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※本日2回目更新となります
※美咲視点となります
【要注意】
※めちゃくちゃ暗いです
(なんで、なんで、なんでよ!)
明かり一つ灯らない室内で、美咲は叩きつけていたクッションを投げ捨てる。
布が裂け、その中身が部屋中に散らばる中――床に拳を叩きつける。
「なんでぇ……?」
床に蹲ったままの美咲の頬を、ぽろりと涙が一つ零れ落ちる。
美咲は、美しく生れ落ちた事で幸福と、不幸を同時に味わっていた。
天使のようだと、妖精のようだと褒め称える声に酔っていられたのは幼少時まで。気付けば回りは皆美咲に勝手なイメージを抱いてしまっていた。
――それは、両親でさえも。
少しでも活発な事をすれば戒められ、ズボンを穿きたいと言えば困ったような顔をされ、似合わないと止められる。
行動、言動、服装までもが誰かのイメージのままの自分である事を求められる。
自分が自分らしくある事を誰一人受け入れてはくれず、周りの意見を無視してしまえば、悲しまれ、溜め息をつかれる。
私は人形じゃない!
そんな思いを抱きながら、けれど皆に失望されてまで思うままに生きるほどの強さも無い。そんな自分が嫌で、わかってくれない周囲が嫌で、何もかもが嫌になった時、ふと目にした銀色の光。
果物用の小さなナイフから目が離せなくなった。
自分の気持ちに気付いて欲しい。
その一念で、ナイフを手首に添える。だが――
その手を引く事は出来なかった。
痛みが怖い、刃が恐ろしい。そして、こんな事をしても何一つ伝わらず失望されるかもしれない未来が怖い。
ガタガタと震える手は、血が滲む程度のうっすらとした傷だけを刻むとナイフを取り落とす。
もう、嫌だ――こんな世界も、こんな自分も。
一人暗い部屋の中、そう泣き叫んだ瞬間、甦る記憶。
あたたかな家族、多くの友人。
これといって美しくも無い、平凡な少女は自分の憧れる全てを手にしていた。
たわいも無い話で笑い、自分を飾る事も無く過ごす日々。
憧れた。それが過去の自分の姿と気付いてもなお憧れ、羨み……憎んだ。
憎しみに目を濁らせながら、知った世界の中に……信じられない情報を見つけた。
この世界は、ゲームの世界だという。
ヤンデレといわれる者たちに壊れるほどに愛される少女がヒロイン。
そして、そのヒロインは……自分と瓜二つで、同じ名前だった。
欲しい……
そのゲームの中では、どれほど手ひどく拒絶しようと、どんな態度を取ろうともひたすらにその少女は愛されていた。
これほどの思いを向けてさえもらえば、どんな自分を見せようともそのまま愛してもらえるだろう。
素のままの自分を、痛いほどに愛されたい。その愛が欲しい。
その愛情を手に出来るのならば……こんな自分などどうなっても良い。
ああ……その為に私は今まで生きてきたのか。
すんなりとそう思えた。
彼等に出会うために、自分という存在はあったんだ。
美咲はそれから、彼らに思ってもらえる自分になるため、より美しさを磨いた。
思い出した記憶をノートに書き出し、彼等の傷を癒し、自分が唯一の存在になるために間違える事など無いように何度もそれを読み返した。
それなのに――
世界は、またしても美咲を裏切ったのだ。
記憶のままの姿をしているのに、彼等は皆違っていた。
この世界が、どこまでも私を裏切るというのなら――欲しいものを、無理やりにでも得よう。
そう、思った。