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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第十二章 堕天アルスメード

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№90. 二回目

 空に浮かぶ太陽はシアによって斬られ、二つに分かれている。不安定になり光を降らせることができないのか、大人しくはなってるものの、その熱量は変わらない。


「はぁっ、はぁっ……ぅ、ぐぅ……っ!」


 熱い、痛い。一体、この短時間に何人死んだ? 誰が殺された? なんで、こんなことに。ボクがロードのトドメをしくじったからか。あのときちゃんと殺しておけば。思考が右は左へ、痛みのせいでまとまらない。戦う、なんて場合でもない。


「メルナっ、これを飲め。完全回復薬《エリクサー》じゃ。逃げるも戦うも、このままじゃ何もできんぞ」


「はぁっ、んっ……」


 ツクヨミが瓶を握り、液体を口へと流し込む。ロードは見ているばかりで手を出そうとはしてこない。不思議ではあるが、今は関係ない。痛みと傷を癒やすために、必死に喉を動かした。——が。


「んっ……んっ!? あっ、いだっ、痛い……っ!? あっ、はっ……!?」


「メルナ!? なぜ……完全回復薬《エリクサー》じゃぞ!?」


 ジュウ、と短い音と共に指先と腹部に激しい痛みが走る。回復しない。どんな傷も治すはずなのに。死んでさえいなければ全てを治癒する代物なのに。治っていないのか、いや、これは——。


「太陽の熱に焼かれているのだ。主の身体は確かに、今まさに回復している最中だ。そして同時に、その再生する肉体は焼かれている。熱が残るしばらくは治るものではない」


「っ……先に、言いやがれ……ッ! 趣味が悪い……!」


 しかし魔力は回復した。なんとか『月の焔』を引き出し、傷口を凍らせる。熱を奪い、痛みを麻痺させ。——遅かったのか、完全回復薬《エリクサー》の効果は終了した。


「はぁっ、はぁっ……くそっ、無駄にした……ッ!」


(っ……すまぬ、メルナ。余が逸った)


「いや……仕方ないさ……っ」


「相変わらず……興味深い力だ。さっきの今で魔力が跳ね上がっている」


 余裕に分析するその顔を、ボクはただ見上げるだけだ。痛みはいくらか収まった。熱も引いたし、失血もない。身体中に穴が空いて左の指がないという歪な状況ではあるものの、さっきよりはずっとマシになっている。


 だとしても、剣を振れる状態でもない。右手は必死にアマテラスを掴んではいるが、身体を起こそうとすると目の前が暗く感じてしまう。あまりに強大すぎる。ボクの右手が何をできるのか。


「……お前はっ、何がしたいんだ!? かつてのメビウスもホルネィも確かに死んだ……だけど魂はあるだろう! 復讐か!? もういいじゃない——っ!」


「復讐、とも言えるか。しかし主は勘違いしているな。我は恨みで動いているわけではない」


 ロードの熱い聖剣がボクの口の中に入り込み、声を上げることもできなくなった。少しでも動けば舌を斬り、喉に刺さるだろう。ガチガチと歯が震えるだけで熱が口内に篭っていた。


「むっ、ぐ……ッ!」


「人の生涯はほとんどが絶望だろう。希望などほんの僅か。その小さな希望のために誰もが絶望を積み重ね、またある者は無残に死ぬ。それが世界の在り方だ。事実、メビウスもホルネィも絶望の中で死んだ」


「うぐ……ッ!」


 押しつけるように、刃が頬の内側に触れる。熱が粘膜を溶かし、神経を殴りつけた。弱い顔なんて見せたくないのに、勝手に涙が出てしまう。剣を振ろうにも、剣を刺された状態では動けない。


「我は七〇〇〇年という時間を生きてきた。歪だとは思わぬか、この世界は。なぜ絶望してまで命を繋ぐ? なぜ絶望の命を産み出す?」


「うっ……」


「繁栄とは絶望の連鎖か。あるいは希望の継承か。どちらかではあろうが、我の目には前者にしか映らなかった。それが我の答えだ。我の見てきた世界はそうだ」


 喉奥に焼けた血が流れ込む。こっちは答えられないっていうのに、ロードは勝手に話を進めやがる。この男のことだ。何かしらの意図はあるだろうが。


「ゆえに我は世界を終わらせる。『スサノオ』も失われてしまっては仕方ない。苦痛で飲み込むのは不服ではあるが、我は世界を終わらせる」


「がっ……勝手、な……っ」


「そうさ、勝手さ。しかしそれが絶望。我を止められなければこの世界は絶望が大きいということ。主が我を止められれば、それは希望が大きいということ——ッ!」


「ッ、あぁァッ……!!」


 血飛沫を上げながら、聖剣が振り抜かれた。右の頬が内側から裂かれ、同時に熱に焼かれる。必死に魔力を回して冷ますけれど、顎の重さに傷が開きそうだ。


「はァッ、はァッ……! がぁっ、ァッ……!」


「しかし、我はどこかで判断しかねている。だから主に期待している。主が我を殺せるのか否か。むしろ、殺してほしいとすら思っているやもしれんな……!」


「がふッ……!?」


 ロードの足がボクの胸を潰し、そのまま蹴り飛ばした。氷の瓦礫を突き破り、そのまま血を吐きながら崩れ落ちる。右手はアマテラスを手放さないが、それは執念か、それともツクヨミが支えてくれているのか。


「しかし、我と比べればあまりにも主は弱い。同じ土俵にも立てぬ。ならばどうすべきか。——ここからは運だ。主が生きるか死ぬか。死なないでくれよ、メビウスよ」


「かはっ……!?」


 再び胸を蹴られ、心臓が圧迫させた。肋が砕け、めり込む。メキメキと音を立て、胸が凹む。絞り出されるように、あるいは押し出されるように血が吐き出された。


「かふッ……かひゅッ、ひゅッ……!」


——ドク、ドク。次第に心音が鈍くなっていく。頭に響くツクヨミの泣き声。呼吸が浅くなり、ドロドロとした熱が肺に、そして口から溢れ出す。


——トク、トク。響く声も遠くなった。熱を感じる気力もなくなったのか、四肢の末端がひどく冷えていく。熱のない氷の上、まるで雪の中にいるようだ。


——トッ……トッ……。視界が暗転し、そして白む。熱が頭から流れ、そして視界を完全に塞ぐ。紅の色も判断できない。静寂の中に落とされる。


——。


——ドクンッ。

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