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第2章 3話 我が祖国の真実

重苦しい空気の中、口を開いたのは、やはりガルドだった。

「敵……そう、敵だ。ジョルカ、俺達家族には、敵がいる。そして少ないが、味方もいる」

「敵って……誰だよ?」

漠然としたガルドの答えに、ジョルカは短絡的にしか聞けなかった。当然だ。皆目見当がつかないのだから。

「敵とは、ヴェイン王だ」

「ヴェイン王?現国王の?」

あまりに現実離れしている。いや、飛躍しすぎてピンと来ない。

ジョルカは、スラム街の一魔鉱夫だ。そんな俺の敵が現国王?バカげている。

「なんで俺の敵が現国王なんだよ。俺は一魔鉱夫だぜっ。現国王に何の接点もないし、恨む事も恨まれる事もしてねぇよ」

ジョルカは、ガルドにまくし立てた。

ソラは、少し震えながら何かにすがりたかったのか——ジョルカの左手を握った。

怯えるソラに、ジョルカは優しく微笑んだ。

ガルドは、そんなジョルカの反発に、静かなトーンで言った。

「先の落盤事故、あれは——おそらく、お前を狙ったものだ」

(!!!!!!!)

あまりの衝撃に、ジョルカは、眼の前が真っ暗になった。

否定したい。ガルドから視線をリアに移す。

リアは哀しい目をしていたが、真っ直ぐジョルカを見て、視線をそらさない。

(嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!)

心の中で、声にならない叫びを繰り返す。

「なら何か親父、俺の魔鉱夫仲間は——俺のせいで危険に巻き込まれたのかよ?親方も、イルブも、グレッグも、他のみんなも!!!!」

「イルブ君とジグルさんは違うが、他のみんなはそうだ」

今度はジョルカを諭すように、一旦落ち着けと言うかのように、ガルドは言う。

でも落ち着ける訳がない。

「なんで……ただの魔鉱夫の俺が……王様に命を狙われないといけないんだ?親父ぃ」

一転して、意気消沈した声になった。

「それは、ジョルカ——お前のその能力。アルカナのせいなのだ」

「俺のアルカナのせい?」

「そうだ。ジョルカ……」

一拍おいて、ガルドが言う。

「ジョルカのその、アルカナの無効化能力——"グランドサイレンス"が、このグレートランドの根幹、いや貴族社会の根幹を揺るがしかねない能力なのだ」

「なんで、その"グランドサイレンス"が貴族の根幹を揺るがすんだ?」

仲間が巻き添えを食らった事から話題がそれたせいか、先程より少し落ち着いて聞けた。

ガルドは、ジョルカが落ち着いたのを確認して口を開いた。

「詳しい事はまだ言えんが、簡単に言うと——今のグレートランドの社会は、アルカナを持つ貴族が絶対優位となっている」

「アルカナを使う事で、中流、下流——つまりスラムの人間を押さえつける力の源としてきた。普通の人間が何を言ってきても、反乱や謀反を起こそうが、アルカナの力で押さえつけられるからな」

ジョルカは黙って聞いていたが、少しして口を開いた。

「つまり、俺が貴族社会を潰す起爆剤になるって事か?」

ガルドは、黙って頷く。

「そうだ。つまりジョルカ——お前は、貴族、特に現国王ヴェインにとっては、いてもらっては困る存在なんだ」

「ジョルカ、過酷な運命だが——お前は、生きる為に、生き抜く為に、貴族、いや王を倒さないと生きていけないんだ」

ジョルカは何も言えず、ガルドの次の言葉を待つ。

ソラのジョルカに添えられた手が、いつしか強く握られていた。

さすがのジョルカも、気づかない。

少し時間が流れた。

ガルドが、また口を開く。

「ジョルカ、お前は——自分が生き抜く為、そして、この国を守る為に、王を……現国王を倒さなくてはいけない」

―――――――――――――――――――――

季節も夏になり、グラスのアイスティーの氷が溶け出して——

カラン、と音を立てた。

この沈黙の空間では、その音がやけに大きく聞こえる。普通のスラム街では、家庭で氷なんて用意できない。ガルドの権力が、それを可能にしている。

そのカランという音をきっかけに、ジョルカが口を開いた。

「国を守る?生き抜く為に?」

「そうだ。先にも言ったが、儂には予知夢——"ラプラスの悪魔"というアルカナがある」

ガルドは、テーブルに肘をつき手を組んで言った。

「その"ラプラスの悪魔"では——来年1月1日から4月1日までの間に、ヴェイン王は、魔鉱石を求めて隣国のフラージャ公国に戦争をしかける」

「儂の予知夢の再現率は、およそ70%だが……今回の予知夢に限っていえば、おそらく98%的中すると思われる。それぐらい今までになく、鮮明な予知夢だった」

ここまで言うと、ガルドは軽く——嫌悪感を振り払うかのように頭を振った。ガルド自身は、"ラプラスの悪魔"を信じたくないのだろう。

「ヴェインは、フラージャ公国を軽く見てる……」

もう敬称はつけていない。

「フラージャって——まさか、フラージャ公国は大国だぜっ。そんな国に戦争したって勝てっこないって」

ガルドは、即、否定した。

「フラージャ公国は確かに大国だ。国土もグレートランドのような島国に比べれば5倍以上あるだろう。人の数も圧倒的にフラージャ公国が上だ」

「だが今——いや、来年に戦争をすれば……もしかすると、いや、もしかしなくても、儂の見立てでは60%以上の確率で、我が国グレートランドが勝つ」

「俺達の国って、そんなに強いのか?」

「ああ、強い。というより——最近強くなったと言った方が正しい」

「ジョルカも学校で習ってると思うが、昔、我が国は牧歌的な国だった」

ジョルカは、黙って聞いている。

「それが、天才ボルト博士の魔鉱機関の開発で一気に近代化し、ヴェインの魔鉱革命がそれに拍車をかけた。もう今——いや、3年程前から我が国は、軍事大国だ」

いつしかリアが、ガルドに寄り添っている。

「先週、役所に国王からお達しがきた。スラムの税率を上げろと……その税金は、おそらく軍事費に使われるだろう。もう待ったなしの状態なのだ」

ここで、ソラが初めて口を開いた。

「怖い……」

自分の事でいっぱいだったジョルカが、久しぶりにソラを見た。

ソラは、13歳の女の子だ。政治的な話はあまり分からない。だが戦争が恐ろしい事ぐらいは理解している。将来の夢は魔鉱医学。心優しく、およそ戦争とは対極にいる女の子だ。

ジョルカは、改めて思った。

数日前に自分が立てた決心を。

(俺は1週間前、ソラを——この隣で震えてる女の子の夢を、全力で叶えると誓った筈だ)

(なら、親父の言う、自分が生きる為、そしてこの国を守る事が——ソラの夢を叶える事になるんじゃないのか?)

一気に、ジョルカの心に火が着いた。

腹が決まった。

夕食が始まってから1番低いトーンで、ゆっくりと——ジョルカは言った。

「俺が生き抜く為、そしてこの国を守る為に——何から始めたらいい?」

毎週 月曜 木曜 18時投稿予定です。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

「続きが気になる」「また読みに来てもいい」と思っていただけましたら、ブックマークしていただけると励みになります。

ジョルカたちの行く末を、ぜひ見届けていただけると嬉しいです。

十条 閃

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