第2章 30話 メモの発見
グレートランド歴1772年10月15日 PM1:30
テスは、不思議な気持ちで働いていた。
こんなに働く事に辟易としていた仕事でも、いざ仕事が今日までとなれば、こんな職場でも寂しい気持ちになるんだなと……そう思いながら、14:00に来るというお客様の為、お茶の準備をしていた。
「先輩、ティーカップとお菓子の準備出来ました?」
とベルが声をかけてきた。
「うん。大丈夫よ。殆ど準備は出来てるわ」
「ありがとうございます。先輩、流石に手際がいいですね」
とベルが笑顔で返事した。
イルブに紹介されたベルは、元魔鉱夫と思えないほど、細かい気配りや繊細な作業も難なくこなしていた。
ベルが最初、ドレン邸で働く時は猫の手も借りたい状況だったが、物覚えがいいのか2週間ほどでメイドとして頭数に入れられる程になり、そのおかげでベルが雇われて1ヶ月で、何の心配もなく、またドレンに引き止められる事もなく、無事、退職できる運びとなった。
「先輩、今日までですね。少し寂しいですね」
「でも私の家は、歩いてそんなに時間がかからないから、ベルちゃんさえ良ければ、いつでも遊びに来てもいいよ」
とテスは半分社交辞令を言った。正直テスは、ベルが気に入っていた。
いつも前向き、笑顔を絶やそうとしない陽気な性格が、テス自体にも仕事を楽しい気持ちにさせた。
(もっと早くここにいてくれたら、もう少しここで頑張れたかもしれないな……)
とテスは、少し残念な気持ちにもなった。その性格は、テスは勿論ドレンにも受け入れられ、ドレンはベルを何かと近くに置こうとしていた。
そうこうしているうちに、まもなく今日のお客様の来られる時間になった。今日のお客様は、以前はよくこの館に来ていたニクス伯爵だ。
以前は頻繁に、いや頻繁にと言っても月に1回ぐらい、何の話をしてるか知らないけど、よく来ていた。それが最近は全然来なくなっていた。
前回来たのが何月何日かは覚えてないけど、たしかイルブがいなくなった日の前後だった気がする。それ以来だから3ヶ月は経っているか。
私は、ベルほど仕事に前向きに取り組んでいない。でも、そのニクス伯爵の威圧感、迫力、なんと言っても顔も怖い。だから他のお客さんの事は忘れても、ニクス伯爵の事は鮮明に覚えている。
ベルがドレンのお気に入りになった事で、今日ニクス伯爵の当番がベルになって、テスは内心ホッとしていた。
そうしているうちに、
「ニクス伯爵が来られました」
と従僕の男が連絡してきた。それを聞いて執事がニクス伯爵を応接室に案内した。
ニクス伯爵が応接室に入るのを確認し、そこからは手際よくベルがお茶とお菓子をティーワゴンに乗せて持っていった。
程なくベルが帰ってくると、
「すごい迫力ですね。今日のお客様。少し緊張しました」
と緊張感のない笑顔をした。
私は、
(ホントにいい子だな。イルブ君と上手くいけばいいな)
と心の底からベルを応援した。
そこから何時間経っただろうか。いつもより会談の時間が長く、偶に怒声とも受け取れるお客様の声がしたが、結局、いつもより1時間程長い程度で会談は終わったようだった。
部屋を出る際、ニクス伯爵が不機嫌だったのか、それを腰巾着のようにドレンがニクスの後をついて行く。
その時、ドレンが、
「私は、ニクス伯爵を玄関までお送りするから、ベル、お茶とお菓子の片付けをしといてくれ」
とベルに声をかけた。それを聞き、ベルは、
「かしこまりました。ご主人様」
と軽く頭を下げ、返事をした。
そうしてベルは、
「じゃー私行ってきます」
と軽い口調で私に言うと、
「今日で最後だから、私も手伝うよ。2人でやった方が早いし」
と私もそう返事をした。
「わぁ、ありがとうございます先輩」
とベルも返事して、私とベルはティーワゴンを押し、ドレンの自室に向かった。
部屋に入ると、飲みかけの紅茶とお菓子が少しテーブルの上に乗っている程度だった。
私がティーワゴンを押していると、ティーカップとアフタヌーンティースタンドをベルが運びに行こうとした。
そしてティーワゴンに乗せていたダスターをベルに手渡そうとした時、ベルの様子がおかしい事に気づいた。
「ベルちゃん、どうしたの?片付けようよ」
とベルに声をかけた。そうすると、
「先輩、これなんですかね?」
と1枚のメモを指さした。そこには、箇条書きでこう書いてあった。
・フラージャ公国との国境警備強化の件
・D地区落盤事故の後処理
・イルブ=コールマンの捜索
ベルの手が震えている。
がメモを見たのがバレたら大変な事になるかもしれないと思い、ティーワゴンとベルを引っ張り出し、まだ片付けていない風に取り繕った。
ベルは、まだ少し途方にくれていた。
テスは、少し考えた。
男爵と伯爵が、突然いなくなった小間使いを探している?なぜ?そういえば、イルブがいなくなったのは、あの伯爵が関係してる?
そう思うと、テスは急に怖くなってきた。
ベルは、細かい事情は知らないだろう。だけど、想っている男の子が捜索されているのは理解できた筈だ。
少しベルが落ち着いてきた。落ち着いてきたベルに敢えて言った。
「落ち着いてベルちゃん。この件は、一旦私が持ち帰る。イルブ君にも伝えるように努力する。ベルちゃんは、メモを見た事は誰にも言わないで」
と言うと、ベルは力なく頷いた。
そうしている間にドレンの声が聞こえた。
「おい、ベル、まだ片付いてないぞっ」
と声が聞こえる。
テスは、
(お前がメモを片付けてなかったからだろ!!)
と心の中で毒づいた。
「私も手伝います」
とテスは言い、再度ティーワゴンを押し応接室に入った。
メモは、片付けられていた。見られてはまずいものだったらしい……そうテスは確信した。
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十条 閃




