第1章:2. 緑痕蔓延る日常(2)
続く一週間、家全体の空気はいつ爆発してもおかしくない圧力鍋のように張り詰め、同じ屋根の下で暮らしていながら、まるで安宿に居合わせた見知らぬ他人同士のように過ごしていた。
毎朝、舒玟妤は気力を振り絞り、いつもより一時間早く起き上がった。
洗練されたアイランドキッチンに立ち、心を込めてフレンチトーストを焼き、片面焼きの目玉焼きを丁寧に仕上げ、コーヒーマシンで香り高いカフェラテを二杯分淹れた。
大理石のダイニングテーブルへ慎重に朝食を並べ、闕恆遠の分を寸分の狂いもなく整え、フォークの角度まで丁寧に整えた。
闕恆遠がスーツに着替え、氷のように冷徹な面持ちで書斎から出てくるたび、舒玟妤は弾かれたように立ち上がり、その口元に必死の媚びるような笑みを浮かべた。
「あなた」
「朝ごはん、できたよ」
「あなたの好きなフレンチトースト焼いたの」
「温かいうちに食べてね」
だが、彼女に応えるものは、いつだって絶望的な沈黙だけだった。
闕恆遠はそのダイニングテーブルに一瞥すらくれることはなかった。
まっすぐに玄関へと歩みを進め、ビジネスバッグと上着を手に取ると、そのまま大扉を開けて外へと出ていく。
その直後、冷淡に響き渡る無慈悲なドアの閉まる音だけが室内に残された。
舒玟妤はテーブルの傍らにぽつんと立ち尽くし、徐々に熱を失っていく二杯のカフェラテを見つめていた。
大理石の天板の上へ、いつも抗うこともできずに涙が零れ落ちる。
ここまで低姿勢で過ちを認め、機嫌を取ろうと必死に尽くしているというのに、なぜ闕恆遠は一度言葉を交わす機会すら与えてくれないのか。
彼女にはそれが理解できなかった。
胸の内に渦巻く挫折感とやり場のないやるせなさは、時の経過とともに、言いようのない焦燥へと姿を変えていった。
家庭内の狂おしいほどの重苦しい低気圧から逃れるため、舒玟妤はすべての精神的な拠り所を、あの深夜の高架橋の上で受け取った採用通知の電話へと傾けていた。
対外的に大規模な外資系投資会社を名乗るその企業は極めて仕事が早く、木曜日の夕方には正式な採用通知メールを送ってきた。
来週の月曜日の朝九時、信義計画区の一等地にそびえる超高層オフィスビルへ出社するよう指定されていた。
スマートフォンの画面に映る、洗練されたレイアウトとプロフェッショナリズムに満ちた文面を見つめながら、舒玟妤は誰もいないリビングのソファで深く息を吐き出した。
窓の外に広がる内湖科学園区の煌めくネオンを見つめ、彼女は心の中で強く誓った。
この新しい会社で、絶対に結果を出してみせる。
仕事で成果を上げ、自らの能力を証明し、より多くの報酬を手にすることができれば、きっとこの家庭にも何かしらの変化をもたらすことができるはずだ。
新しい人生の計画を歩み始め、新たな職場環境を迎えたとき、闕恆遠が自らの努力と変化を目の当たりにすれば、その胸の怒りも少しずつ消え去るかもしれない。
そして二人の関係も、かつてのような甘やかな軌道へと戻れるに違いない。
このときの舒玟妤の澄んだ瞳には、未来への渇望と期待の光が宿っていた。
彼女は本気で、この新しい仕事を通してこの結婚生活を取り戻そうと願っていたのだ。
だが、この瞬間の彼女には、想像することすら叶わなかった。
見えない暗闇の片隅で、運命の歯車が彼女を丸ごと呑み込む底知れぬ深淵を、とっくに掘り進めていたことなど。
そして、彼女がすがりついた命綱とも言えるその採用通知こそが、美しく飾り立てられた地獄への招待状であったことを。
金曜日の午後、台北の空はどんよりと鉛色に曇っていた。
敦化南路に佇むビジネスカフェの窓際席で、闕恆遠は手に持った洗練された万年筆を走らせ、共同開業のパートナーシップ協定書へと淀みなく己の名を署名した。
彼の向かいの席には、今日、事務所の共同設立を正式に取り決めるために顔を合わせたビジネスパートナー、江睿宇が腰掛けていた。
江睿宇は仕立ての良いグレーのシャツを颯爽と着こなし、全身から洗練された熟練の風格を漂わせている。
長年にわたり業界でプロジェクトの統合管理と多国籍ビジネスの橋渡しを担ってきた人物であり、建築構造の資格証明と空間美学を極めた闕恆遠とは、まさに完璧な補完関係にあった。
江睿宇は闕恆遠から差し戻された契約書を受け取り、署名を丹念に確かめると、快活な笑みを浮かべて右手を差し出した。
「恆遠」
「良いパートナーシップを」
「この『遠睿総合デザイン』という看板はさ」
「君がデザインと構造の統括を引き受け」
「俺がビジネスの対外折衝と現場の施工管理を一手に背負う」
「手元にある内湖のオフィスビルや信義区の大型案件も」
「俺たち二人がタッグを組めば」
「間違いなく台北の業界で確固たる地位を築けるはずだ」
闕恆遠は彼と手を握り交わしたが、その表情には依然として微かな距離感と落ち着きが漂っていた。
「睿宇」
「買い被りすぎだ」
「ビジネスと現場におけるお前の手腕の高さは、昔から評判通りだからな」
「立ち上げたばかりの新しい事務所だ」
「この先の工務の調整や施工業者側との連携については」
「色々と骨を折ってもらうことになるが、頼む」
江睿宇は契約書を仕舞いながら、目の前にいるパートナーが今日どこか上の空であることに鋭く気づいていた。
先ほど契約の条項を詰めていた際、闕恆遠は極めて専門的で寸分の狂いもない判断を下していた。
しかし、その漆黒で深淵な瞳の奥底には、終始拭い去れない冷たい影が淀んでいた。
店員が書類を運んでくるのを待つわずかな合間にも、闕恆遠は幾度となく窓の外に広がる敦化南路の街路樹を見つめ、我を忘れるように物思いに沈んでいたのだ。
ビジネスの現場で長年場数を踏んできた手練れとして、江睿宇は相手のプライベートに無遠慮に踏み込むような無粋な真似はせず、ただ朗らかに笑って言葉をかけた。
「恆遠」
「少し顔色が疲れているようだが」
「最近、案件が立て込みすぎて無理をしているんじゃないか?」
「事務所は立ち上がったばかりだが」
「仕事の合間にも体調には気を配らないと駄目だぞ」
「確か、結婚してまだ一年も経っていないんだろう?」
「奥さんもさぞ心配しているんじゃないか?」
「奥さん」というその二文字を耳にした瞬間、コーヒーカップを握る闕恆遠の指の節が、微かに青白く強張った。
その端正な顔立ちに、極めて複雑な苦痛と氷のような冷徹さが一瞬にして掠め過る。
脳裏には、あの同窓会の個室で舒玟妤が見せた軟弱な態度と、連昊成による下劣極まりない屈辱の光景が抗う間もなく甦った。
だが彼は、強靭な自制心によってそれを瞬時に覆い隠した。
口元に淡い嘲笑めいた薄い笑みを浮かべ、カップを傾けてコーヒーを一口含む。
「気遣いに感謝する」
「ただ最近、いくつかのプロジェクトが同時に重なって動いているだけだ」
「少し睡眠が足りていないだけさ」
「大したことじゃない」
江睿宇は頷き、それ以上その話題を掘り下げることはしなかった。
二人はほどなくして会計を済ませ、それぞれの道へと歩み去っていった。
カフェを後にした闕恆遠は、午後の蒸し暑さが漂う台北の街を一人歩いていた。
両側にそびえ立つオフィスビルのガラスウォールには、どんよりと垂れ込める鉛色の空が映り込んでいる。
行き交う会社員たちは足早に通り過ぎ、誰もがどこか冷淡で、互いに無関心な距離を保っていた。
闕恆遠はネクタイの結び目を少し緩めたが、胸の奥底に巣食う息苦しさは一向に晴れる気配がなかった。
あの荒唐無稽な同窓会が終わって以来、目を閉じるたび、脳裏には連昊成のあの卑劣で勝ち誇った挑発的な顔と、耳元で執拗に木霊する下劣な言葉の数々が勝手に甦ってくる。
そして個室で見せた舒玟妤のあの軟弱さ、波風を立てまいと取り繕おうとした態度は、鈍い刃となって、この婚姻に対する彼の信頼を今も毎日容赦なく削り続けていた。
彼女を愛しているのか?
その答えは疑いようもなく首肯すべきものだった。
そうでなければ、あれほど多くの求婚者が群がる中、彼女の手だけを取り、生涯をかけて守り抜くと誓いなどしなかったはずだ。
だが、深く愛していたからこそ、最愛の人間から受けた裏切りと軽んじられた痛恨は、より一層骨の髄まで深く突き刺さる。
あの息さえ詰まる冷え切った家で、自分があとどれほど耐えられるのか、彼自身にも分からなかった。
機嫌を窺い、泣き腫らした瞳で自分を見つめる舒玟妤の顔を見るたび、胸の奥底に湧き上がるのは激しい怒りだけでなく、それ以上に言いようのない深い悲哀だった。
いつしか空は暗さを増し、台北の街並みには色鮮やかなネオンが灯り始めていた。
闕恆遠は内湖のマンションへ車を走らせることなく、ただ一人、賑わう信義区の街路を当てもなく彷徨っていた。
肩を寄せ合って笑い合う若い恋人たちが、幾度となく彼の傍らを通り過ぎていく。
その睦まじい触れ合いも楽しげな笑い声も、今の彼の目には、耐え難いほど刺々しく滑稽なものにしか映らなかった。
歩道橋の上に立ち止まり、基隆路と信義路が交わる交差点を見下ろす。
奔流のように途切れることなく流れ去る車のテールランプの軌跡を見つめるその漆黒の双眸には、氷のような冷徹さと深い迷いが、複雑に絡み合っていた。
この婚姻は、最初に走った亀裂が露わになって以降、時の経過とともに癒える兆しすら見せなかった。
それどころか、見えない暗がりでじくじくと膿み続ける傷口のように、二人の何気ない日常の輪郭を蝕み、狂ったように侵食を広げていた。
誰もが自らの退路を探し求めていた。
舒玟妤は新しい仕事を救済への唯一の糸口と信じ込み、闕恆遠は冷徹な沈黙の奥底で防壁の壁を高く厚く築き上げ続けていた。
互いに異なる思惑を抱え、擦れ違い離れていく二つの魂。
残酷に仕組まれた運命の悪戯の下で、二人はさらに狂気を孕んだ、そしていっそう無慈悲な次の転換点へと、着実に歩を進めていた。
深夜の街並みを車が疾走し、内湖のマンションには今夜もあの孤独な書斎の灯りがぽつりと灯り続けている。
冷戦はなおも終わりを告げず、そして運命の歯車は、重く冷ややかな噛み合わせの音を響かせながら、二人を深淵の底へと無慈悲に押し流していた。




