第2章 32話 コルブの行動
グレートランド歴1772年10月16日 AM9:00
テスの話を聞いた後、コルブは早速対応に動いた。
「ホルブ、俺は今日ドレン邸に商談に行くから店番を頼む」
と言い残し、商材が積まれた馬車に乗り込んだ。
用があるのは、ベルというメイドだけだ。コルブは、せめてベルというメイドの特徴を聞いておけば良かったと少し後悔していた。
そうしてドレン邸に向かうと、ほどなく到着した。
中から、馬車に積んでいた食材をはじめとした荷物を、ドレン邸で働いている従者がおろしている。
従者の1人が、
「あれ?コルブさん、今日は荷物運びですか?めずらしいですね」
と声をかけてくる。それに、
「いつもの者は、体調を崩してね……」
と適当に返事をした。
「商談があるなら、案内しますが?」
「そうだね。お願いしようか」
とコルブは、ドレンに会うよう手配をお願いした。
そうしている間にも荷物を降ろしている他の従者に話しかける。
「ちょっとした荷物があるんだが、その荷物は、ベルさんというメイドさんに直接渡したいんだが……」
すると、
「ならベルを呼んで来ますね」
とベルを呼びに行ってくれた。
そうして荷物を降ろしながら少し待つと、1人の少女が下りてきた。ベルは、少し不審そうにしていた。荷物に心当たりがないのだろう。
「これ、ベルさんにです」
と荷物を渡す。
「ありがとうございます。誰からですか?」
「イルブからです」
と答えるとベルは驚いた顔をして、改めて、
「ありがとうございます」
と返事を聞いたところで、
「なんだ?コールマン?今日は、商談の予定はないぞ」
とあからさまに不機嫌そうな態度をとったドレンが現れた。
「ええ、分かっております。ただ、いつも荷物を運ぶ人間が体調を崩したもので、私が急遽ここに来る事になったので、ついでと言ってはなんですが、ドレン様に何かお困りの事はないかと……」
というと、
「ああ、大いに困ってるぞ。イルブの奴がいなくなったからな。まさか家に戻ってきたのか?」
と目ざとくドレンが聞いてくる。
「いえいえ、私もイルブには困っておりまして……我が愚息に会えたら、ドレン様がお困りだったと伝えておきます」
とコルブは伝えた。
コルブは、心の中で、
(こんなにベルという少女に会えるなら、こいつの顔を見ずに済んだのに)
と思ったが、そこは商人であるコルブ、おくびにも出さず、
「また、何かご用命がございましたら、いつでも我が「コールマン商会」をご利用ください」
と言った。ドレンは、「フン」と鼻を鳴らし、邸内に戻っていった。
そうして、コルブはドレン邸を出て、一旦店に戻った。
同日 12:00
ベルは、昼の休憩にイルブからだという荷物の紐をほどいた。
中には、ジャガイモ、トマト、にんじん、玉ねぎ、などの野菜が1つずつ入っていた。ベルは意味が分からなかったが、一旦全部箱から取り出してみた。
すると中に"ベルさんへ"と手紙が一通入っていた。そこには、
「――ベルさんへ――
突然の、お手紙と来訪、失礼します。
私は、イルブ=コールマンの父、コルブ=コールマンです。先日テスさんという女性からイルブの身を案じた相談を受けました。
ですが、私にはイルブとの連絡手段がありません。つきましては、ベルさんの協力を仰ぎたいと考えております。
本日仕事が終わりましたら、ドレン邸裏口から出て真っ直ぐ300m程進んだ場所にある檜の巨木の下でお待ちしております。何時まででもお待ちしております。どうかお越しいただけないでしょうか。
――コルブ=コールマン――」
と書いてあった。ベルは、テスに言葉では言い表せないほどの感謝をした。
同日 18:00
コルブは、檜の巨木の下で待っていた。もう待って1時間ほどになる。
ドレン邸は何度も行き来していたので、メイドを含めた従者がだいたい何時に仕事が終わるかは熟知していた。コルブは、17:00に行けば十分だろうと思っていた。
そうして、そこから15分程待っていると、先程荷物を受け取った少女が現れた。
「ベル=スターリングです」
「ありがとう。私は、コルブ=コールマン、イルブ=コールマンの父です」
とお互い自己紹介をした。すると、
「ここでは怪しまれるかもしれないから、少し場所を移したいが、お時間は?」
と早速コルブは、話の本題に入ろうとした。細心の注意を払いながら、無駄を省く。コルブはそういう男なのだ。すると、
「はい。時間は大丈夫ですけど、あまり長時間いないと他のメイド仲間が無駄な詮索をするかもしれませんので、長くても2時間ぐらいでお願いします」
とベルは答えた。
少女に見えて回りが見えてる子だなと感心し、ホルブに見習わせたいものだとコルブは思った。
そして、
「では、少し離れた所に小さい集落がある。そこで軽く食事をしながら、お話を聞かせてもらえますか?」
とコルブが言うと、
「お願いします」
とベルは言った。
(お願いします)か、とコルブは少し違和感を感じた。お願いしているのは、こちらだ。なのにこの少女から、お願いします……
コルブは、鋭くこの少女の心中を察した。
少し辺境にある集落のせいか、豪華なレストランは無く、大衆食堂のような店に2人で入った。
「ベルさんは、何か食事を摂られたかな?」
「いえ、まだです」
「それならちょうど良かった。私もまだなんだ。好きな物を注文してください」
とコルブは言い、程なく注文した料理が現れた。軽く食事をし始めた頃、コルブが口を開いた。
「ベルさん、テスさんから、だいたいの話を聞きました」
と話を切り出した。
「はい」
とベルは食事を止め返事をした。
「ベルさん、詳しい事は分からないが、イルブは少々やっかいな事に関わっているかもしれない」
とコルブは言った。
コルブには、葛藤があった。包み隠さずニクス伯爵の事を言うべきか、それともそれは伏せるべきか……
全てを伝えるとイルブの事を分かっている事は全て言ってくれるだろう。だが万が一それが、この少女を巻き込む事になってしまったら?
伏せてしまうと、ベルなりの情報の取捨選択をしてしまうかも知れない。
コルブは迷った結果、後者を選んだ。万が一でも、この少女ベルを危険な事に巻き込んではならないと判断した。そして先程の「お願いします」の言葉の意味を踏まえた結果だ。
この少女は、少なからずイルブに好意を持っている。我が息子の身を案じてくれている。そこに打算はしないだろうと踏んだのだ。
コルブは、ニクス伯爵の悪行や危険性は伝えないように努めた。
「イルブは、以前ドレン邸で働いていたのは知ってるね?」
「はい、存じ上げております」
「あいつは、『ドレン様の仕事には、ついていけません』とだけ言っていた。細かい事は、一切言わなかった。が今考えると、ドレンにやっかいな事をさせられてたのかもしれん」
ベルは、黙って聞いていた。
「私は、全力で息子を守ってあげなくてはならない。そこでベルさん。イルブが今、何処で何をしているか教えてくれないかね?」
同日 21:00
コルブは、店に戻り、ホルブを呼んだ。
「なんでしょうか?」
とホルブが用件を聞いた。コルブは、
「明日から暫く家を出る。正直いつ家に戻って来るか分からん。がとりあえず1週間の予定だ。その間、店番を頼む」
と言い、旅に出る準備を始めた。
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ジョルカたちの行く末を、ぜひ見届けていただけると嬉しいです。
十条 閃




