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長者の旅路、果ての思い 〜旅に出よう。どこかの誰かと出会うために〜  作者: 一般通過純愛スキー
出会い フェルディナント家

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2-5 魔法

「魔力とは一体何か、それすなわち世界に満ちる命の力だ」


 フェルディナント兄妹の師としての初仕事は、最も基本的なことを教えることから始まった。


「なあルクス、そういう小難しい話いるのか?俺達もう魔法発動させてるんだからさ、そういうのよくないか?」


 この男には多少思慮の足りない部分があることは分かっていたが、私の専門分野でこの物言いをされるのは非常に苛つくものであった。


「ほう、そうかそうか、既に気分は一端の魔法使い気取りか。ではエドワード、今すぐ守護の魔法を発動させてみせてくれ。無論魔道具なしでだ」

「えっ!いや、それはちょっと無理というか、わかんねえっていうか、いやぁ」

「たわけが。魔道具というのは魔法の発動手順を簡略化する補助装置だ。手を引かれてようやく歩ける赤子が、一人で歩けると言うのかお前は。基礎を知らずに闇雲に鍛錬をしても意味はない、それは剣も同じだろう」

「はい、そうです、すんません」

「うふふ、お兄様ったら、ちゃんと真面目に聞かないといけませんよ」


 妹の方は師に従順であってくれるようだった。


「魔力は、命の器にあるものだ」

「命の器?」

「命とは生物が持って生まれる一種の資源と考えるのが分かりやすいだろう。生きるだけでも少しずつ使われ、怪我や病気を治すためにも使わる。その怪我や病気が大きなものであれば無論使われる命も多くなる。持って生まれた命の総量が少ないか、大病や大怪我で若いうちに命を使いすぎたか、早死にする人間の特徴だ。つまり長生きする人間はこの逆となる」

「へー、そうなのか」

「ねえルクス、命の器にあるのは自分の命なのよね?でも魔力は世界に満ちる命の力で、それが私達の命の器に?」

「いい所に気がつくな。エドワード、お前も見習いなさい。言われたことを漫然と聞くな。その意味を考える癖をつけなさい」

「へーい」

「えへへ、褒められちゃった」

「さて、命の総量は生まれた時から決まっているものだ。分かりやすくするためにグラスと、水、そして油を使って説明しよう」


 グラスに並々と水を注ぐ。


「グラスが命の器、水が命、油が魔力だ。魔力は油のように固まっているものではないから、あくまで喩えとして見ておいてくれ。まず器に満ちている命が使われると減る」


 水を少し飲む。


「普通の人間はこれだけだ。水が少しずつ減っていき、無くなると死ぬ。しかし特殊な体質を持つ者達の器にはここで変化が起きる。減った分の水を補充しようとする働きを見せるのだ。減った水とはすなわち命、命を補充するには別の命を取り込まなければならない。食事や呼吸を通して自分の外の命、すなわち世界の命を取り込む」


 グラスに減った水の分だけ油を注ぐ。


「自身の命の器に取り込んだ世界の命の力、これが魔力と呼ばれるものの正体だ。そしてこの魔力を扱い世界に働きかける手段を魔法と呼ぶ」

「魔力は、命の力」

「さてここでお前達に質問をしてみよう。優れた魔法使いと聞いて、思い浮かべるのはどんな人物だ?」

「うーん、エルフとか、竜人とか」

「よぼよぼのお爺様もでしょうか」

「そうだな。では、なぜそのような人物像が定着したのかは分かるか?エドワード」


 ここまでの話を理解したならば答えは出るはずだ。


「まずは共通点を見つけなさい。そしてしっかり考える」

「ええっと共通点っていうと、長生きってことくらい?エルフは千年生きるっていうし、竜人も何百年って生きるんだよな。よぼよぼの爺さんも、俺達よりはずっと長生きしてる」

「いいぞ、その通りだ」

「つまり、長生きしてるってことは自分の命を沢山使ってるわけで、だから器に入る魔力の量が多い。魔力が多いってことは強力な魔法を使える」

「満点だエドワード。補足しておくと、器の大きさや命の総量、魔力を取り込む力には無論個人差がある。だから時に人間であっても稀に長命種に匹敵するほどの魔法を使える者が現れたり、逆に長命種でも強力な魔法を使えない者もいたりする」

「よしっ」

「この話は一般論だ。ここからは具体的にお前達の話に入ろう。まずエドワード、お前の魔力量は現状それなりといったところだろう。ただ歳を考えると大したものだ。恐らく器が大きく、魔力を取り込む力が強いのだろう」

「おお、てことはさ、俺って才能滅茶苦茶あったりするのか!?」


 調子に乗りそうだからあまり言いたくないが、事実は曲げられない。


「その通りだ。順調に育てばかなりの魔法使いになるだろう」

「うおおお!よっしゃあ!」

「次にセシリー、お前の方は兄に比べて魔力量が……」


 少し気の毒で言い淀む。


「ど、どうなの?お兄様に比べて……?」

「はるかに、多い」


 そう、多少どころではなく、はるかにだ。


「そ、そうなんですの?それならそんなに勿体ぶらなくてもいいじゃない」

「まあ、エドワードの喜びように水を差すようで悪いなと」

「おいおい、そんなことで気分を害したりなんてしないって。セシリーの才能が凄いってことだろ?むしろ喜ばしいことじゃねえか」

「いや、そうか、そうだな」


 少しエドワードをみくびっていたようだ。反省せねばならない。


「なぜセシリーの魔力がそれほど強いかというと要因は恐らく二つ。まず、幼い頃病弱だったこと。それにより命の消費量が増えて、取り込める魔力量が増えたのだろう。反してエドワードは随分健康体だったようだしな」

「まあな、風邪もひいたことないぜ」

「ねえルクス、それってもしかして、私早死にしてしまうってこと?」

「何っ!?」

「いいや、そんなことはないさ。言っただろう個人差があると。お前の持って生まれた命は随分多いものだったのだろう。これからも普通に生きられるよ。両親に感謝することだな」

「そうなのね、よかった」

「ああ、本当によかったな」

「二つ目だがな、これは恐らく私がセシリーに施した治療の副次効果だ。血は全身に命を運ぶものだ。性質の近い魔力も同時に血に乗って身体を巡っている。私の魔力量は膨大なものでな。一滴の血に含まれた魔力を、最終的にセシリーが取り込んでしまったようだ」

「まあ、じゃあ私の中には、あなたの魔力が流れているのね」

「ん?じゃあお前の血を飲んだら誰でも魔力が増えるんじゃねえか。なあルクス、俺にもちょっと血を分けてくれよ」


 くねくねと気持ち悪い動きで擦り寄ってくる。おい、妹を見てみろ、引いてるじゃないか。


「ええいやめんか気色悪い!そんな単純な話ではないんだよ。言っただろう、私の魔力量は膨大だと。一滴でも飲めば人間には耐えきれぬほどの魔力がその体内で暴れ狂うぞ。そうなってみろ、魔力の暴走で身体は破裂して即死だ」

「え゛っ」

「セシリーが無事だったのは、そうならないよう私が体内に入れた魔力を操っていたからだ。治療後も毒の無効化に使った分を除き、大部分は体外で霧散させた。治療中に全身を巡っていた私の魔力のほんの欠片を命の器が取り込んだに過ぎない。だから副次効果と言ったんだ。本来私の血はお前達にとって猛毒なんだよ」


 人の身体の仕組み上、魔力の増加はそこまで急激に起こらないものだ。こんな危険な行為、やらないに越したことはない。


「そうか……そう美味い話はないか」

「案ずるな。歳と共に魔力量は増えるのだ。まだお前は十六だろう?これからだよ」

「そうだな、うん」

「セシリーにもすまなかったな。他人の力が身体の中にあるのはあまりいい気がしないだろう。やむを得ぬ事態だったとはいえ悪いことをした」

「あら、謝ることなんてないわ。だってそれって、あなたの優しさで私が満たされてるってことじゃない。すごく素敵よ」


 そう言って笑う顔は、なんだか、こう、少し怖かった。


「ルクス、セシリーは、なんだ、こういう子なんだ。気に入ったものはとことん愛して、それこそそのうち食っちまうんじゃないかってくらいでな」

「あら、失礼ねお兄様。私はただ、大好きなものに大好きと伝えているだけよ。ルクスも同じ。あの時、魔力を通して伝わってきたあなたの有り様。太陽のような、月のような、星のような、あなたはきっと希望の光。とっても綺麗で素敵な方だって、分かってしまったんですもの」

「そうだな、俺にも分かるぞ。お前はいいやつだ!」

「お前達、褒めても何も出ないぞ」

「うふふ、やっぱり照れ屋さんね」


 まったく、本当に敵わんな。



 

「話が逸れてしまったな。魔力の説明はここまでだ。ここからは実践に入る」

「待ってました!」

「二人とも、これを持ちなさい」


 テーブルに置いていた木板を渡す。


「木の板に、何か書かれてるわ」

「分かったぞ。この板が、あの短剣とか指輪と同じってことだろ」

「察しがいいな」

「で、これはどんな魔法が使えるんだ」

「では見せてやろう」


 エドワードに渡した木板を取り上げ、あえて何も考えずに魔力を流す。無色の魔力が木板に書かれた法則式によって形を変える。そこに現れたのは小さな光の球だった。


「この通り、光る」

「おおっ、でっ、でっ、この球がどうなるんだ?」

「どうなるも何も、光るだけだ」

「は?」


 込めた魔力を使い切り、光球は少しずつ消えていった。


「なんか、地味すぎないか?もっと火を出せるとか、風を起こすとか、そういうのないの?」

「ほんっっっっとうに、阿保だなお前は」

「何だと!ってかお前俺に阿保阿保言いすぎだろ!」

「阿保に阿保と言って何が悪い」

「お兄様、今のは私もお兄様が悪いと思うわ」

「セシリーまで!?」


 妹にまで言われては形無しだ。


「私達はこれから魔法を学ぶのよ。なんの知識も、技術もない私達がそんな魔法を使ったら危ないと思わない?」

「ぐっ、それは確かに、そうだな」

「もしもそれで誰かを傷つけるようなことになってしまったら目も当てられないし、きっと私達は自分を責めてしまうわ。だからね、これは意地悪なんかじゃなくて、ルクスの優しさなのよ」


 妹の方は理解が早くて助かるな、本当に。


「魔法の発動には大きく分けて四つの過程がある。魔力を活性化させる励起。発動させる魔法を決める形成。形成した魔力を放出する発動。発動した魔法の操作。この木板に書かれたものは法則式と言ってな、形成を肩代わりするものだ。この道具の目的は、操作を安全に訓練することにある」


 言って再び木板に意識をやる。


「魔力は普段なんの振る舞いもしないただそこにあるだけのものだ。それを休眠魔力と呼ぶ。その休眠魔力を力として扱うために叩き起こす。これが励起」


 励起した魔力を木板に流す。


「励起させた魔力にどんな力を持たせるかを決定し、そのように魔力を変換する。形成」


 法則式に従い魔力がその形を変える。


「形成された魔法を放出し、世界に影響を与える。発動」


 光球が出来上がる。今度は先ほどより大きなもの。


「発動した魔法を状況に応じて操る。操作」


 光球をより明暗させながら飛び回らせる。


「これら全ての過程を意図した通りにこなせて、初めて魔法を使ったといえる。もしも形成を間違えると、思いもよらない危険な魔法が発動するかもしれん。そうなった時でも、操作さえ出来れば被害を抑えられる。だからひよっこは、安全な魔法で操作の訓練をするべきなんだ。分かったか、阿保」

「はい……」


 しょぼくれたエドワードに、少し言いすぎたかと反省する。


「そう落ち込むな。この訓練で操作をある程度習熟すれば、その次こそお前の期待する魔法らしい魔法を教えてやる。だからまずは、一番大事な基礎からだ。いいな?」


 再び木板を握らせ、肩を叩いた。


「うっす!よーし、やってやるぞ!」

「一緒に頑張りましょう、お兄様!」

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