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奴隷宰相 リュカと西国の異教禁圧編  作者: 近衛翡翠


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寛容と特区

ダボク教への公認を得るべく、リュカ達は、頭を悩ませていた。何しろ首都リンベルでは、一神教のルーサク教の勢力が強い。ユニマル本国の影響力の強い議員のほとんどは、ルーサク教の信徒である。一番いいのは、「宗教寛容令」を議会で通過させることである。「宗教寛容令」とは、他宗教の信徒に対し、一定の条件付きで宗教の自由を保障することを指す。

しかし、この案は帝国全土に深刻な影響が及ぶとの批判が予想される。そこで第2の案としてリュカは、ユニマル本国の一部を宗教特区に設定し、自らの領国カナイマにおいては、宗教の寛容を推進するという法律を用意した。こうすれば、帝国の内側から禁教を骨抜きにできるであろう。

この両案を携えて、リュカは帝国議会へと舞い戻った。議員たちへのブリーフィングの感触は、悪くなかった。



宗教寛容令


第一条 信仰の保持 帝国臣民は、ルーサク教を始め、多種多様な信仰を私的に保持する権利を有する。

第二条 礼拝と集会 礼拝所の設置及び宗教的集会は、各地方自治政府への届け出をもって認められる。

第三条 差別の禁止 信仰の違いを理由とした、財産・職業・移動・教育の権利の制限は認められない。

第四条 治安規定 何人も宗教を理由にした武装、強制改宗、反乱扇動は認められない。

第五条 宗教紛争の管轄 宗教に関わる紛争は、当該地域を管轄する地方政府が裁定する。


宗教特区令


第一条宰相リュカの領国であるカナイマに限り、宗教特区として設定する。

第二条領国内では、宗教寛容令を独自に制定し、異端を保護するものとする。


***************************


しかし、いざ本会議に入ると、デッシュさん達率いる譜代の重臣から総スカンが起こった。特に、寛容令の第5条が問題なのだという。

「宗教紛争を地方政府が裁定するのではなく、中央政府の管轄とすべきだ。」「地方に任せれば、異端が野放しになる!」と熱烈にルーサク教を信奉する議員たちが、「ルーサク教国教擁護の会」なるものを作って、反発し始めたのだ。

「中央政府の管轄としては、ルーサク教以外は、実質的に認められなくなるでしょう。」とヘレナはリュカに報告する。

「中央のユニマル領では、ルーサク教以外は異端として弾圧されてるもんね。」

「要するに、異端審問官の裁量が大きくなって、ルーサク教のみが認められる今の状態が永続すると。」とリル。

「そうだね。」

「何とかならないかなあ」とマリー。

「じゃあ、宗教特区令に焦点を合わせようか?」

「ところが、そっちも帝国の法規に例外を認めるとは、いかがなものかという声が大きいのよ。」とヘレナ。

「なるほど。原則論で特区令を排除にかかってるのね。」とマリー

ヘレナは首肯する。

「また、リュカの領国で制定する宗教寛容令の内容を見ないと、判断できないとする声もあるわ。」とリル。


「じゃあ、まずはそっちを固めようか。」とリュカ。


こうしてできたのが、「特定領邦宗教寛容令」である。


第1条 この法令はリュカ領でのみ適用される。

第2条 本領内において、住民は信仰を理由に処罰されない。

第3条 宗教団体は、登録を行うことで、本領内における礼拝を公的に行える。

第4条 宗教団体は、リュカ領の統治に協力すること。

第5条 宗教規範が、領邦の法体系を超越することは禁止する。

第6条 宗教団体は、武装権・徴兵権・裁判権を行使してはならない。

第7条 信仰を理由とした、課税を禁止する。

第8条 信仰を理由とした、商取引の制限および教育の制限を禁止する。


つまり、「宗教寛容令」は、帝国の宗教政策の原則を根本から変更するものに対し、「特定領邦宗教寛容令」は、リュカ領内でのみの宗教特区を設定するのが主眼である。要するに、二正面作戦だ。


***************************


翌日、帝国議会の本会議場にて


両案が議会に提出されると、デッシュ率いるユニマル譜代の家臣団の間から総スカンが起こった。

まず宗教寛容令は予想された通り、宗教界の反発が沸き上がった。

いわく、「ルーサク教は、唯一至高の教義である。」いわく、「異端を認めることで信仰が揺らぐ。」いわく、「国家が教義に介入するとは何事か。」


「ルーサク教が至高の存在であることには、何ら変更はありません。」とリュカは説明をする。

加えて、「異端を認めることで揺らぐ信仰とは、どういうものでしょうか?異端の存在を認めてこそ、信仰は強固なものになるのです。」

「国家が教義に介入するのは、誤解です。国家は宗教から超越した立場にあり、あらゆる宗教を平等に扱うのです。」


しかし、この「国家超越論」とのちに呼ばれる発言が、火種を産んだ。

「国家がルーサク教を監督するつもりか。」「人々の内面に国家が干渉するつもりだ。」と反発が巻き起こったのである。


リュカ達は、その火消しに追われたが、結局採決の時が来てしまった。

結果は、どちらの法案も、白票はわずか。黒票は圧倒的多数。

リュカは計画の頓挫を受けて、作戦の練り直しを迫られるのである。

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