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第2章 31話 テスの決断・コルブの懸念

グレートランド歴1772年10月15日 PM5:30


「ドレン様、短い間でしたけど、お世話になりました。お体にお気をつけて」


とテスは社交辞令をドレンに言った。それをドレンは、


「ああ、元気でな」


と返した。


嫌味の一つでも言ってくるかと思ったけど、そこまでバカでもないらしい……そう思った。


実質3ヶ月程の短い時間を思い返した。でも思い返しても何も得る物はない、そんな3ヶ月だったとテスは改めて思った。強いていうなら、最後の1ヶ月、ベルという素敵な女の子と知り合えた事だろうか……


そのベルは、今、私を見送りに階下まで来てくれている。ベルは、今までの笑顔を忘れたかのように、不安そうな顔をしている。


何とかその不安を取り除いてあげたいと、最後に、


「みなさん短い間ありがとうございました」


と皆に伝え、最後に、


「ベルちゃん、大丈夫。私に任せて」


とだけ言った。他の従者は、意味が分からないだろう。でもベルの不安が少しでも軽減出来ればいいし、この程度ならドレンは何も気づかないだろうと踏んでの言葉だった。


そうしているうちに10月のせいか、辺りは暗くなってきた。


私が目指すのは、「コールマン商会」だ。


少し前に、イルブと夕食を食べた際、チラッと父親らしき人を見た。まずあの父親らしき人に、話を聞いてもらおうと思った。


商業地区につく頃には、もうレストラン、BAR以外のお店は閉店の準備をしている店も目立ってきていた。ちょうど「コールマン商会」も閉店の準備に取り掛かろうとしていた。


閉店の準備をしていたのは、以前閉店作業をしていた男の人ではなかった。20歳前後だろうか、その若い男に声をかける。


「すみません」


と声をかけた途端、


「今日は、もう終いだよ。また明日お願いします」


とめんどくさそうに言われた。テスは少しムカついたが、


「あの、私、客ではありません。イルブ=コールマンの知人で……」


と言いかけた時、店の中から、先日イルブに説教じみた事を言っていた人が現れた。


「イルブは、家にいませんよ」


とその年配の人は言った。


「はい。承知しております。えっと、イルブさんのお父様ですか?」


「はい。私は、イルブの父、コルブです」


「すみません。イルブさんの事で、お話がありまして……お話を聞いて貰えませんか?」


とコルブに用件を伝えた。少しして、


「こんな時間に若い女性が来るという事は、急用ですね?」


とコルブは言った。


「はい。おそらく……」


「おそらく?詳しく聞かないと何とも言えませんな。とりあえず中に入ってください」


とコルブは、テスを店内に入れた。


テスは、店内奥にある応接間に通され、コルブに促されるまま、茶色の本皮のソファーに腰を掛けた。


本来であれば「良いソファーですね」と社交辞令の1つでも言うところだが、テスにそんな余裕はなかった。


「すみません。イルブ君の事です」


とコルブが用件を聞かれるより前に、テスが声を発した。


「はい。息子がどうかしましたか?」


「はい。何からお伝えすればいいのか……」


と最初は、かかり気味で声を発したテスであったが、イルブの事を何も知らない自分に気がついた。


何故イルブは、ドレン邸で働いていたのか?何故イルブは、ドレン邸から逃げ出したのか?何故イルブは、魔鉱夫の女の子と知り合いなのか?


そしてテスは、ようやく声を発した。


「イルブ君は、何故ドレン邸で働いていたのですか?」


コルブの目つきが変わった。


「それを、1度2度会っただけの女性にお伝えする事は出来ません」


「では、コルブさんは、イルブ君が何故ドレン邸を辞めたかは、ご存知ですか?」


「細かい事は、分かりません。ただ息子がドレン邸を出た後、そうですね……」


ここでコルブは、一拍置いた。


「やや抽象的ではあるんですが、そのなんといいますか……いい顔になった。それだけは、感じていました」


「テスさんの方が、イルブが辞めた理由には、詳しいんじゃないのですか?」


と逆にコルブに問われる。


「イルブ君とは、そのドレン邸で一緒にいた期間は1日しかありませんでした。辞めた理由は、昨日まで、ドレンが嫌で辞めたと思ってました」


「……」


コルブは、テスの次の言葉を待っていた。がテスの次の言葉が出てこなかった。


「何か、イルブがドレン邸を辞めた理由が分かったのですか?」


とコルブがテスを促す。


テスは、コルブに促されようやく重たい口を開いた。


「辞めた理由は、正直わかりません。ただ……」


「ただ?」


「ニクス伯爵という方が、どうやらイルブ君を探してるみたいなんです!!」


「そうですか、分かりました。貴重な情報をありがとうございます」


とコルブは言った。そして、


「テスさん。この事は、他言無用です。私以外の誰にも言ってはいけません。誰にもです」


とコルブは強く念を押した。


「イルブについては、私が対処します。テスさんは、何も気になさらずに、明日から生活してください」


といい、テスは「はい」と返事した。


「最後に」


とコルブは付け加えた。


「この事を知ってるのはテスさんだけですか?」


とコルブはテスに質問した。


「ベルという、ドレン邸で働いているメイドも知ってます」


「分かりました。ベルさんですね」


それを確認したコルブは、


「ホルブ、お客様がお帰りだ。お前は、テスさんを家まで、お送りしろ」


と言った。


テスは、帰り道の事はよく覚えていない。


ただ隣で蝿が「なぁ、親父と何話してたんだ」などと下世話な話をしているのが聞こえた。


それを一切無視しテスは思った。


(コルブの息子?イルブの兄?だとしたら、よくこんなつまらない人間があの家庭から出てきたな)


と隣の蝿を見てそう思った。


同日 PM6:30


コルブは、テスを送り届ける指示を出した後、頭を抱えた。


ニクス伯爵。細かい事は知らない。商売の取引をした事もないし、会った事もない。


商人同士、商人界隈の情報は早い。情報が命だからだ。そしてその情報では、ニクス伯爵はコルブが商売をしたくない相手だった。


冷酷で残忍、自分が成り上がる為なら泥水でも口にする男だという噂だ。また確定の情報ではないが、PDAという秘密警察を組織したのもニクス伯爵という噂だ。


そのニクス伯爵がイルブを探している。


これは、もしかしたらイルブに命の危機が迫っているかもしれない。


コルブは、最善の策が何かを模索していた。

毎週 月曜 木曜 18時投稿予定です。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

「続きが気になる」「また読みに来てもいい」と思っていただけましたら、ブックマークしていただけると励みになります。

ジョルカたちの行く末を、ぜひ見届けていただけると嬉しいです。

十条 閃

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