第2章 22話 壱式完了・秘密の扉
グレートランド歴1772年9月20日
ジョルカが"零式"をマスターし肩の治療、イルブが"零式"をマスターして2ヶ月が経とうとしていた。
最初は狭い作業場だったが、2人の魔鉱石採掘と称した鍛錬のおかげで、当初よりその作業場は3倍以上広くなっている。
「先輩、もうあと1週間も経てば、ジグルさんが言ってた2ヶ月になりますね」
とイルブが一息ついたところで言った。
「そうだな」
と返事をしつつ、ジョルカはツルハシを振るった。カキーンっとツルハシが岩を砕くのをイルブは見て、
「もう先輩は、最初に比べて、ジグルさんが言ってた5倍近いスピードで、魔鉱石を掘れてるんじゃないですか?」
「そうだな、指向性、力の集中の仕方もだいぶ手についてきた」
とジョルカは、自分のアルカナの使い方に手応えを感じていた。
「イルブ、お前はどうなんだ?」
と今度は、ジョルカがイルブに聞いた。
「そうですね。僕の"エアノーラ"は、先輩のように目に見える能力じゃないんで、分かって貰えるか分からないんですが……」
と言いつつイルブは、
【エアノーラ】
と唱えた。するとイルブの姿が一瞬で見えなくなった。ジョルカがキョロキョロと辺りを見渡す。
そうして5秒、いや10秒経った頃だろうか。遠く、距離にして100m程離れた所にイルブが姿を表した。
「!!」
ジョルカは驚き、イルブの元に駆け寄った。
「どうです?先輩!!」
とイルブは、少し誇らしげに言った。
「いや、普通に驚いたよ。落盤事故の時以来だからな、イルブの能力を見るのは!瞬間移動か?ワープしたのか?」
とジョルカは、興奮したせいかやや大きい声でイルブに聞いた。
「いや、瞬間移動なんて、とんでも能力ではありません。ただ、体を軽くして、坑道の空気の流れに乗っただけです」
「いや、それでもすげぇよ!!もしかしたら、もっと早く移動する事も出来るのか?」
「まだ分かりませんが、可能だと思います。これからの鍛錬次第だと思います」
とイルブは謙虚にそう言った。
「俺も負けてられねぇなぁ……」
と2人で盛り上がっていたところに、聞き慣れた例の野太い声が聞こえた。
「どうやら、真面目に鍛錬したようだな……」
とジグルが今までの様子を見ていたのか、そう言って2人の前に現れた。
「親方ぁ」
「ジグルさん」
と同時に、2人は声を発した。
「すまんな。つきっきりで鍛錬を見てやれなくて」
とジグルは軽く謝罪した。
「それはいいけどよぉ。"壱式"の鍛錬がまだ足りないのか?もう合格ラインなのか教えてくれよ」
とジョルカが言った。イルブは何も言わないが、明らかにジョルカに同調した顔をしている。
「さきほどから2人の様子を見ていたが、ジョルカもイルブも"壱式"の鍛錬は大丈夫だろう」
「ジョルカ、イルブ、明日から俺も2人に付いて、"弐式"のトレーニングを行う」
「!!」
ジョルカとイルブは、2人顔を見合わせてハイタッチをした。
「これから、俺も加わり、"弐式"つまり実戦的な鍛錬をする事にする」
「3人で!?」
とイルブはガラにもなく興奮していた。
「ああ、俺も、ここ何年も魔鉱山の作業長なんてガラにもない事してたからな。腕がなまってるかもしれん……しかも、これからは、敵と相まみえる事も出てくるだろう。その時、お前ら若造の足を引っ張る訳にもいかんからな」
といい、笑いながらも真剣な顔で言った。
ジョルカとイルブは、そのジグルの真剣な顔を見て、いよいよ本当に戦いが始まるのだと改めて気を引き締めた。
「明日から"弐式"のトレーニングを始めるが……」
とジグルは一拍置き、
「その前に会って貰いたい人間がいる」
とジグルが言い2人の顔を見る。
「会ってもらいたい人間?」
とジョルカとイルブは顔を見合わせるとジグルが、
「そうだ。今日の鍛錬、いや"壱式"の鍛錬はここまでとする。今から、会って貰いたい人の場所に移動するから、2人は帰りの支度をしろ」
とジグルは言った。
そうしてジョルカとイルブは、鍛錬をしていた作業場を簡単に片付け、帰り支度をするとジグルに誘導されるままについて行くと、やがて魔鉱山A地区 現場事務所前に到着した。
魔鉱山A地区 現場事務所は、プレハブのような、木造の簡単な造りの小屋だ。表札には「A地区現場事務所」と殴り書きのように書いてあり、そしてその横に「責任者 エドガー=ロックハート」と書いてある。
その小屋の前にジグルは立ち、小屋のドアをノックする。
「ジグル=グラスゴーです。2人を連れてきました」
と中のエドガーらしき人間に挨拶をした。
中から、
「ああ、入ってくれ」
と、およそ魔鉱山の責任者とは思えないような落ち着いた声が聞こえた。
その声を合図にジグルはドアを開け、中に入る。2人はそれに続いた。
ドアを開けるとそこには、両面合わせると8人程座れそうな長机と、それに合わせるように6脚の椅子が並べてある。
エドガーらしき人間は、上座の1番奥で机の前に立っている。その人間は、3人が対面で座るように誘導すると、
「エドガー=ロックハートです」
と軽く頭を下げた。そうすると、
「アッシュ、イルブ、挨拶しねぇか」
とジグルに催促され、
「アッシュ=ジョーカーです。よろしくお願いします」
「イルブ=コールマンです。よろしくお願いします」
と2人は挨拶をした。
挨拶が終わるとエドガーは、3人に腰をかけるように促した。
「エドガーさんは、このA地区全体の作業長をしてる。俺は、D地区の中でも第6部署の責任者だったが、この人は、俺よりずっと役職が上の人だ」
とジグルはエドガーを紹介した。と同時に魔鉱山の作業終了を伝えるチャイムが鳴り響いた。
そうするとA地区の現場責任者だろうか、作業終了の報告をエドガーに報告する為、現場事務所に訪れた。それをエドガーが簡単に聞きメモをとり、報告を終えた魔鉱夫達は帰途についた。
そうして、魔鉱夫達が全員帰ったのをジグルとエドガーが確認した。とすると、エドガーが、
「ジグル、もう誰もいないか?」
と確認を取った。するとジグルが、
「ああ、全員帰ったようだ」
と先ほどとは違い急に砕けた受け答えになり、エドガーに返事した。それを確認し、エドガーが、
「ジグル、A地区の全体照明を消灯してくれ」
と言った。エドガーが、
「世間話は、ここまでだ。アッシュ君、イルブ君、ここからの話は秘密裏だ」
とエドガーが声を潜めて言った。とその時、ジグルが消灯を終え戻ってきた。
「では、アッシュ君、イルブ君、ちょっとこの長机を動かすのを手伝ってくれたまえ」
とエドガーが言った。
長机は、見た目と違い意外に重く、なかなか動かすのに骨の折れる作業だった。
そしてエドガーは、元、長机があった床の木材をコンコンと叩いた。
すると、床が浮き上がり、床から女性が現れた。
毎週 月曜 木曜 18時投稿予定です。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
「続きが気になる」「また読みに来てもいい」と思っていただけましたら、ブックマークしていただけると励みになります。
ジョルカたちの行く末を、ぜひ見届けていただけると嬉しいです。
十条 閃




