、局長室での栽培そのものは禁止されていません」
『本当?』
「必要な条件を満たせば可能です」
『じゃあ、やろう』
「何を栽培しますか?」
『……ケイトウ』
「久留米ケイトウですね」
『うん』
クルトは少し間を置いた。
「局長」
『何?』
「久留米ケイトウは一年草です」
『……知ってる』
「現在は次の栽培計画を検討する時期です」
『うん』
「栽培開始までに、種子または苗の調達が必要です」
『……そっか』
局長は考えた。
ケイトウを育てる。
自分が入るためではない。
ただ、同じ植物が近くにある。
それだけでも、少し違う気がした。
『……クルト』
「はい」
『鉢植えでもいい?』
「鉢植えですか?」
『うん。大きな花壇じゃなくていい』
「それなら、搬入量を抑えられます」
『管理も楽?』
「土壌の飛散や排水への対策は必要ですが、花壇より容易です」
『じゃあ、鉢植えにしよう』
クルトは記録板に書き込んだ。
「設置目的は、局長室における植物の試験栽培」
『うん』
「栽培品目は久留米ケイトウ」
『うん』
「設置方法は鉢植え」
『うん』
「管理責任者は?」
『……私』
「現在の身体では水やりができません」
『…………』
「施肥もできません」
『…………』
「鉢の移動もできません」
『……クルト』
「はい」
『管理責任者って、何をする人?』
「植物の生育管理を行う者です」
『……じゃあ、ロアンさんに相談しよう』
クルトは記録板に書き込んだ。
「庭園管理部門への追加依頼ですね」
『うん』
「依頼内容は、局長室の鉢植え管理」
『……お願い』
クルトは少し考えた。
「局長」
『何?』
「庭園管理部門から、管理を引き受けられないとの回答があった場合は?」
『……そのときは考える』
「承知しました」
しばらくして、クルトが報告書をまとめた。
「局長、申請書の案ができました」
『早いね』
「確認をお願いします」
『読んで』
クルトは読み上げた。
「行政改革局長室における久留米ケイトウの試験栽培について」
『うん』
「目的。局長室の環境改善、および植物の生育観察」
『うん』
「栽培場所。局長室内」
『うん』
「管理方法。庭園管理部門と協議」
『うん』
「期待される効果。局長の職場環境改善」
『……うん』
クルトは最後の項目を読み上げた。
「なお、局長本人による栽培管理は、身体的制約により実施できない」
『…………』
「以上です」
『……そこ、必要?』
「管理体制を明確にするために必要です」
『……そうか』
局長はしばらく考えた。
『……じゃあ、それで出して』
「承知しました」
申請書が提出された。
行政改革局長室への鉢植え設置。
栽培品目、久留米ケイトウ。
管理担当者、未定。
なお、申請者本人には、現時点で水やりを行う能力がなかった。




