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第1章 3話 これまでのジョルカ

グレートランド歴1772年7月3日


朝7時。

大音量の目覚まし時計に叩き起こされた。

昨夜はろくに眠れなかった。

それでも時計は容赦なく鳴る。

今日も、いつもと何も変わらない日常が始まる。


テーブルにつくと、既に3人が席についていた。

「どうしたの?目の下にすごいクマが出てるよ」とソラが笑いながら言った。

「うるせっ」と返すと、ニコッと笑顔を作ってパンを齧る。

(今日も1日だるいな)

パンを咥えながらそう思っていると、ラジオのノイズが耳に入った。

……ガガッ・ガ……ガッガガガ……

「やけに今日はラジオの調子が悪いな」

「そうねぇ、ラジオ局で何かあったのかしら」と母が首を傾けた。

(ラジオが古いからとは微塵も思わないんだな)と思いながら

年季の入ったラジオに目をやる。

雑音の向こうに、何かが言いたそうな気配だけがある。

聞き取れないが——

黒猫が横切ったような、嫌な予感だけはした。


「行ってきます」とソラが立ち上がり、続くように親父も何も言わずに家を出た。

2人を見送り、着替えを済ませて弁当を受け取る。

今日も、いつもと変わらない。

変わったのは、ラジオの雑音と自分の些細な違和感だけだ。

(事故も多いし、明日は我が身か)

普段そんなことを考えない俺が、柄にもなく感傷的になっていた。

靴を履きながら、漠然とした不安が胸の底に沈んでいくのを感じた。

追い払おうとしても、うまくいかないまま家を出た。


先月までと違う道を歩いていく。

先月までなら徒歩でエレベーターまで行けたが、今月からD地区に異動になった。

職場が変わるのも道中が変わるのも正直面倒だ。

でもおかげで今日も生きている。

豪邸から駅まで15分ほど歩いていると、昨夜考えていたことがまた頭をよぎった。

ここ最近の事故の数は、異常だ。

そんなネガティブな思考の深みにはまりかけた頃、ちょうど駅に到着した。


ヨークには今や30近くの魔鉱山がある。

A地区からW地区まで地区分けされ、さらに開発中の鉱山が3つある。

俺が最初に配属されたのはM地区で、そこに3年いた。

それが今年に入って——いやここ1年弱で3回も勤務地区が変わった。

7、8ヶ月前はK地区。

4、5ヶ月前はJ地区。

先月まではB地区。

我ながら転々としすぎだ。

ここ最近のネガティブ思考は、事故と転勤のせいだな。

自分でそう納得しながら、蒸気機関車に乗り込んだ。


俺は本来、そんなにネガティブな人間じゃない。

どちらかといえば「なるようになる」と深く考えず生きてきたポジティブな人間だ。

これからもそうしていきたいと、思っている。


ちなみに、魔鉱夫といっても一口に同じじゃない。

S級は魔鉱石採掘なら何でもこなし、新鉱山の新設にも尽力するスペシャリストだ。

A級は作業効率が特に高く、最前線でツルハシを振るう花形。

これが今の俺だ。

B級は掘った穴を埋める作業や、魔鉱石の選別と仕分けを担う。

C級は掘り出した魔鉱石を運ぶ仕事だ。


スラム出身の人間は、だいたいヨーク初等学校を13歳で卒業してすぐ魔鉱山で働き始める。

最初の7、8年はC級だ。

男は荷物を運びながら体力をつけ、女は雑用をこなす。

20歳頃には次のステップへ上がり、男はB級で初級技術を身につけ、女は魔鉱石の選別を担うようになる。

A級になれるのは男だけだ。

力仕事に限界がある以上、それは仕方がない。

だからスラムの女性の多くは20代のうちに結婚する。

ソラのように初等学校から公立学校へ進学するのは、スラム出身者では稀なことだった。


そして俺は17でA級魔鉱夫になった。

最初は周りから疎まれたが、結果を出し続けて黙らせるしかなかった。

無尽蔵ともいえる体力を武器に、ただ黙々とこなしてきた。

それが今の俺の立ち位置だ。

野心があるわけじゃないが、一応S級を目指してはいる。

もっとも親にその話をしても「S級は危険だ」「A級の給料で十分だろう」と説得されるだけだ。

俺の野心のなさは、あるいは親のせいかもしれないと、たまに思う。

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