第2章 26話 イルブの葛藤
グレートランド歴1772年9月27日
イルブが、ジョルカ達と最後に出会って1週間が経とうとしていた。
イルブも本当は、ジョルカ達と合流して共に鍛錬したい気持ちがあった。がイルブは、簡単に言うと怖かったのだ。
ドレンだけなら、ジョルカ、ジグル、3人共に戦えば勝つつもりだし、勝てるとも思っていた。が相手がニクス伯爵、ヴェイン王となれば話は別だ。
ニクス伯爵の顔を思い出してみる。髪の殆どが白髪のペリウィグで飾られ、それに何とも威圧感ただよう顔圧。怖いというより、不気味なのだ。
怖いだけなら、イルブもジグルもエドガーも、あまつさえ、コルブの事もイルブは怖いと思っていた。
(ドレンは怖くなかった)
イルブは、人を見る目がある。いわゆる、自分の仕事に誇りを持っている、そういった人達が持っている独特の雰囲気や迫力を、総じて怖いと認識していた。
がニクスは、別だった。やはり改めて思う。ニクスは不気味だったのだと。
ニクスでさえ怖いのだ。それがヴェイン王ならイルブは想像もつかない。
相手が国王、居城に攻めるとなると、警備兵や、もしかしたら軍が警護しているかもしれない。そんな中を10人程度で攻め込むというのか?
ジョルカと共に戦いたい!ジョルカは、初めて出来た同年代の気の許せる友なのだ。
でも怖い。
その葛藤の中、無情にも1週間の時間が経とうとしていた。
グレートランド歴1772年9月28日
イルブは、1週間何もせずベッドで寝ていた。がそれでも人間は時間が経てばお腹がすくので、久しぶりに地上の商業地区の食堂「キッチン ドレイク」に向かった。
ちゃんとした食事は、何日かぶりだった。店で注文し、夕食を食べようとしているとテスがその食堂に入ってきた。
「あら、またこのお店で夕食?」
とテスが声をかけてきた。
「ああ、ちょっと地上に野暮用があってね」
とイルブは簡単に答えた。
イルブは心の中で、
(そういえば事の発端は、テスだったのかもしれないな……)
と懐かしく思った。
テスとの出会いが落盤事故の阻止、ジョルカやジグルとの出会い、そして打倒ヴェインにつながった。そんな事は、テスは知らないだろうな……とイルブは思いながら、テスとの食事を共にした。
「まだテスは、ドレン邸にいるの?」
「そうね。ベルが来て2週間しか経ってないから、1ヶ月は引き継ぎ期間と考えてたけど……ベルさん物覚えがいいから、少し早くドレン邸から出れるかもしれない」
「そう。ベルさん頑張ってるんだね。何か文句とか言ってない?」
「そりゃー言ってるわよ。ドレンの下で働くのに、文句が出ない事なんてないでしょ」
とテスは笑った。
そうして談笑しているうちに、ふとテスが急に真顔になると、
「何か、嫌な事でもあった?」
「えっ?」
とイルブが聞き直す。
「うーーん、正直言うと、短い付き合いだから正確な事は言えないんだけど」
とテスは前置きし、
「前に会った時は、なんていうのかな?いきいきしてたっていうか……なんて言ったらいいのか分からないんだけど……」
「今は、いきいきしてないか……」
「いや、きっと私の気のせいね。気にしないで」
とテスはフォローした。
もし、このまま鍛錬に戻らなかったら……イルブは、自分の人生を想像した。
父親の店にも戻れない。ドレン邸にも戻れない。この先どうなるんだろうな……
そんな事を考えていると、テスが、
「もう食べ終わったし、出ようか」
と食事を切り上げた。
そうして、メインストリートを2人で歩いていると、コールマン商店の前を通りがかった。ちょうど父親が店じまいをしていた所だった。そして、
「どうしたイルブ、こんな所で」
といってテスを見る。と、コルブは一言、
「前に、純魔鉱石を取りに来た時は、男の顔になったと思ったが、勘違いだったようだな……」
といい、店じまいが終わったコルブは店の中に戻っていった。
テスは心配そうにイルブを見て、
「誰?何か言われたの?」
と心配そうに聞いてきた。
「テスさん、さっき、僕に前はいきいきしてたって、そう言ったよね?」
「うん。まぁ言ったけど……」
「ごめんテスさん、僕、用事を思い出した」
と言って、イルブは地下スラムに続く門まで走っていった。
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十条 閃




