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第1章 完 救出とカーティス家

ジョルカは、目を見張った。

スピード、手際の良さ、正確さ。そしてジョルカへの的確な指示。

(今まで、ただ口うるさい親方だと思っていたが)

ジョルカも仕事には自信があった。だがジグルのそれは、明らかに次元が違う。

なんで、これほどの人間が、しがない班長程度に収まってるんだ?

考え込んでいると「なんだ?もうへばったのか?変わってやるか?」とジグルが意地の悪い笑顔を見せた。

「うっせぇ。これぐらい屁でもねぇよ。親方こそしっかり坑道作ってくださいよ」

強がって答えた。いや実際ジョルカはへばっていない。

あえて言うなら——狼狽しているのだ。ジグルの凄まじい仕事ぶりに。

それから15分か20分ほどだろうか。

ジョルカの奮闘もあり、イルブとグレッグのいる作業場まで、簡易のトンネルが開通した。

「早かったですね」とイルブが感嘆する。

ジグルは、ジョルカを見て言った。

「ああ、こいつ若いが見どころがありやがる」

(なんだよ。今まで認めてくれてなかったのかよ)

少し拗ねた気持ちになったが——S級魔鉱夫に認められた、という事実は、悪い気がしなかった。

そして最後に、ジグルはニッと笑って言った。

「さすがは、ガルドさんの息子だな」

ひとまず落ち着いたところで、グレッグが勢いよく頭を下げた。

「親方、申し訳ない」

平身低頭で謝るグレッグに、ジグルは静かに言った。

「済んだ事だ。お前の処遇は、後だ。まずはここから全員脱出する事が先決だ。」

合流できた。簡易トンネルも開通している。後はエレベーター前の広場に辿り着けば助かる。

4人は慎重に、音を立てず、何にも触れないよう——ゆっくりと、しかし迅速に歩を進めた。

見た目には無事そうなグレッグだったが、やはり無傷というわけでもなく、足を若干引きずっている。

それでも簡易トンネルを抜け、少しずつゴールが近づいてきた。

そのとき——ズズッと、嫌な音がした。

4人は今、ダイヤモンドフォーメーション。菱形の陣形を組んでいた。

先頭にイルブ。異変をいち早く察知するためだ。

中央2列目に、ジョルカとグレッグ。体力に一番自信がある俺が、グレッグに肩を貸していた。

殿にジグル。背後の異変を確認しながら、全体を見渡している。

その菱形の先頭に——大きな岩が落ちてきた。

イルブは注意していたが、反応がわずかに遅れた。慣れない魔鉱山で、咄嗟に判断できなかったのだろう。

だがジョルカとジグルは違った。

見事なコンビネーションだった。

ジョルカはグレッグを肩から離し、前方のイルブを突き飛ばした。同時に、ジグルがグレッグを右に突き飛ばす。

事故の規模は、小規模だった。

だがジョルカのいた辺りに、異変があった。

突き飛ばされたイルブとジグルが、すぐにジョルカのもとへ駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

「おい、大丈夫か?」

2人が同時に声をかけた。

ジョルカは肩を押さえながら言った。

「はい。大丈夫です。まぁ骨折ぐらいは、してるかもしれませんが……」

………………

ジョルカの骨折を除けば、大きな怪我はなかった。

4人はエレベーターに乗り、更衣室へと続く広場へ——仲間のもとへ戻った。

1ヶ月という短い仲間。イルブに至っては、たった1週間の仲間だ。

それでも4人の顔を見た魔鉱夫たちは、一様に歓声と喜びの声を上げた。

特にジョルカとイルブへの称賛は、一層激しいものだった。

ジグルが、魔鉱夫たちを落ち着かせる。

興奮冷めやらない空気の中——更衣室の隣、休憩室から意外な人物が現れた。

「旦那、もう来てたのかい」とジグルが言った。

「ああ、面倒かけたなジグルさん」

その男が答える。

ジョルカは、一言だけ呟いた。

「親父?」

―――――――――――――――――――――

ジグルが魔鉱夫たちを、いつもの朝礼のように整列させた。

前にジグルが立ち、その横に親父が立っている。

「静粛に」

いつもの野太い声——だが、その場の空気は厳かだった。

「こちらにいらっしゃる方は、ガルド=カーティス。ヨーク市地下スラム統括部長だ」

ジグルが親父を紹介した。

「イルブ君、こっちへ」

親父がイルブを前に促す。

そして親父は、腰を45度曲げた。

慌てたイルブが90度頭を下げる。5秒ほど頭を下げた後、姿勢を正して親父が言った。

「今回、魔鉱夫の皆さんを危険な目にあわせて申し訳ない」

「申し訳ございません」

隣でイルブも頭を下げた。

「皆さんもご存知の通り、最近、魔鉱山での事故が多発している。詳細の事情は言えないが——」

ガルドが前置きし、続けた。

「ここ最近の事故に限れば、どうも自然発生したとは思えないような事故が多い」

衝撃の一言だった。

「そして、その手がかりをくれたのが、ここにいるイルブ君だ」

「イルブ君がいなければ、ここにいる皆さんは落盤に巻き込まれていただろう」

「もちろん、未然に防げたかもしれない。だがこの作戦を立案したのは、この私だ。どうかイルブ君を責めないでやってくれ」

親父が再度、魔鉱夫20名に頭を下げた。

そこへジグルが間に入った。

「この件は、1週間ほど前に旦那から聞いた話だ。詳しく言えないのが歯がゆいが……」

一拍おいて、ジグルらしく声を張り上げる。

「とにかく俺達は、旦那とイルブに助けられたんだ。それで納得しろ!!」

魔鉱夫20名は互いに顔を見合わせ——「おおーーーー」と歓声を上げた。

みんな、しっくり来ない部分もあるだろう。それでも、命が助かったことを受け入れた。

ひとしきり歓声が止んだところで、ジグルが静かに言った。

「お前ら、今日の事は他言無用だ」

「相手は、俺達20名が死ぬことなんて、何とも思ってないような奴らだ」

「命が惜しけりゃ、俺の言う事を聞いとけ」

半ば脅迫のような言葉だった。

ガルド以外の全員が、背中が寒くなるのを感じながら頷いた。

―――――――――――――――――――――

「ジョルカ、イルブ君。一旦、家に帰ろうか」

親父が声をかけた。

ジョルカは痛めた肩をさすりながら、頷いた。

肩の痛みに耐えながら、家路についた。

右に父親。左に、新しく友になった人間と共に。

家に帰るとリアが出迎えてくれた。俺の様子を見たせいか、いつもの笑顔はない。

「まぁ、大丈夫なの?」

「詳しい検査はしてないけど、骨折ぐらいはしてると思う」

リアは、イルブとガルドをキッと見た。リアには珍しく、厳しい眼差しだった。

「母さん、アクシデントだ。イルブを責めないでやってくれ」

実際そうなのだ。

「リアさん、すみません。僕の不注意でした。ジョルカさんは、僕を庇ってくれたんです」

それを聞いて親父が豪快に笑った。

「ワハハ、さすがジョルカだ。それでこそ我が息子だ」

そして「イルブ君、俺が言った通りだろ?」とニッと笑う。

イルブは、ガルドがジョルカを評した言葉を思い出した。

(ぶっきらぼうな男だが、中身は熱い男だ)

「確かに」とイルブが返事した。

俺は意味が分からず「なんだよ。俺がどうしたんだよ」と言う。

するとイルブは、家に帰ってきた安心と、ずっと続いていたプレッシャーから解放されたのか——久しぶりに笑って答えた。

「別に、なんでもありません」

「……でも私は嫌よ。どんな理由があっても、ジョルカが傷つくのは」

リアが心配そうに言う。

「こんな怪我は滅多にしないさ。心配すんな」

俺は母を安心させるためにそう答えた。

そのとき、ガルドが提案した。

「イルブ君、今日はうちでゆっくり飯でも食わんか?」

「君にも、そしてジョルカにも——話しておかないといけない事があるんだ」

さっきまでの豪快な笑いとは一転して、真剣な顔が俺とイルブに向けられた。

―――――――――――――――――――――

それから1、2時間が経った頃だろうか。

母が晩ごはんの支度を始めた。

さらに30分が過ぎ、夕食ができ上がった頃——ソラが家に帰ってきた。

「お兄ちゃん、どうしたの!?」

帰るなりソラは目を大きく見開き、ガルドとリアを見た。

家に帰ってから、患部を清潔にして簡単な応急処置はしていた。それでも骨折していて、多少の流血はある。完全に何もなかったようには見せられなかった。

ソラは、それを敏感に感じ取った。

(魔鉱医学を目指してるんだ。そういった事には鋭いかもしれんな)

ジョルカは、父親には内緒のソラの夢を思い出した。

ソラが改めてジョルカに詰め寄る。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「ちょっと落盤事故にあってな。骨折はしたけど大丈夫だ」

「ソラ、ジョルカの事は晩ごはんを食べた後だ」

ガルドがそう言うのと同時に、リアが出来上がった夕食をテーブルに置いた。

ポークステーキと、ミートソースのパスタ。

(いつもなら、楽しい夕食になるはずだったのに)

後悔の念が湧いたが——ジョルカは、今朝のガルドの言葉を思い出した。

(「……今日、仕事が終わったら話がある」)

その考えを打ち消す。

(親父は、今日、何かが有るのを事前に分かってたんだな)

いつもと違い、黙々と食事が進んでいった。

いつもと違う時間が流れ、いつもと違うメンバーがいる。

「少し遅くなったが、紹介が遅れたな。ジョルカと一緒に働いてるイルブ君だ。ソラ、挨拶なさい」

「はじめまして。ソラ=カーティスです。よろしくお願いします」

ソラが簡単に挨拶した。

イルブは、少しの間呆けていた。周りに間が空き、慌てて堰を切ったように言う。

「イルブ=コールマンです。お父様とお兄さんにお世話になってます」

自己紹介が終わると、ガルドがイルブに言った。

「イルブ君、申し訳ないが少しの間、席を外してくれないか?」

イルブはリアに案内されるまま、初めてこの豪邸に来たときに通された応接室で待機した。

リアが食卓に戻る。

それからすぐに——ガルドが口を開いた。

時間にして、1分ほどだろう。

だがその重苦しい空気は、4人にその10倍以上の時間を感じさせた。

「俺達は、能力者だ。今は理由あってスラムに居を構えてるが……」

「?」

ジョルカとソラは、目を合わせた。

「なんだよ親父、時間を使ってそんな冗——」

「冗談では無い」

ガルドが静かに遮った。

「冗談では、無いんだジョルカ」

意味が分からず泣き出しそうなソラを、リアが優しく胸に包み込む。

「ソラ……」

「嫌、でも能力者って地上に住んでる人たちだし、なんかアルカナって言うの?不思議な能力があるって聞くぜっ」

ジョルカは言った。

ガルドは、静かに答えた。

「ジョルカ、お前はアルカナを持っている。そしてソラ——お前もな」

ジョルカ「……」

ソラ「……」

2人は、声が出なかった。


――第1章 完――

第1章はここで終わりますが、来週月曜には、すぐ第2章が始まります。また引き続きよろしくお願いします。

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