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第2章 12話 零式完全習得・ソラの治療

「決まってるだろ」


その言葉にジョルカは、意味が分からなかった。


「決まってるって?さっき親方の言ってた"壱式"とかいう奴か?」


とジョルカは聞いた。


「おいおい、もう俺は、お前の親方じゃねぇ。ここは師匠が正しいんじゃないのか?」


とジグルは笑って答えた。


「親方はすげぇ人かもしれねぇけど、何だ、その師匠って感じじゃねぇよ……」


「ワハハ……いや、いい。親方でいいぞ。俺もお前に師匠なんて呼ばれたくねぇしな、ワハハ」


とジグルは豪快に笑った。


「で?親方、俺は明日から何をするんだ?」


とジョルカは話題を変え、真面目に言った。


「ジョルカ、お前は静心流"零式"をマスターした。それは、お前の意思でアルカナの発動が止められるようになった事を意味するんだ。後は、分かるだろ」


とここまで言われて、ようやくジョルカは明日からすべき事を理解した。


「お前が"零式"を極めたとは言え、まだ俺から言わせれば50点だ。まだ意識しないと"零式"が発動しないからな。それに加えてソラちゃんも、長時間の治療の経験なんてないだろう。通常のヒーラーなら1日か2日で骨折ぐらいなら直せるだろうが、2人とも未熟だ。俺の見立てでは、5日はかかる」


「その5日に僕は、"零式"の習得に当てられるんですね!!」


とイルブが言った。ジョルカとのセンスの差に落ち込み気味だったが、元々はポジティブな人間なんだなとジグルはイルブを見てそう思った。


「おいおい。イルブさっきも言ったけど、"零式"の体得は、そんなに簡単じゃないからな」


とジグルは釘をさした。


「はい。でも頑張ります。ジョルカさん肩の治療、長くなってもいいですよ」


とイルブは笑って言った。


「そんな事したら、"壱式"とかの鍛錬の時間が減るだろっ!!」


とジョルカが突っ込んだ。


「そうだ。これからまだ鍛錬の時間は2ヶ月以上続く。明日から、ジョルカは自宅で肩の治療。イルブは引き続き、いつもと同じ時間にここに集合だ」


とジグルは、会話を締めた。




5日ぶりの帰宅に、ソラとリアは、


「お帰りジョルカ」


「おかえりお兄ちゃん」


とジョルカを笑顔で迎えてくれた。


リアは、事前にジグルから聞いていたのか、ジョルカの夕食の用意もしてくれている。そしていつもならガルドの方が帰りが遅いが、鍛錬が長引いたせいか、ガルドがテーブルに先についてジョルカの帰りを待っていた。


「ただいま」


とジョルカは、家族3人に向けて挨拶をした。


「ジョルカ、今日家に帰ってきたって事は、上手くいったようだな」


とガルドは言った。


「ああ」


とジョルカは短く返事する。すると、


「さて、ジョルカも帰ってきたようだし、久しぶりにみんなで夕食でも食べようか」


とガルドが口火を切った。


それは、まるでジョルカが帰ってくるのが分かっていたかのような夕食で、


(親方が親父に今日、家に帰るのを事前に言ってくれたんだな)


とジョルカはジグルに感謝した。


テーブルには、珍しくライスと琥珀色したコンソメのスープ、そして厚切りのローストビーフが4人で食べ切れるのかと疑問を持ちたくなるほどの量が大皿に盛り付けられ、テーブルの真ん中に置かれていた。


ジョルカは改めて、家で夕食が食べられる事に感謝し、久しぶりの団欒を楽しんだ。




夕食も食べ終わり、一息ついた頃、おもむろにガルドが青白く光る物をテーブルの上に置いた。


魔鉱石だ。しかもこれは、魔鉱山から持ってきたものではない。既に精錬されたものだ。魔鉱夫として働いてきたジョルカなら分かる。魔鉱山で採掘された魔鉱石とは、青さや光り方が違うのだ。


「明日からの治療にこれを使いなさい」


ガルドは、ソラに言った。


「えっ?」


ソラは、ガルドに疑問の目を向けた。


「明日から、暫く学校は夏休みじゃないか?」


「はい父様」


とソラは返事する。


「なら、明日から、ジョルカの肩の治療をしてやってくれ」


とソラにガルドは言った。


「はい。でも父様、私もお兄ちゃんの治療したいけど……そのお兄ちゃんは直せないと前にも……」


とソラが口ごもっている。


するとガルドは、ジョルカに目を向け言った。


「大丈夫だろ、ジョルカ?極めたんだろ?静心流"零式"を」


「ああ、バッチリだぜ、親父」


とジョルカは、親指を立ててガルドに合図を送った。そして、


「ソラ、明日から、よろしく頼む」


ジョルカは、ソラに向って優しく微笑んだ。




グレートランド歴1772年7月21日


そうして朝になり、いつものように家族4人で朝食を済ませると、ガルドがいつもの朝のように仕事に出かける。朝食も食べ終わり、リアがテーブルの上を片付けた。


「じゃーソラ頼む」


と短くソラに頼む。いつもの席にソラとジョルカは座っているが、椅子の向きがいつもと違い、お互い向き合っている。テーブルの反対側で、リアがその様子を見ていた。リアは心配ながらも、優しく見守っていた。


「うん、やるね」


の声にジョルカは、体を左に90°向きを変えた。ソラの目の前に骨折した右肩がある。


「お兄ちゃん、服脱いでもらえる……」


と恥ずかしそうに顔を赤くしてソラが言った。


「ああ、スマン」


といって、ジョルカは白いTシャツを捲り、膝の上に置く。


それを見てソラが手をかざそうとした時、ジョルカは目を瞑り、心の中でこう言った。


【零式】!!


ジョルカのアルカナ無効化は、完全に止まった。いや、剥き出しの常人のようになった。ソラも治療に意識を集中させる。


どれぐらい時間が経っただろう……


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


とソラが声をかけていた。気がつくと、右肩の痛みが少し和らいでいる。


「今日は、ここまでね」


とリアが少し疲れたであろうソラに声をかけた。


「私、まだ出来る!!」


というソラだったが、


「まだ、ソラはアルカナを使う事に慣れてないでしょ」


とソラを諌めた。


「ありがとうなソラ。でもジグルの親方から5日間貰ってる。ゆっくり治療してくれ」


「……分かった」


と少し悔しがるように、ソラは返事した。


「じゃーソラ、これを持って」


といい、昨日ガルドから差し出された魔鉱石の一欠片をソラに手渡す。


ソラはそれを受け取ると、


「これは?」


とリアに聞いた。


「精錬された魔鉱石よ。純魔鉱石って言うの。今、ソラはアルカナを使ったから、マナが枯渇してるわ。それを手に取って、グッと握りしめて」


ソラは言われた通り純魔鉱石を握った。そして3分ほど経った後、リアが


「もういいわソラ」


と言った。


ソラは手を広げ純魔鉱石を見た。青白く光っていた純魔鉱石が、今やその光を失っていた。


「今日から25日までは、これの繰り返しよ。ソラもアルカナの使い方に慣れてね」


とリアが言った。




2日目、またソラに治療を受けているとジョルカは、


(俺がソラに守られてる)


とソラに感謝の気持ちと少し悔しい気持ちで複雑な思いをし、3日目、4日目とジョルカはソラの献身的な治療を受けた。


そして5日目で完治した時、ジョルカも嬉しかったが、ソラは大切な兄の役に立てた事と、治療を終えた達成感でジョルカ以上に喜んでいた。


その様子を見たジョルカは、いつものようにソラの頭をポンッと2回叩き、感謝をしながらも「大げさだぞソラ」と軽口を叩きながらも、これまで以上にソラを守っていく、と心に誓った。




グレートランド歴1772年7月26日


「じゃーまた暫く行ってくる」


と言い残し、ジョルカは再び鍛錬場所である小高い丘に向かった。


小高い丘に行くと誰もいなかった。がそこにある大きめの石の上に、置き手紙があった。


「ジョルカ、この手紙を見たら、森の中に来い。ジグル」


と極めて用件しか書いていない短い手紙だった。


ジョルカは何事だと思いながら、森の中に向かうとジグルがいた。


「親方ぁ」


と声をかけようとすると、ジグルが


「あれを見ろ」


と指さした。


そこには、切り株の上に座禅を組んだイルブがいた。イルブの周りには、何もいない。


「今、どれぐらい時間が経った?」


とジョルカが問う。


「今、15分ってトコだ。やりやがるな……イルブも」


とジグルは、イルブを見守っている。


20分……25分……30分が経過した。


それを確認して、ジグルとジョルカはイルブのいる切り株の元へ駆けつけた。


「イルブ合格だ!!」


とジグルが言う。


「イルブやるじゃねぇか!!」


とジョルカも祝福した。


そしてイルブは一言、


「5日遅れましたけど、先輩に追いつきましたよ」


と相変わらずの笑顔をジョルカとジグルに見せた。

毎週 月曜 木曜 18時投稿予定です。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

「続きが気になる」「また読みに来てもいい」と思っていただけましたら、ブックマークしていただけると励みになります。

ジョルカたちの行く末を、ぜひ見届けていただけると嬉しいです。

十条 閃

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