【4】裏話:『竜核と若竜』
「あの山が、我々の竜核だとする」
聖白竜教皇が指さしたのは、領主館の窓から見える、この地方でも最高峰の山脈だった。
「で、これがあの仔の竜核」
ついで彼は、退室したメイドが置いていった砂糖壺から風魔法で一粒を持ち上げて見せた。
―――紅茶に入れずとも、水滴ひとつで溶けて消えてしまう、なんとも儚く白い一粒だった。
「私もね、できるだけのことはするよ。過去に似た症例がないか、全大陸間大戦前も含めて現存するあらゆる文献を弟子たちに調べさせている。もちろん、他の竜人族に助言を求める書簡も送った。でもね、」
腰まである白銀の長髪が特徴的な佳人は、同じ色の睫毛を伏せた。
「今のまま、何もしなければ、あと十年、だ。あの仔に残された日々は。ならば、我々が今すべきは、また白い壁の中に、あの仔を、ポレッタを閉じ込めることじゃない」
先程まで各所からの返答書簡を読み続けていた眉間を揉みほぐし、背もたれにぐったりと寄り掛かって、大陸一の名竜医たる聖白竜教皇は、甥っ子竜を見やった。こんなことになるならば、この仔を看取り役に選んだりしなかったのに、と。
―――妹と義弟は、千の年月を経た老竜がいると考えて、竜族としての生き方を看取りを通して考えさせるつもりだったらしいが……。これは、ポレッタは、まだほんの百歳の若造には荷が重い。
「……今の生活があの仔にとって幸せなのだと本人が言っているんだ。その幸せを守ってやるのが、我々年長者が今一番すべきことだ」
分かったかい? と甥っ子竜を覗き込んだ聖白竜教皇に、若竜は小さく頷き、部屋を出て行った。声を出せば、零れるものが、その紫紺眼に満ちていた。
***
ちなみに同時刻、件の幼竜は領主館の厨房に潜り込み、病人食は飽きた、ホクホクジャガ芋と領地特産のコクがあるチーズを使ったシェパーズパイが食べたいと、商会受付で何度か会ったことのある領主館料理長におねだりをしていた。
病室から脱走した人生謳歌幼竜の不在に気付いた若竜が必死に彼女を呼び探す遠吠えに、ヤバッという顔をポレッタがするのは、この数分後である。




