第1章:7. 堅実な雛鳥と初めての会食(2)
夜の帳が下り、信義区のネオンの灯りが細雨の中で混じり合い、眩惑的な光の海を織りなしていた。
市政府地下鉄駅の近くにある高級フレンチビストロの店内では、温もりあるシャンパンゴールドのシャンデリアが柔らかな光を投げかけ、深色のロングテーブルには美しく盛り付けられた冷菜や炭火焼きのビーフステーキ、そして赤ワイングラスがずらりと並んでいた。
これは舒玟妤が入社一ヶ月を迎えて以来、初めて参加する部署の定例食事会であった。
企画部の七、八名の同僚たちがひとつのテーブルを囲み、場は和やかで楽しげな熱気に包まれている。
上座に腰を落ち着けた連昊成は、仕立ての良いスーツの上着を脱ぎ、上質なペールブルーのオックスフォードシャツ姿で、袖口を無造作に二つ折り返していた。
その佇まいは知的でありながら、どこまでも気さくな印象を与える。
連昊成はワイングラスを手に、ユーモアを交えた軽妙な語り口で先輩社員たちのプロジェクトの進捗を大いに称え、さらには試用期間を終えたばかりの新人数名に対しても自ら進んで労いの声をかけていた。
ディナーの席を通じて、連昊成が見せていたのは非の打ち所がないエグゼクティブとしての品格と、極限まで計算された節度であった。
舒玟妤に対してことさらに私的な会話を振ることもなく、視線の交差すら業務上の労いに留め、全編を通じて舒玟妤とは少なくとも二席分以上の礼儀正しいソーシャルディスタンスを保ち続けていた。
舒玟妤の隣に座る千慕羽は、静かにステーキを切り分けながら、終始落ち着き払った表情を崩さない。
千慕羽は時折、舒玟妤と声を潜めて来週控えている越境ECプラットフォームとの擦り合わせ手順について言葉を交わしており、二人の実務上の連携は日ごとに円熟味を増していた。
「連総監は予算の獲得や上層部との折衝にかけて、確かに極めて優れた手腕を持っているわ」
舒玟妤の隣に座る千慕羽は、静かにステーキを切り分けながら、落ち着き払った表情を崩さない。
舒玟妤は少し離れた席で他の同僚たちと談笑している連昊成を見つめ、何気ない調子で相槌を打った。
「連総監は業務の進行管理にはとても厳しい印象だけれど、」
「こうして仕事から離れると、ずいぶん物腰が柔らかくて親しみやすい方なのね」
千慕羽はスパークリングウォーターに小さく口をつけ、ナイフとフォークを置くと、淡々と客観的な口調で応じた。
「要求した予算を満額で通してくるような上司は、」
「ビジネスの現場において、確かに並外れた腕利きよ」
「けれど、こういう成果至上主義のリーダーの下で働くなら、」
「こちらが完璧な数字さえ出してしまえば、」
「余計な根回しに悩まされることもなくて、むしろ一番気が楽なものだわ」
舒玟妤はふっと微笑み、同意するように頷いた。
連昊成が一晩を通じて気前よく勘定を持ち、女性社員たちとも常に申し分のない距離感を崩さなかった様子を見て、舒玟妤の胸の奥底に燻っていた最後の警戒心は、完全に霧散していった。
入社前にあれほど恐れていた執拗な付きまといや気まずい空気など、奇跡のように何一つ起こらなかったのだ。
連昊成は本当に過去を綺麗に清算したのだと、彼女はますます確信を深めていた。
自分が一社員としての本分を守り、企画で確かな結果を出しさえすれば、この一流の外資系企業は間違いなく人生の最高の足がかりになる。
かつて抱いていた不安や防衛意識は、今となってはまったくの杞憂に過ぎなかった。
お互いに成熟した社会人としての立場を確立した今、この公私の境界が明確に引かれた職場環境は、彼女にこれまでにない確かな安心感を与えていた。
食事会の間、舒玟妤が口にしたのは食前酒の甘口白ワインを半分ほどだけで、頭は冴えわたり、胸の内は満ち足りた安らぎに包まれていた。
夜の九時四十分、食事会は賑やかな笑い声のなかでお開きとなった。
同僚たちはビストロの店先で口々に別れの挨拶を交わし、連昊成は数名の女性社員に向けて礼儀正しく夜道の安全に気をつけるよう声をかけた後、一人でタクシーへと乗り込み走り去った。
そこには、何の未練がましい素振りも、過剰な絡みも一切なかった。
舒玟妤は肌寒さの残る通りに立ち、湿り気を帯びた澄んだ夜気を深く吸い込んでから、スマートフォンを取り出して闕恆遠へとメッセージを送った。
『恆遠、』
『食事会、終わったよ』
『市府駅の三番出口のあたりにいるね』
わずか数分後、スマートフォンが短く震えた。
『交差点のすぐ横の一時停車スペースにいるよ』
『ハザードランプをつけて待ってる』
舒玟妤が顔を上げると、案の定、すぐ先の街路樹の陰に、見慣れたダークグレーのSUVが静かに停まっていた。
オレンジ色のハザードランプが、夜の雨の中で規則正しく点滅を繰り返している。
舒玟妤は足早に歩み寄り、助手席のドアを開けて滑り込んだ。
車内は程よい温度の暖房が効いており、ほのかなシダーウッドのアロマが漂い、スピーカーからは穏やかなジャズピアノの旋律が流れていた。
闕恆遠は部屋着のダークグレーのジップパーカー姿で、こちらへ体を向け、買ってきたばかりのスリーブ付きの温かい黒糖生姜湯をそっと彼女の手のひらに握らせた。
「外、雨で急に冷え込んできたからね」
「少し飲んで、体を温めなよ」
闕恆遠は彼女の頬に差す淡い赤みを見つめ、その瞳には惜しみない優しさと気遣いが満ちていた。
舒玟妤は両手で温かい紙コップを包み込み、夫の澄んだ真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
その胸の奥底から、抗いようのない幸福感と安堵がじわりと湧き上がってくる。
「仕事は順調かい?」
「今日の部署の食事会、みんな気さくで話しやすい人たちだった?」
闕恆遠は緩やかにアクセルを踏み込み、車を夜の車流へと合流させながら、何気ない調子で優しく問いかけた。
「うん、」
「みんな本当にいい人たちばかりで、」
「仕事もすごく充実してる」
舒玟妤は甘く香ばしい生姜湯を一口含み、柔らかな本革のシートに体を預けながら、肩の力を抜いた柔らかな笑みを浮かべた。
「恆遠、」
「迎えに来てくれて、本当にありがとう」
「馬鹿だな、」
「夫婦の間で、お礼なんていいのに」
闕恆遠はふっと笑い、右手を伸ばして彼女の髪を優しく撫でた。
ワイパーがフロントガラスの上を規則正しく行き交い、滲む水煙を一枚一枚拭い去っていく。
車内は春先のように暖かく満ち足りており、二人は見つめ合って微笑みを交わした。
かつて生じたはずのあらゆる亀裂や不安など、まるで夜風と共に遠くへ消え去ってしまったかのように。




