↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生贄まであと一週間  作者: 猫宮さかな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/6

第4話 花嫁まであと四日!~時間はないけどお見舞いに行く~

「花ちゃんおはよう」

 蔵の前で林のおばさんがにこやかに声をかけてきた。

 その後ろ、離れたところに木島のおばさんがいる。今日も私人気者だな。

 今日も笑顔で挨拶をかわして、いつもどおり村の散策を始める。でも、いつもと違って今日は目的地がある。


 鳥居のほうに向かう途中の坂の上。そこが坂上さんの家。名前の通り坂の上。この村の人たちは大体そういうわかりやすい苗字だった。苗字つけたときからずっとここに住んでるんだろうな。変な神様信仰でおかしくもなるわ。

 坂上さん、旦那さんのほうは村役場の職員だし、その両親ももう亡くなっているから、この時間は留守か奥さん一人だけかのどっちか。ここに来る途中、今日もいろんな人に会ったけど、やっぱり坂上の奥さんの姿はなかった。だから、たぶん、家にいるはず。


「坂上さん、います?」

 カララと音を立てて玄関を開ける。田舎だから基本的に鍵は開けっ放し。不用心ではあるけど、村中顔見知りの状態で空き巣に入るような人はいないんだろう。

 玄関から顔をのぞかせてみると、奥からか細い咳が聞こえた。返事はないけど、中に人がいるのは確実だから勝手に上がり込む。このへんも田舎だから許されることだろう。いや、田舎だからって許されていいのか疑問はあるけど。


「……坂上さん?」

 音が聞こえた部屋を覗き込んでみると、坂上の奥さんが一人で寝込んでいた。他に人の気配を感じないから旦那さんはやっぱり留守なんだろう。

「あ、花ちゃん……」

 もともと色白なのに、今日はいつもよりもさらに青白い顔をしてる。やっぱ坂上の奥さんをみんな酷使しすぎて、体調崩してんじゃん。可哀そうに。

 奥さんが上体を起こそうとするのを見て、慌てて身体を支えた。

「ごめんね、おばさんちょっと体調が悪くて……何か御用?」

 青白い顔で微笑む奥さん。なんも悪くないから謝らなくていいのに。

「昨日、姿が見えなかったからどうしたのかなって思って……お見舞いに」

「お見舞いなんて、そんな気にしなくていいのに……ごめんね、ありがとう」

 ってか、こんなに体調悪そうな奥さん放置して、旦那さんは仕事してるの? 誰も看病とかしてあげないの?


「……謝るのは、私のほうでしょ?」

 そんなつもりなかったけど、言葉が勝手に出てきた。私のせいだって自覚はあるけど、それを村の人に言うのはよくないって思ってたんだけど。だって、見張られてる自覚があるって言わないほうがいいじゃん。逃げるためには。でも、なんか、悪くないのに何度も謝る奥さんを見てると、勝手に出てた。

「私のことを見張るために無茶させられて具合悪くなったんでしょ? だったら謝るのは私のほうでしょ」

「……花ちゃん……」

 奥さんがちょっと驚いたように私の顔を覗き込む。バレてないと思ってたんだから、そりゃ驚くよね。ここから村の人に言われたらまずいよなーでもなー奥さんの悲壮感がやばくて放っておけない。

 バレたらどうしよっかなーを悩んでたら、奥さんが優しく頭を撫でてくれた。

「花ちゃんは悪くないのよ。悪いのは、ほんとは私たちなんだから。自分勝手なことをしているこっちが悪いんだから」

 ちょっと、おどろいた。

 この人、自分たちのしてることが間違ってる自覚あるんだ。


 そういえば坂上の奥さんは元々村の外の人で、嫁入りしてきたって話だった。だから扱われ方がちょっと雑だって。だからあんな酷使されてるんだって、理解した。理解はしたけど、納得はできない。外の人だから雑に扱っていいって何様なんだ。

「ごめんね花ちゃん。花ちゃんは何も悪くないのに、こんなことになって……」

 奥さんが悲しそうな顔でまた謝罪をする。奥さんのせいじゃないのに。

 うまく言葉が返せなくて、そっと奥さんの手に、手を重ねる。

「奥さん悪くないのに……」

「ううん、私も悪いのよ」

 それでも奥さんが絶対にひかない。静かに首を横に振って言葉を続ける。


「だって、花ちゃんが来なかったら私が花嫁になるはずだったのよ」


 そのためにこの村に連れてこられた。

 けど、私よりも若い女の子がたまたま迷い込んだから、その子を花嫁にすることになった。

 役目がなくなった私は、村の中で未婚で年頃の男の嫁に。


 奥さんは大体そういう感じのことを話してくれた。

 なるほどね、余所者だから扱いが悪くて、あんな酷使されてたのか。

 若者だから酷使されてるのかとも思ったけど、坂上の奥さんより若そうな林のお姉さんとか全然見ないから変だなって思ってたんだよ。

 それに、いつも何故か申し訳なさそうな表情でこっちを見てた。

 重ねた手に少しだけ力を込める。

 奥さんが驚いたように顔を上げるから、その瞳をじっと見つめる。

「絶対に、奥さんは、悪くないよ」

 そんな申し訳なさそうな顔しなくていいよ。

「迷い込んだ私が悪いし、そもそも奥さんを花嫁として連れてきた村の人が悪いし、」

 奥さんが「言わないで」と小さく首を横に振っているけど、やめてあげない。

 あなたも本当はそう思ってるでしょ? ずっと言えないでいるだけで。

 だから、私が言ってあげるよ。


「全部この村が悪いんだよ」


 手をつかまれて耳をふさげない奥さんは、耳の代わりに目をぎゅっとつむった。

 聞かなかったことにしたいよね。こんなこと口に出したら何をされるかわからないもんね。よくて村八分かな。悪いほうはいくらでもありそうだから、考えないでおこうか。

「……だめよ、花ちゃん……そんなこと言っちゃ、だめ……」

 震える声で必死に言葉を吐き出す奥さん。

 あと四日の命な私のことなんて、気にしなくてもいいのにね。

 村のみんなに告げ口をすれば、奥さんは無罪、私だけ有罪。それで終わりなのに。

 坂上の奥さんはそんなことをしないんだろうなってわかってた上で話す私は悪い子だね。生きるために必死だから仕方ない。

「うん、うん……ごめんね」

 奥さんの手をそっと撫でながら、奥さんをなだめる。

 それから、少し落ち着いてきた様子の奥さんに、耳打ちをする。

 私の「ごめんね」はさっきの発言に対してじゃないよ。


「今の話、誰にも言わないから、ちょっとだけ私の味方になってよ」


 あなたを味方にするために、ちょっと脅すけど、ごめんね?

 奥さんの肩がびくっと跳ねた。

「何かやってほしいわけじゃないよ。ただ少しお話を聞かせてほしいなってだけだよ」

 本当は動いてくれる味方も欲しいけど、坂上の奥さんにそれを頼むのはちょっと無茶だもんね。私、村の人たちより優しいから、そんなひどい事させないよ。

 奥さんがうつむいたままカタカタと震えている。

 だから、その肩を軽くぽんっと叩いて立ち上がる。

「明日またお見舞いに来ますから、お返事はその時にくださいね?」

 本当は考える時間をちゃんとあげたいんだけど、私に残ってる時間が少なくて。急かしちゃってごめんね?


 坂上家の玄関を出るときに「じゃあ、奥さんお大事にね? 明日もお見舞い来るからね?」と外にいる木島のおばさんに聞こえる大きさで声をかけた。

 これで坂上の奥さんの体調がまだ悪いことと、私が連日坂上家に行く理由が伝わっただろ。この村の人たちは余所者二人が仲良くしてても気にも留めないんだろう。どっちも支配出来てると思い込んでるから。

 さて、坂上の奥さんの返事は明日ってことになったし、今日はあと何が出来るかな。


 いつもならそろそろ太一が出てきそうだけど、今日は全然その気配がない。さすがに昨日の件で反省してるのかな。

「あら花ちゃん、お散歩かい?」

「池本のおばあちゃん、こんにちは」

 ぼーっと歩いていたら、鳥居へ向かう山道の入り口で池本のおばあちゃんに声をかけられた。

 このままだと鳥居に、神様のところに行ってたから、そりゃ慌てて声もかけるか。神様の花嫁にする予定日が数日ずれても問題ない気はするけど、わざわざ細かい日付決めてるんだから、意味があるのかも。大安吉日とか。

「こんなところまで来るなんて珍しいねえ、神様にご挨拶かい?」

「あと四日だから、村の色んな所を目に焼き付けておきたいなーって思って」

 適当に誤魔化そうとすると勝手に出てくる美少女モードが今日は出てこない。こまったなー。

「そうかいそうかい」

 池本のおばあちゃんがゆっくり大きく頷きながら、私の姿を頭のてっぺんから足の先までじっくり眺める。

 えー、どうしよう。なんか怪しかったかなあ。

 この数日、こんなあからさまにじろじろ見られることなかったんだけど。


「ふしぎだねえ……」

 突然池本のおばあちゃんがしみじみとつぶやいた。何事なの。

 その表情はよく見ると、こちらを怪しんでる感じではなかった。

 どっちかと言うと嬉しそう? 懐かしそう? よくわからないけど、そういう悪くない感情が浮かんでる気がした。

「おばあちゃん、どうかしたの?」

 池本のおばあちゃんは「大したことじゃあないんだけどね」とゆっくりと首を横に振りながら答えてくれた。

「いやあねえ、花ちゃんと全然似てないはずなのに、花ちゃんを見てると昔の知り合いを思い出すのよねえ」

 よくわからないけど、他人の空似かな?

 私の言動を怪しんでるんじゃなくて、誰かを重ねてるだけなら一安心。

「そっか。じゃあ、おばあちゃんはずっと私のことをその知り合いに重ねて見てたの?」

 明け方に激熱ほうじ茶をくれた時も、そう思ってたのかなーくらいの軽い気持ちでしゃべってた。

 でも池本のおばあちゃんははっきりを首を横に振った。

「ずっとじゃあないわねえ。ここ数日で急に重なるようになったのよお」

 ん?

 この数日。

 それってもしかして、私が気が付いた頃からってこと?

 もしかして、『花』が似てるんじゃなくて、『私』が似てるってこと?

 まって、『私』は『花』じゃない? やばいやばい、自分でよくわかんないこと考えてる。


 後回しにしてた『私って何者なの?』という問題が突然襲ってきた。

 池本のおばあちゃんにもう少し話を聞きたかったのに、頭の中がぐちゃぐちゃになってるうちに、おばあちゃんはいなくなってた。頭痛がする。

 頭が割れるように痛くて、考えがうまくまとまらない。

 今日は帰って、早く休もう。それで、明日は坂上の奥さんの返事を聞いて。行けたら池本のおばあちゃんにも会いに行こう。

 時間はないけど、今日はもうこれ以上何もできる気がしない。

 ふらふらと帰る途中、いつも通り村の人たちに声をかけられた。そのときはいつもの美少女モードが勝手に対応してくれた。なんでさっきはこれ出てこなかったんだろ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。