第2章 29話 ニクスとレイブン
グレートランド歴1772年10月1日
ニクスは、窓から見える自分の庭園を見て、葉巻に1本火をつけた。
現ニクス家当主マクシム=ニクスが当主になり、3度の領地変更(国替え)があった。そして領地変更をする度、王城に近づき、また邸宅も大きくなった。そうして、今ではニクス家は、爵位こそ伯爵だが、領地の広さ、その収益は、グレートランド国において貴族の中でも1、2を争っていた。
その栄華は、最初から今のようにあったわけではない。
ニクス家は、先代が逝去した時、約30年程前は、まだ地方の一貴族に過ぎなかった。先代国王がグレートランド歴1752年に逝去し、現国王に代わりした時、急速に王家との距離を一気に縮めた。
ニクスは、ニクス家の繁栄、陞爵(しょうしゃく:既に爵位を持つ者が、更に上位の爵位に上がる事)の為なら、なんでも行う。その姿勢は、現ヴェイン王の強行的な絶対王政との相性が抜群だった。
表向きは、クリーンでポピュリズムなイメージのヴェイン王。
裏の顔は、王政に反対する者、謀反を企む者は粛清も厭わないヴェイン王。この裏の部分をニクスは、一手に引き受けたのであった。
今日10月1日、毎月月初めは、自らが組織した秘密警察パージ・ディソナンス・エージェンシー(Purge Dissonance Agency)通称PDAの報告の日であった。
朝9時から30分置きに、各市町村に派遣されたPDAのメンバーが報告してくる。1日12名、トータル30前後の地域からの報告があるので、全員の報告となると3日間に及ぶ。今日1日は、特にグレートランド王国でも主要な都市の報告が行われる。
(反乱分子は、早めに潰すに限る)
ニクスは、いつもそう心がけている。早めの情報収集に即急の対策。
ニクスの活躍により、今日もグレートランド王国は平和に見えた。ヴェインもその事は高く評価しており、ニクス家の繁栄と栄華に直結していた。
ニクスは、また火をつけ本日2本目の葉巻をふかす。時間の針はAM11:00を指そうとしていた。
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
とニクスは返事する。
「ヨーク支部担当のレイブンです」
と声が聞こえると、
「入れ」
とニクスも返事し、吸いかけの葉巻の火を消した。
レイブンは、ニクス邸に招かれるようになってまだ2、3回だ。
がいつもこの部屋には驚かされる。こんな贅という贅をこらした部屋があるのか?
床は、全面、丁寧に織り込まれた羊毛の赤絨毯。壁や柱には、金細工の小物に彫刻などの芸術品。そして、壁には、ニクスとヴェイン王の肖像画が飾られている。
だがレイブンには、いい趣味には見えなかった。
レイブンは1ヶ月前と同様に、豪華なソファーに腰掛けるニクスの正面に立ち、「座れ」の一言を待つ。
間もなく「座れ」と言われ、レイブンも豪華なソファーに腰をかけた。
レイブンは、ニクスに比較的最近雇われたPDAのメンバーだ。
レイブンは、出自こそ平民であったが、アルカナ持ちであった事、またそのアルカナの性質がPDAの活動に向いていた事を理由に、主要都市であるヨークの調査を若きレイブンに抜擢した。
ヨーク市に、どうやらギアリベリオンという反乱分子があるらしいという情報を得て、ニクスは野心が強い、アルカナ持ちのレイブンにそのギアリベリオンの内部調査に向かわせたのだった。それが約1年前の話だ。
レイブンは、ニクスの期待に答えんと、ギアリベリオンの中でも異例のスピード出世を果たした。そして見事に期待に答え、2ヶ月ほど前からギアリベリオンの隊長まで出世し、幹部会議まで参加できるようになった。
そんなレイブンをニクスは、冷血な笑顔を浮かべ、冷血に言った。
「どうだ、内部調査の進展はあったか?」
レイブンも若く怖いもの知らずの男であったが、ニクスにはどうしても萎縮してしまう。
レイブンは、野心からくる若者の傍若無人さ。ニクスは、知略を駆使し、仮に自分の手を汚してでも最終的に目的を達成する。そんな恐ろしさがある。
人生経験そのものが違うのだ。
(やっぱりこの人の前では、緊張するぜっ)
とレイブンは思った。が改めて姿勢を正し、報告を開始した。
「表向きのメンバー構成に変更はありません。リーダー、エドガー=ロックハート。サブリーダー、クロエ=ハミルトン。1番隊隊長、ノエル=サザーランド。そして」
レイブンは、少し嗤い、
「2番隊隊長が俺です」
ニクスは、フッと軽く笑う。
「それは、先月聞いた。早く続きを言え」
とレイブンは催促され、続きを報告する。
「ここからギアリベリオンとは別に3人の人間が加わりました。名前は、ジグル=グラスゴー、アッシュ=ジョーカー、イルブ=コールマン」
と言った時、ニクスは、
「待て、イルブ=コールマンと言ったか?」
「はい。言いました」
(……イルブ=コールマン、どこかで聞いた名だ……)
とニクスは少し考え込んだ。
「ニクス伯爵?」
「ああ、続けろ!」
「はい。あと、リーダーと目されていた男がエドガー=ロックハートと思われましたが、どうやら陰のボスがいるみたいなんです」
とレイブンは報告した。
「名前は?」
「ガルド=カーティスです」
「ガルド=カーティス……聞いた事がある名前だな。何かある。イルブ=コールマンも聞いた名だ」
「ガルド=カーティスなら弱みがあります」
とレイブンは、早く自分の手柄を言いたいのか、報告の手順を飛ばした。
「何?言ってみろ」
「ガルド=カーティスの娘、ソラ=カーティスの警護を俺が担当してます」
といい、レイブンは笑った。
「よくやった。レイブン」
といいニクスは、これまでレイブンが見た事のない、謀略を巡らせる男の顔を見せた。
「ソラ=カーティス、使えるな。レイブン、ソラ=カーティスの警護とイルブ=コールマンを重点的にマークしろ!!」
「分かりました」
「結果次第では、報酬を期待してもいい」
とニクスは、醜悪な笑顔でレイブンを見送った。レイブンは、嬉しさと恐怖を同時に感じた。
ニクスは、イルブ=コールマンとガルド=カーティスの名前の記憶の糸を辿ろうとしていた。
毎週 月曜 木曜 18時投稿予定です。
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十条 閃




