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第1章 4話 イルブの不審な動き

先月までと違う道を歩いていく。

先月までなら徒歩でエレベーターまで行けたが、今月からD地区に異動になった。

職場が変わるのも道中が変わるのも正直面倒だ。

でもおかげで今日も生きている。

豪邸から駅まで15分ほど歩いていると、昨夜考えていたことがまた頭をよぎった。

ここ最近の事故の数は、異常だ。

そんなネガティブな思考の深みにはまりかけた頃、ちょうど駅に到着した。


ヨークには今や30近くの魔鉱山がある。

A地区からW地区まで地区分けされ、さらに開発中の鉱山が3つある。

俺が最初に配属されたのはM地区で、そこに3年いた。

それが今年に入って——いやここ1年弱で3回も勤務地区が変わった。

7、8ヶ月前はK地区。

4、5ヶ月前はJ地区。

先月まではB地区。

我ながら転々としすぎだ。

ここ最近のネガティブ思考は、事故と転勤のせいだな。

自分でそう納得しながら、蒸気機関車に乗り込んだ。


俺は本来、そんなにネガティブな人間じゃない。

はずだ。

どちらかといえば「なるようになる」と深く考えず生きてきたポジティブな人間だ。

これからもそうしていきたいと、思っている。


電車に乗り込むと、今日はいつもより空席が目立った。

B地区の事故で休鉱になっているからだろう。

いつもならつり革を掴んで吊り広告を眺めるのが日課だが、久しぶりに座席に座り、車窓からスラム街を眺めることにした。


車窓から見える町並み——といっても、町というより巨大な工場だ。

街全体が完全にシステマチックに機能している。

我が街ヨークは南北に5km、東西に5kmほどの円形に近い形をしている。

地上の広大な土地は主に農場で、敷地の80%近くを占める。

残りの20%は、貴族様の邸宅だ。

地下はスラム街で、さらにその下が魔鉱山になっている。


スラム街といえど、町並みは決して不潔じゃない。

銅と真鍮、そして木で組まれた構造物が整然と並び、

魔鉱と蒸気、工場からの煙が街を霞ませている。

それでも無数のガス燈やフィラメント電球が街全体を煌々と照らし、

視界の短い霧の世界でもその存在だけは主張し続けていた。


線路から下を見れば、50mほど下に魔鉱石の精錬工場や工業製品の工場が軒を連ねているのが見える。

これを可能にしているのが魔鉱の安定供給だ。

エネルギー不足の心配が皆無なのも、その恩恵だった。

そう思えば、つまらないと思っていた自分の仕事も、世間の役に立っているのかもしれない。

柄にもなく、少しだけ誇らしい気持ちになった。


そうこう感傷に浸っているうちに、目的地の駅が近づいてきた。

魔鉱山に近づくにつれ、景観はより一層工場然としてくる。

視界に映るのはボイラーと発電機、蒸気を通す配管と電気の配線だけだ。

さて、今日も仕事、頑張るか。

ここに来てようやく、仕事のスイッチが入った。


いつも通り定刻の20分前に作業準備室に到着した。

着替えを済ませて道具室に移動しようとすると、既に準備を終えたイルブが道具室の前で待っていた。

「おはようございます、先輩」と爽やかな笑顔を見せる。

「おう、今日もよろしくな」とむずがゆい思いをしながら挨拶を返した。

この職場で年下に会うことは稀だ。

と同時に、疑問が頭をよぎる。

(なんでイルブみたいな新人がこの職場に配属されたんだ?)

A級の仕事はぬるい職場じゃない。

最前線で体を張る過酷な現場だ。

そんな現場に未経験で16の人間が来るか、普通?

疑問を胸にしまいながら、一緒に現場へ向かった。

「いつから魔鉱山で働き出したんだ?」と歩きながら聞く。

「最近ですよ」

「正確には、どれぐらい前?」

「まだ1ヶ月経ってないかと」

「その前は何をしてた?」

「公立学校で勉強してました。けどついていけなくてw」と軽く笑う。

(スラム出身が公立学校に行くのか?ソラじゃあるまいし)

昨日知り合ったばかりの人間を詮索するのも違うと思い、それ以上は聞かなかった。

それでも、久しぶりに他人に興味を持ち始めていた。


現場に着くとジグルが朝礼の準備をしていた。

「おうジョルカ、お前にしては珍しく1人じゃないんだな、ガハハ」と豪快に笑う。

「うるせぇな」といつも通りの挨拶を返す。

「まぁ年も近いし、面倒みてやってくれ」

「ああ、一緒にいたら気をかけるようにするよ」

ジグルは満足そうに頷いて、朝礼の準備に戻った。


朝礼を終え、ツルハシを持って所定の現場につく。

これから8時間の長丁場だ。

両手で自分の頬をパンと叩いて、気合を入れた。


黙々と作業を続けて2、3時間が経った頃だった。

「あいつ、何してんだ?」

隣の同僚が手を止めて声をかけてきた。

その視線の先を追うと——イルブがいた。

ツルハシも持たずに、妙に周囲をキョロキョロしている。

魔鉱石を探しているわけじゃないのは分かった。

魔鉱石は土の中でも淡く青い光を発している。

あれば探さなくても一目で分かるのだ。

(あれは魔鉱夫の目線じゃない。何を見てるんだ?何かを探してるのか?)

そう思った瞬間、イルブと目が合った。

悪びれる様子もなく、いつもの笑顔を見せてくる。

(全く、掴みどころのない奴だ)

ツルハシを振り、作業に戻った。

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