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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第十二章 堕天アルスメード

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№93. 月

 地下から大地を突き破り、空を駆ける。二つの刀を構えながら地上へと戻ってきた。太陽はもうない。ロードは空中で身を捩りながら黒い翼を背中から生やした。


「ふふっ、はははッ! 良い力だ! これほどのパワー……その変化は一体……ッ!?」


「時間がないんだ……って、言わなかったか……っ!」


 尻尾を振るいながらさらに高く跳ね上がり、空に浮かぶロードのすぐ隣まで昇った。視線を向かせるよりも速く、刀を重力に乗せて振り下ろす。依然として防御はされるが、衝撃は殺せない。


「堕天……野郎がァッ!!」


「結構じゃないかッ……!」


 二本の刃はただ一点で交わり、力が集約。空を飛ぶロードを叩き落とした。聖剣を伝って炎が引火し、手元と肌を凍らせる。


「はぁっ、はぁっ……疲れるな、コレ……」


「……メルナ、なのか? 下で何があった……?」


「……っ! アルお姉様!!」


 死闘の最中だというのに、彼女の声に胸が弾んでしまった。生きていた、その事実だけですっと胸が軽くなったような気がする。他のみんなが散ってしまったからこそ、余計に重い。


「げほっ、げほっ……。怪我は、平気か? 私も何か……」


「……嬉しいですが、アレには近寄らない方がいい。なので一つ、お願いが——」


「ははっ、飛ばしてくれたなァ。首が砕けそうだ」


 笑い声を上げながら、彼は重い足取りで歩いてきた。やけに興奮気味なのはそれほど削れているという証拠かどうか。片手でアルさんを制し、後ろに下がらせる。


「——分かった。任せてしまってすまない。死ぬなよ」


「えぇ、お姉様こそ頼みます」


「話は終わったか……ッ!!」


 ロードの突進を右手のアマテラスで受け止める。ぐいと力を込め、その方向をボクのすぐ近くに向け。身体が浮いたと同時にツクヨミの太刀を叩き込んだ。


「『日食《アメノヤミ》』!」


「くっ……ふふッ」


 高い音を轟かせ、太刀が止まる。アマテラスで抑えていたはずの剣。それが咄嗟に抜かれていた。聖剣を大地に突き刺すように受け止められ、を支柱にロードの燃える右脚が襲いかかる。


「ッ……速いな!」


「はっ……。鈍いんじゃねぇか、ロード……!」


 正面から対応するように、右脚に冷気を纏って受け止める。バキ、と砕ける音に乗って鈍痛が走る。一度はゼノヴィオに折られたはずだが、まるで意に介さないのは魔力強化のおかげか。


「『黄泉《よみの》』……」


「くッ……!」


 両の刀を並べて構え、下段から上に刃を向ける。魔力を込め、爆発の手前で固定。その勢いに乗せるように振り上げた。


「『陽光《ようこう》』ッ!」


「ぐあッ!」


 爆発が轟き、熱と冷気が衝突。空気を膨張させながら斬撃を天に向かって放つ。地震のように天地が震え、黄色と青の魔力が音を斬り裂いた。


「くッ……ははッ。これはこれは、参ったな。末恐ろしいものだ、主の力……ッ!」


「んなこと言うなら、譲ってくれねぇかな……ッ!」


 翼を広げ、また迫る。アマテラスで受け、ツクヨミで攻める。高く鳴る衝突音が次第に加速していた。一太刀、そしてまた一太刀。隙を縫うように蹴りを入れ、身体を回しながら反撃する。


「『剣聖』か……」


「ずっとなァッ!」


「ッ……がふっ」


 剣戟の中、ほんの僅かにスピードが上回った。防御されるよりも先にツクヨミがすり抜け、胸を刺す。心臓は外れたが、赤い血液が凍てついた。


「ボクがお前をォッ……!」


「くッ……!?」


 突き刺さったままの刀を振り上げ、魔力を爆発させる。その拍子に打ち上げられた身体を見据えながら屈み、二つの刀を構え直す。翼で身体を包み、防御を固めるのを見据えながら。脚を伸ばし、勢いに乗せた斬撃を魔力ごと飛ばす。


「叩っ斬るッ!!」


「づぁッ……ァああッ!」


 天地を砕く大嵐。その旋風の一つ一つが刃を孕み、絶え間なく襲いかかった。暗雲を散らし、雷のごとき音を轟かせる。魔力が底を突いたのか、ボクの脚は震えて崩れた。


「はぁっ、はぁっ……げほっ、がはっ」


 宙を漂う冷熱を帯びた砂煙。膝をつきながら濁った血を吐き、瞼を細めてギラと睨んだ。荒れる呼吸と鈍い感触。全開の力を叩き込んだが……。


「——天の監獄、地の地獄。主なる天上の唯我独尊。黒き炎は天より堕ちる。鉄の雷は大地を堕とす。砕き、堕とし、焼き払え。森羅万象を無に帰す力。我が力に名を与えん」


「なん、だ……?」


 不穏な詠唱と共に煙の中から現れた、翼を広げた大きな影。ところどころが焼け焦げ、そして氷に砕かれている。吐き出す血液は赤黒く、瞳はすっかり霞んでいる。なのに、聖剣を握る手が緩まない。


「万象を堕とし、万理を罰せよ! 天をも揺るがさん天使の裁き!『天誅罰《てんちゅうばつ》』!」


「ッ——!?」


 天が割れ、大地が砕けた。考える暇もなく、全てが強く発光する。全てを焼き尽くす爆炎の熱。全てを分解する雷の威力。その圧倒的なエネルギーが全方位——無差別に炸裂した。


「はッ……はッ……!!」


「げほッ、げほッ。……流石、だ。その傷でなお……はァッ、はァッ。立っているとは……」


 左腕の感触がない。ポタポタと、地面に赤いシミができる。腹を貫いているのは聖剣アルスメードか。爆発と同時にボクに投げ、刺したらしい。


 右手が掴んだアマテラス、それが無意識に正面に構えられ、爆発の威力を半減していた。ボクより後ろの被害は小さい。けれど見渡す限り、街も消え失せた地平線だった。


「ッ……」


「主は……頑張ったものだ。……これだけの力を見せた、それは事実」


「ぐぁッ!!」


 降り立ったロードが剣を抜き取った。鋭い痛みと共に赤い液体が溢れ出す。ドク、ドクと脈をも流した。フラリと頭が揺れたかと思えば、解放状態が終わる。


「かはッ……はッ」


「我の絶望が勝ったまでのこと。……楽しかったぞ、メルナ・アマテラス」


 グラグラと揺れる瞳、視界。迫り来る刃が心臓を捉える。殺すための刺突、防御しなきゃ死ぬ。ただそれだけの魔力がない。——小さな声と共に、熱く燃えた。


「がッ……!」


「ッ……!?」


 鋭い刃が胸を貫いた。心臓の近く、肺を掠めて。冷たい金属が背中まで通り、その感触のままに一歩、進んだ。


 ボクのことをメルナと呼んでくれたアルさんの声。その声が届くと同時に送られた彼女の持つ『月の焔』。ただの一発。ただそれだけの魔力が、アマテラスに新しく宿った。


「ッ……ははっ、天晴れだ」


 魔力を一つ、紐解くように。筋力増強の加護で押し、魔力増幅の加護で暴発させる感覚だ。剣聖の加護で学んだ……ロードの剣技。全てをこの右腕一本、アマテラスに懸けて——!


「『月燈《ルナ》』ァ!!」


「ぐッ、はァ……ッ」


 右上から、振り下ろす。極限まで下げた熱の炎がその鋭さを加速させ、そして昂る炎熱が斬撃そのものを爆発させた。


 凍った赤い粒が散り、丸々と太った月を照らす。——パキン、と。黒い夜空に小さく響く。第一の剣『堕天の聖剣』アルスメード。その刃は二つに斬られ、金色の光を美しく反射していた。

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