第1章:8. 新たな幕開けの朝光と、忍び寄る暗い影(4)
夕方六時半、內湖のマンションのリビングには、温かみのある琥珀色のフロアランプが灯っていた。
キッチンからは換気扇の低い唸り音と、フライパンの上でへらが小気味よく食材を返す軽快な音が響いている。
闕恆遠は深い藍色のエプロンを身に纏い、コンロの前に立って新鮮な二尾のイシモチを香ばしく焼き上げていた。
調理台の上には、綺麗に水洗いされた芥藍菜と、ちょうど煮込み終えたばかりの山芋とスペアリブのスープが整然と並んでいる。
事務所で正式に二人の新戦力を迎え入れ、各プロジェクトの進捗が確かな軌道に乗って以来、闕恆遠の全身からは内側から満ち足りた落ち着きと、揺るぎない輝きが滲み出ていた。
以前のように酒で鬱屈を紛らわせるようなことは一切なくなり、むしろこれまで以上に進んでこの家庭を慈しむようになっていた。
現場やオフィスから少しでも早く上がれる日は、必ず帰り道に市場へ立ち寄り、舒玟妤のために自らの手で温かい夕餉を用意していたのだ。
玄関の電子錠から、ピピッという軽快な解錠音が響いた。
舒玟妤はハイヒールを脱ぎ捨て、スリッパへと足を入れるとリビングへと歩み寄ってきた。
部屋いっぱいに漂う家庭料理の芳しい香りが、張り詰めていた彼女の疲労を瞬く間に解きほぐしていく。
「恆遠、」
「今日はこんなに早く帰れたの?」
「それに、こんなにたくさん作ってくれたの?」
舒玟妤はキッチンの入り口まで歩み寄り、忙しなく立ち働く闕恆遠のすっきりとした後ろ姿を見つめた。
その声には、隠しきれない喜びと柔らかな愛情が滲んでいた。
闕恆遠はコンロの火を落とし、きつね色に香ばしく焼き上がったイシモチを白い磁器の皿へと丁寧に盛り付けた。
そして振り返って舒玟妤の顔を見つめると、その瞳の奥に穏やかで優しい笑みを湛えた。
「今日から事務所が本格的に始動してね、」
「新しく入ってくれた総務・法務のチーフがとても優秀な方なんだ」
「細々とした雑務を一分の隙もなく完璧に片付けてくれたおかげで、」
「今日は少し早く上がることができたんだよ」
「ほら、早く手を洗っておいで」
「スープも今ちょうど飲み頃だからね」
食卓を囲み、二人は肩を並べて腰掛けていた。
漂う空気はどこまでも和やかで、温もりに満ちている。
闕恆遠は細やかな手つきで、魚の中で最も脂が乗った柔らかな腹身をほぐし、舒玟妤の器へと取り分けてやった。
そして微笑みながら、昼間のオフィスで起きた微笑ましい出来事を語り聞かせる。
「今日入ったジュニアアシスタントの子は、悦清禾っていう新卒の女の子でね」
「手描きのパースの基礎がすごくしっかりしているんだよ」
「でも最初は緊張のあまり、ろくに言葉も出ないくらいでさ」
「図面をチェックさせたら、赤ペンを握る手が小刻みに震えていてね」
「本当に純粋で、初々しい子なんだ」
舒玟妤は旨みの溶け出したスープを口に含み、夫が嬉しそうに語る様子を眺めながら、胸の内にじんわりとした温もりを覚えていた。
そして、何気ない調子で尋ねた。
「それで、その総務のチーフの人は?」
「うまくやっていけそうな方なの?」
「ああ、」
「伊さんという方でね、」
「伊凝婉というんだ」
「以前は外資系のラグジュアリーブランドのグループ企業にいたらしくてね、」
「契約書の精査や全体のオペレーションの回し方が本当に手慣れているよ」
闕恆遠は何一つ隠すことなく、その眼差しは澄み渡り、からりと明るかった。
「彼女たちがいてくれるおかげで、」
「ようやく信義区のあの案件にすべてのリソースを注ぎ込めるようになったよ」
「それならよかった、」
「あなたがそんなにやる気に満ちているのを見られて、」
「私もほっとしたわ」
舒玟妤はそっと手を伸ばし、闕恆遠の口元にわずかについていたソースを優しく指先で拭ってやった。
闕恆遠はその手を自然と包み込み、彼女の少しひんやりとした掌を、自らの温もりで包み込んだ。
深みのある瞳で彼女をまっすぐに見つめ、その声音は低く、深い愛情に満ちていた。
「玟妤、」
「ここ最近、苦労をかけてばかりで悪かったね」
「信義区の大型案件の契約が正式に結ばれて、」
「事務所に第一期の前受金が振り込まれたら、」
「新しい家を見に行こう」
「大きな窓と広いバスタブのある、もっと広いマンションに引っ越すんだ」
「二人で、一からやり直そう」
闕恆遠の瞳に浮かぶ、一切の防壁を取り払った深い愛情と未来への憧れを見つめ、舒玟妤の心臓は細い針でチクリと刺されたかのように、かすかな痛みを覚えた。
しかし次の瞬間には、いつもの慣れきった自己欺瞞が再び頭をもたげ、その痛みを塗りつぶしていった。
「ええ、」
「全部あなたに任せるわ」
舒玟妤はおとなしく甘やかな笑みを浮かべ、自分からそっと、闕恆遠の広い肩へと身を寄せた。
その夜、主寝室の間接照明は水面のように柔らかな光を投げかけていた。
輝かしい未来への憧れを孕んだ甘やかな空気の中、闕恆遠は舒玟妤を固くその腕の中に抱き締め、二人は再び、胸を締めつけるほどに深情けで熱烈な肌の交わりを重ねた。
闕恆遠はやはり何一つ身を守る防具を着けようとはせず、肌に落とされる口づけのすべて、漏れ出る囁きのすべてに、妻との絆を完全に修復し、二人で新たな命を迎え入れたいという一途な願いを託していた。
舒玟妤は夫の熱い抱擁のなかで激しく乱され、快楽の波が押し寄せるがままに、自らその熱情を迎え入れた。
肌と肌が激しく擦れ合うその熱情に身を任せることで、心の底にこびりつく日の目を見られない欺瞞と臆病さを、すべて洗い流してしまおうとするかのように。
夜は深まり、台北の街に降り注ぐ雨粒が窓ガラスをかすかに叩いていた。
リビングの灯りは次第に落とされ、冷たい湿気がガラス一面にぼんやりとした白い霧の膜を張っていく。
部屋の中は、まるで最初から何も起きてなどいなかったかのように静まり返っていた。
舒玟妤は夫の温かな首筋へと顔をうずめ、そっと瞼を閉じた。
手に入れたばかりのこの平穏に全身を委ね、規則正しい寝息のなかで、静かに深い眠りへと落ちていった。




