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生贄まであと一週間  作者: 猫宮さかな


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第3話 花嫁まであと五日!~村長と書いてラスボスと読むかもしんない~

 明け方五時ごろに蔵の扉を細く開けてみたら、池本のおばあちゃんと目が合った。

 夜中がダメでも早朝ならならもしかしてと思ったけど、やっぱり駄目だった。田舎の朝は早い。

「あら花ちゃん、早いのねえ」

「のどが渇いちゃって。ちょっとお水飲もうかなと思ったの」

 あらあらと言いながら池本のおばあちゃんが懐から取り出した水筒を貸してくれた。これ飲んでさっさと蔵に帰れという意味なのはわかる。でも、夏なのに激熱のほうじ茶だった。せめて冷たいのが良いんだけど。そういう文句を受け入れてくれる気がしない。口の中火傷した。


 蔵の中に戻ると、そのまま布団に倒れこんだ。

「どーすれって言うのよーう……」

 一応、昨夜十時ごろも外に出てみたけど、ダメだった。田舎の夜は早いはずだけど、やっぱり数十メートルごとに人がいるシステムだった。四人目であきらめて帰った。二十四時間体制が過ぎる。

「やっぱり一人じゃ無理だってーむりむりむーりー」

 枕に顔をうずめて、足をバタバタさせて弱音を吐く。

 逃げ道も味方もいない。いや、厳密には太一が味方になりそうだけど、それはいったん置いておく。太一は味方に向いてない。

「因習村ってどうやったら助かるのよー知らないよそんなのー」

 そういうのがあるってことしか知らない。ホラーとか詳しくないし。因習村って怖そうだし。実際今めっちゃ怖いし。村総出で監視ってなんなのよ。

「いっそ神様を倒すとか考えないとなのかなー」

 神様って死ぬのかな。神は死んだ、とは違うじゃん。神殺しっていうのかな。そうなってくると弱点探しかな。吸血鬼に十字架とニンニク、みたいなやつ。

 そこまで考えて、布団から飛び起きた。

「ちょっとやる気出てきた! よっしちょっと神様の話を集めてみよっかな」


 ◆


 最初に村長に聞くことにした。

 いきなりラスボス感あるけど、まあ、大丈夫でしょ。神様に直撃するよりは安全。なにより一番知ってそうだし。

 そう思って屋敷に行くと、太一が驚いた顔で出てきた。まあ、驚くか。生贄が自分からラスボスの家に行くってなさそうだもん。

「村長さんいる?」

「いるけど……」

 太一が「え、なんで」「じいちゃん?」「まじで?」って呟いてる。困惑するのは仕方ないけど、早くしてくれないかな。玄関先で立ち尽くしているとお千代さんが来てくれた。

「あらあら花さま、ようこそおいでくださいました。奥にご案内いたしますねえ」

 話が早くて助かる。さすがお千代さん。たぶんお千代さん的にはそのへんうろちょろされるよりも監視しやすいとこに来てくれて助かるって気持ちなんだろうな。たぶん村長にもそんな感じで話が行くんだろう。


 奥の客間に通されると、熱いお茶とお菓子を出してくれた。この村、夏でも容赦なく熱いお茶を出す方針なんだろうか。

 とりあえずお茶は冷めるのを待って、お菓子だけ食べた。饅頭おいしい。

「珍しい客人だな」

 お千代さんを連れて村長が入ってきた。年齢はお千代さんと同じくらいのはずだけど、ずいぶん若く見える。眼光が鋭いせいだろうか。その視線が痛い。思ったより怖い。初手ラスボスは失敗だったかもしれない。

「お茶が冷めておりますね、新しいのに変えますねえ」

 せっかく冷めたお茶をお千代さんが持って出て行った。ひどい。代わりに激熱お茶が目の前に置かれてる。

「そう硬くなるな。花嫁を取って食うようなことはせんから安心しろ」

 激熱のお茶をすすりながら村長は「緊張するな」と言う。いやー無理でしょ、圧が強すぎるのよ。

 そうは思うけど、話さないと始まらないから頑張る。

 ここでひるんでたら死ぬしかなくなるし。


「花嫁になるにあたり、神様について詳しくお話を伺いたくて参りました」

 こういうときにするっと出てくる美少女モードっていうかお嬢様モードっていうか、これ、なんなんだろう。便利だけど謎だなあ。マジで私なんなんだろ。生き延びてから考えればいいやと思ってるけど、気にはなる。

 村長がふむって顔をしてる。何企んでるのかって考えてるのかな。もうちょっと補足しとくか。

「花嫁として粗相のないように、昨日もお千代さんに神様について教えていただきました。村長さんでしたら、ほかにもご存じかと思いまして」

 嘘にはほんとのことを混ぜたほうが良いらしい。だから昨日お千代さんにも話を聞いたと伝える。まあ、知ってるだろうけど。

 村長は納得しきってなさそうだけど「まあ、よかろう」と答えてくれた。話したとて害はないと判断したのかもしれない。


「神様の名は『御柱様』という」


「由来はわからぬ」


「姫が身を捧げた十年後、山火事が起きた」


「それから十年ごとに花嫁を捧げるようになった」


「それ以来、この村は災害もなく平和が続くようになった」


 ◆


 やばい、思ったより役に立つ話がなかった。

 長い話をされたけど、ほとんどどうでもいい話だった。村長の苦労話だの歴代村長の功績とか、神様関係ない話が多すぎる。結局わかったことなんて神様の名前と、十年ごとに生贄出さないと災害が起きそうってことくらい。弱点なんてなかった。

 今日も数十メートルごとに声をかけられながら、村を散策する。もう村の隅から隅まで歩き尽くして、新しい発見もないんだけど。じっともしてられなくて。太一も無駄にずっとついてくるけど。

 残り五日って時間なさすぎでしょ。なんで一週間前からスタートなのよ。

 内心ぶち切れながら、表面上は笑顔で挨拶をする。表情作らなくても勝手にやってくれるこのシステム楽だなあ。


「あのさ、花」

 なんとなく学校の裏に来てみたら、突然太一が話しかけてきた。

 黙ってついてくるから放っておきすぎて忘れてた。

「……なに?」

 太一があたりをちらっと見まわす。うん、声の届きそうな範囲にはいないけど、ちょっと離れたところに山下のおじさんと林のおばさんがいる。太一はそこまで見てないんだろうな。

 意を決したように大きく深呼吸をして、太一が手を差しだす。

「俺と逃げよう!」

 あー……やっちゃったかあ。

 太一を見るふりをして、その向こうにいる山下のおじさんと林のおばさんのほうを見る。うん、聞こえてなさそうだな。

 そこだけは安心した。でも、この、太一、マジで……もう。

「……どうやって?」

「え?」

 言葉を選ぼうかとも思ったけど、太一に優しくするのもめんどくさい。

 漏れても大丈夫そうなことだけ伝えよう。

「方法を考えたことがある? 村の外につながる道は一つ。でも、必ず誰かが見張ってる。それでどうやるつもりなの?」

「え、えーっと、山の中とか」

「山の中をどう進めば外に出れるか知ってるの? 知らないなら遭難するだけだよ?」

 太一の目が泳ぐ。何かを言おうと口をぱくぱくさせるけど「あー」とか「うー」とか言葉にならない声しか出てこない。そうだよね、具体的な方法もなく、ただ逃げようと言ったもんね。

 もう少し考えたほうが良いって伝えたけど、少しは考えたつもりになったみたいだけど、全然考えてないよね。

 そんな簡単に助かるような、軽い状況じゃないのよ。

「もっと現実見たほうが良いよ。太一は自分で思ってるよりも、考えが足りないし、力も足りないの。今の私は死ぬしかないの」

 私を死なせたくないって言うなら、もっと頼りになるようになってよ。

 そこまでは伝えないけど。

 だって今の太一に伝えたら、うっかりバレそうだもん。私が逃げようとしてること。

 そこはできれば隠したい。疑われてはいるだろうけど、まだ確信はないはず。夜中に不審な動きしてるけど、一応「もうすぐ嫁入りで落ち着かないから」と言い訳はしてる。怪しさ全開だけど。

 まあ、正直、逃げようとしてるってバレたところで「どうせ無理だろ」って思われて終わるんだろうけど。今のままだとホントに無理なんだけどさーでもさーぎりぎりまで足掻きたいじゃん。


 考え事に夢中になって太一のこと忘れてた。静かだし。

 ちらっと太一を見てみると、泣きそうな顔してた。んな被害者面されても、困るんだけどなあ。

「……一応、教えてあげるけど」

 ちょっとだけ優しくしてあげよう。このままだともやもやするし。

「あそこ、山下のおじさんと林のおばさんがいるよ」

「え」

「ストップ。そんなあからさまに振り向いたらバレるでしょ」

 慌てて後ろを振り向こうとする太一を言葉だけで止める。

 うかつが過ぎるでしょ。

「ここから帰るときに、バレないように見てね。バレたらもう口きいてあげないから」

 あと五日しかないのに、もう口きいてやんないってしょぼい脅しだなと我ながら思う。けど、太一はぎゅっと口を閉じて小刻みに頷いた。きくのか、この脅しで。それならもうちょっと頑張れるかな、太一でも。


 ちょっと考えはしたけど、まあ、期待しないでおこう。保留。

「……さて。私帰るけど、太一は?」

「俺も帰る……」

 どうやってバレないように見ようか悩みながら太一が頷く。ちょっと肩に力入りすぎだけど。

 傍から見たらどう見えるかな。告白して振られたとか。いや、ないわ。村長の孫が生贄に告白とか、ないわ。

 道すがら、太一が太一の考えられる限りの自然な動きで周りを見回してた。めちゃくちゃあやしいけど、努力は認める。たぶん、太一の挙動が多少おかしくても村の人たちは気にしないでしょ。村長の孫だし。

 そもそも、山下のおじさんと林のおばさんは私のほうしか見てない。大人気で困る。

「……マジでいるじゃん」

 二人に聞こえないような小声でつぶやく太一。

 いるよー。太一に言ってないけど、この学校裏の林の中にあと何人かいるよー。誰なのかまではわかんないけど。


 私は何も言わずにまっすぐ蔵に向かう。

 太一はぶつぶつ呟きながらついてくる。ちょっと不気味。

 改めて見てみたら、太一が思っていたよりもこっちを監視してる人が多かったせいだろう。

 あれだけ人の周りうろちょろしてて気づかないもんかな。太一だしな、しょうがないな。

 それよりも、どうしようかな。

 今夜はもう深夜徘徊しなくていいかな、何時にやってもダメそうだし。

 ちらっと山の中に隠れている鳥居を見上げる。

 神様倒すのも難しそうだしなあ。村長以上に神様について詳しい人なんていたかなあ。


 次の手を考えているうちに蔵の前についた。

「あら花ちゃん、おかえり」

「大沢のおばさん、こんにちは」

 蔵の前を偶然通りかかった風の大沢のおばさんが笑顔で声をかけてきたから、笑顔で挨拶を返す。いつの間にか太一もいない。考え事してるうちに帰ったのかな。

 それにしても、蔵の前って面子決まってるのかな。大沢のおばさんがここにいる率高くない? 私が気づいてからまだ三日だけど。


 そんなことを考えながら蔵の中に帰って、あれ? と首をかしげた。

「……坂上の奥さん、昨日の朝見たっきり見てないな?」

 この村、そんなに人が多くないから、毎日全員見てる気がするんだけど、坂上の奥さんだけ見てない気がする。どうしたんだろう? ちょっと気になるし、明日家に行ってみようかな。

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