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長者の旅路、果ての思い 〜旅に出よう。どこかの誰かと出会うために〜  作者: 一般通過純愛スキー
出会い フェルディナント家

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6/20

2-3 才能

「よおルクス、何やってんだ」

「大したことではないよ」


 あてがわれた部屋で道具の手入れをしていたところに声をかけられた。エドワード、あの日助けた男だ。あれから私は彼ら兄弟の家で厄介になっていた。


「ルクスの持ってる道具は特殊なものなんですって。邪魔をしてはいけないわ、お兄様」

「なんだ、セシリーは知ってるのか」

「ええ、ルクスがお話してくれたわ。なんといっても私達は仲良しですから」


 エドワードの妹セシリア、愛称はセシリー。命を助けたからかやたらと私に懐いてきていた。二人はフェルディナントという貴族の家柄だった。一命を取り留めたセシリーだったが、身体は依然として弱っていたため経過観察として彼らの家に留まっていた。




「偉大なる魔法使い殿!このエドワード・フェルディナント、伏して御礼申し上げる!」

「私もですわ。本当にありがとう、素敵な魔法使いさん」

「だからやめろと言っているだろうまったく……ルクスだ。偉大だの素敵だの小っ恥ずかしい呼び方はやめろ。あとお前、エドワード、その話し方もやめろ、普通でかまわん」

「いや、しかし……」

「しかしじゃない!恩人だってんなら聞け!」

「わ、分かった……」

「なんにせよだ、まずは弱ったその娘の身体を」

「セシリーですわ」

「その娘の」

「セシリーですわ!」

「……セシリーの身体を回復させねばならん。毒の心配はもうないが、その状態で病になどかかろうものならまた命の危機になりかねん」


 人間の身体は、弱るのはすぐだが癒えるには時間がかかるものだ。


「そうなのか!よしセシリー、お前はしばらく寝てるんだ!屋敷に帰っても俺や使用人が全て世話するからな。動くんじゃないぞ!」

「お兄様、それはちょっと嫌だわ……」

「阿保かお前は。動けないわけではないんだ。適度に食べて適度に動いて適度に寝る。回復への一番の近道は往々にしてこれだよ」

「そ、そうか」

「さあ、飯にするぞ。兎にも角にもまずは食う、それからだ」




 フェルディナント家に二人を送り届け、経緯を家人に説明すると私は賓客として迎えられた。あの日はフェルディナント家と敵対する勢力権での晩餐会が開かれていたようで、所領ほどの護衛戦力を連れて行くことができず、当主と奥方に重点的に割り振られていたため兄妹の方が手薄になっていたらしい。やむを得ず別行動になったところを狙われたようだが、それも敵対勢力によって仕組まれたものだったのだろう。

 そんな事情と兄妹の訴えにより、旅の魔法使いという大層怪しい身分の私は、彼らの父ランデルと母シャーロットの信頼を得るに至り、客人兼セシリーの治療師としてフェルディナント家に居座ることとなった。


 フェルディナント家の世話になること半月、この兄弟の人となりも少しずつ分かってきた。

 兄は多少過剰なほど妹思い。歳は十六。家族を愛し、家に誇りを持っており、貴族家の跡取りという自身の立場を良く理解している。言動に粗野な部分も少しあるが、それが人間的な魅力にもなっている。いずれは立派な当主になるだろうと目されている。

 妹は天真爛漫。歳は十二。兄の過保護さに若干辟易としつつも、その思い自体は素直に受け止めているようで兄妹仲は良好。幼年期は身体が弱く病気がちだったためにエドワードは過保護になったそうだ。貴族家に生まれたということを除けば年頃の少女らしい可憐な娘だった。

 私と、私について回る妹と、その妹に着いて回る兄。そんな光景が半月でフェルディナント家内で馴染みになったのであった。


「特殊な道具、もしかして魔道具ってやつか?」

「そうだ。見てみるか?」

「いいのか!?」

「かまわんよ。危険なものは触らせられんが、今出しているものは比較的安全な物ばかりだからな」

「ルクス、私も、私もいいかしら?」

「勿論。そうだな、これなんかどうだ」


 一振りの短剣を兄妹に渡す。あの日使ったものだ。


「これが、魔道具?なんの変哲もない短剣にしか見えないな」

「私は分かるわよお兄様!きっとこの柄頭の水晶、これに秘密があるんだわ!」

「当たりだセシリー、いい目をしているな。その短剣は水晶に予め魔法を仕込み、瞬時に発動できるようにしているものだ」


 そう、この短剣は父と過ごしていた時に作った剣が元になっている。長い間愛用する内に、鉄自体に私の魔力が馴染み使い勝手の良い一品へと成長したのだ。何度か打ち直したせいで鋼は目減りし今や短剣となってしまったが、それでも私と共に旅をしてきた相棒と呼ぶべき物だ。


「へー、なるほどな。今は何の魔法が入ってるんだ?」

「今は単純な守護の魔法だ。魔力を流せば自動的に魔法が発動する。剣も、獣の爪も、猪の突進も防ぐ優れ物だぞ」

「すげーな!剣と守護魔法で正に攻防一体ってやつか!くーっ、かっこいいぜ!」

「もうお兄様ったら。男性は本当にこういうのが好きね」


 こればかりは男の本能のようなものだろう。武器とは力の象徴だ。女性を、家族を守る役割が染み付いた男の性だ。かくいう私も刀剣の類には目がない。しかしお嬢様には少々無骨で実用性を重視した剣がつまらんのも確かだろう。


「ではセシリー、こんなものはどうかな」


 小指にはめていた指輪をセシリーに見せつける。


「青い宝石の指輪、こんなに小さなものも魔道具なの?」

「ああそうだ。この宝石が何か分かるか?」

「サファイヤ、よりは少し透き通った青ね。アクアマリンかしら」

「正解だ、いや本当にいい目をしているな。では見ておけよ」

 

 指輪にほんの少しの魔力を流す。アクアマリンは水の宝石。船乗りのお守りとしても使われるほど水との相性が良い宝石だ。その特性と、私が指輪に施した彫り込みを回路に見立てれば、ほんの少しの魔力が増幅されて水の魔法として現出する。


「わあ、水だわ!何もないところから水が!」

「うおおおマジかよ!なんか、これぞ魔法って感じだな!」


 いくつになっても自分の作った物を褒められるのは気持ちのいいものだ。


「熟達すればこんなこともできるぞ」


 水を操り様々な形に変化させる。鳥が羽ばたき、獅子が咆哮し、踊り子が舞う。さながら水の劇団と言うべきか。目まぐるしく形を変える水はまさに変幻自在。この自由さが水魔法の長所だろう。


「綺麗……」

「ああ、こんなの見たことねえ……」

 

 魔法の真髄とはすなわち精緻な魔力操作にあると私は考える。魔力が大きくても、規模の大きな魔法を使えても、それを十全に使いこなせてこそ一人前の魔法使いだろう。それは父から受け継いだ思想でもある。それ故私は生まれてこの方魔力操作を極めることに余念がなかった。かつて創作に熱中したことも一役買っているのだろう。私のそれは父にして見事と言わせるほどのものであった。

 ひとしきりの演目を終え、水の祭典は終幕を迎える。最後は2人の顔の周りを舞わせた後、ほんの少しのいたずら心で、ぽかんと開いた口に飛び込ませた。


「んんっ!んー!」

「んー!んー!」

「飲み込めばいい、ただの水だよ」


 目をぱちくりとさせ慌てた兄妹に言ってやる。二人ともハッとして水を飲み込んだ。


「おまっ、何すんだよ!」

「そうよ!ひどいわルクス!」

「ハッハッハッ、すまんすまん。短剣も指輪も、愛着がある私の自信作でな。褒められて調子に乗ってしまったよ。許してくれ」


 それは魔法使いとしての性か、あるいは家事師、彫金師としてのものか。いやきっと全てだったのだろう。


「自信作?じゃあなんだ、これはルクスが作ったものなのか?」

「そうだよ」

「このよく切れそうな鍛冶仕事も?」

「勿論」

「宝石の切り出しと磨き、指輪の彫り込みも?」

「だからそうだと言ってるだろう」

「魔法使い、鍛冶師、彫金師に治療師、お前、何でも出来るんだな……」


 褒められるのは悪い気分ではないが、あまり過大評価されるのもな。


「何でもということはないさ、出来ないことも沢山ある」


 本当に何でも出来るというなら、私の旅はもっと愉快なものになっていただろうさ。


「そうか。いやそれにしてもいい出来だぞこの短剣。鍛冶師としても一級品じゃないか」

「どうなのだろうな。私も自身の腕にそれなりの自負も誇りも持っているが、その道の専門家に比べればまだまだだろうさ」


 人間より長生きしているとはいえ、一つを極めたわけでもなく、色々と手を出している上に旅の身だ。まだまだ精進すべきだろう。


「まあ確かに、とんでもない自信家よりちょっと謙虚なぐらいの方がいいかもな。なあ、魔道具の使い方ってどんな感じなんだ?」

「どんな感じと言われてもな。こう、自分の中に流れる力に集中するんだ。血と同じように魔力も全身を巡っている。その魔力の流れを魔道具と繋げるんだが、分かるか?」

「んん?うーん、むむむっ」

「いや、すまん分かるわけがなかったな。そう一朝一夕に人間に魔法を使う感覚が……」

「こうかっ!」


 発動した。それは私が使うよりもはるかに弱々しい魔法だったが、紛れもなく守護の魔法だった。


「なん、と」

「よっしゃあ!これ、出来てるよな!魔法使えてるよなルクス!」

「あ、ああ、発動している」

「よおし魔法使いのお墨付きだ!」

「お兄様!ずるい、ずるいわ!私もやってみたい!」

「お、おいっ、危ないぞ。剥き出しの刃物なんだから。ほら、しっかり握れよ」

「ありがとうお兄様。ねえ、お兄様はどうやったの?」

「いや、ルクスの言う通りにやっただけだ。身体を意識したら、なんとなく感じる、気がするような何かを剣に流してみた。そしたら使えた」

「分かった、やってみる。むむむむむっ」


 呆然としている間に妹の方も挑戦していた。いや、流石にこちらも使えるなんていうことはあるま……


「出来たわ!」

「馬鹿な!」


 いや、確かに出来ていた。それも兄より強固な魔法だった。


「どう、どうルクス!」

「使えて、いるな」

「やった!」

「やったなセシリー!」


 本来人間にとって魔力を感じることも操作することも難しいはずだ。偶然出会ったこの兄妹が天才というものだったとは。分からんものだな、世界というのは。

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