№86. 五人の覇王
「お姉様ー? ただいま参りましたー」
「おぉ、メルナ。こっちだこっち」
庭の奥、木陰の下のベンチに座っていた。いつもの騎士服とは違う、フランクな服装が目に映る。高貴さは醸し出しつつ、どこか柔らかな雰囲気だ。
「何、そう重要な話というわけでもない。新聞の類は読まぬか?」
「えぇ、恥ずかしながら。文字は苦手で」
「強要はしないが、情報は大事だぞ」
アルさんがポンポンと隣を叩き、軽い会釈をしながら促されるままに腰を下ろす。爽やかな良い香りが漂うが、今は落ち着いて、うん。余計なことは考えないでいよう。
「しかし、新聞に何が……」
新聞を広げ、見出しから順番に読んでいった。最初はよく分からなかったが、なるほど。書かれている内容は例の件か。大層な話ではあるが、当人からしてみればすでに知っている話。
『先日起こった天変地異、その原因を討ち滅ぼした三名について、聖議会が——』
何かと長ったるく書いてあるが、要はボクらがロード・アルスメードを滅ぼしたという旨の記事だ。これといって目新しい情報もなく、ボクらの活躍が書かれているだけ。そう思って視線をズラした先。思いもよらぬ文面が目に入った。
『今回の件を受け、聖議会はバラムランデ王国の第二王女(アルナリュート・バラムランデ殿下)を正式に聖議会に迎える他、議席順位と旧七大覇王を調整したことを発表』
新議員『アルナリュート・バラムランデ』。議席順位第十二位。加えて旧議席順位五〇位『メルナ・アマテラス』。議席順位第三位、新しい覇王にその名を追加。
「へ……っ!? ボ、ボクが——」
「メルナが覇王じゃと!? よもやそこまで認められたとは!! 流石じゃ、やったな!」
「あ、う、うん」
クソっ、先を越された……! 本当はもっと叫びたい気分だったが、ツクヨミにこうもリアクションをされては今さら「うわぁ!」とか言えないじゃないか。タイミングを見誤ってしまったか……。
「……ん? この間に落ちた七大覇王ってロード、ジハーク、それからオルトレイだよな。そこにボクが加わって……?」
「ほれ、よく見てみろ」
アルさんに指示された通り、また読み進めてみる。世間の期待やらなんなら書かれているが、今はそこじゃないな。調整と言うのだから、もっと色々と変わっているはずだ。
『以下に新しい五人の覇王を記す。これらは聖議会がその能力を保証し、世界最大の武力・脅威および抑止力と認定する。彼ら個人の持つ力は一国軍を凌駕するものであり、決して矛先を向けてはならない』
『龍狩の聖卿』アナスタシア・ドラグメイデン
『竜王』ゼノヴィオ・ジアス=パファルヴェーテ
『古龍』ヴァース・ディカオス
『世界樹の王』ノアス・トラムレン
『剣聖の聖卿』メルナ・アマテラス
——以上五名、新しく五大覇王とす。
「カッコいい……!!」
まさかまさかだ。ボクのしたことといえばジハークとロードとの戦いに貢献した程度。まさかここまで評価されてしまうとは。議席順位はテンヤの一つ下のようだし、彼が推薦でもしてくれたのか。いずれにしても、いやぁ……まさかだ。
「……でも、少し複雑でもありますよ。だって、オルトレイとアルさん、ジハークのときはベルアルド兄さんとテンヤ君もいましたから。嬉しいけど、釣り合ってないんじゃないですかね……」
「私は納得だと思うがな。お前は確かに経験は浅いが、アマテラスの剣聖の加護、あの成長速度は目を見張るものがある。今ほどの腕があれば大抵の相手には喰らいつけるし、誰の首も取れる可能性があるというのは大きい」
「そうですよ、メルナ様! メルナ様は私の主。誰よりも強くて無敵なんです!」
そこまで正面から言われると気恥ずかしいが。二人の言う通りかもしれない。誰かから与えられたもの、それでも良いか。オルトレイからの贈り物とでも思っておけば、あの人も喜んでくれるだろう。
「しかしメルナよ。満足しちゃあいかんぞ。目指すはテッペン、世界一じゃ。筆頭聖卿であるシアは引きずり下ろさなくてはな!」
「誰を引きずり下ろすと?」
「うわぁっ!?」
いつからいたのか、いつの間にか背後にいたシアの姿に思わず転倒してしまった。びっくりした。昼寝してるというから部屋にいるものとばかり。いやぁ、今日一の大声だったかもな。
「んふふ、楽しみにしとるけん、強くなってよ。うちももっと強くなって待っとるばい」
「……あ、え、それだけ?」
特に会話をするでもなく、彼女は身を翻してまた部屋へと戻っていった。なんだったんだ、一体。たぶん驚かすために遊びに来たんだろうけど、まさかそれだけなのか。可愛いかよ。
「さて、まぁ何にしてもだな。当分は安静だし、そらそろ私達も戻ろうか。あまり外で談笑していては医者の婆さんに襲われかねん」
「あ、はは……冗談じゃ済まなそうですね」
ナナの手を借りながら、ゆっくりと立ち上がった。王宮専属の、ヨウコという名の老婆。あの人は腕は確かだが、それに比例するような過激さも持ち併せている。噂ではあるが、怪我人が無茶をしたせいで新しく骨を折られたとかなんとか。嘘とは言い切れないのが恐ろしいところだ。
「また何かあったらお前の部屋にでも行くよ。メルナも、何かあったら遠慮なく私の部屋に来てくれ」
「えぇ、ありがたくそうさせてもらいます。——?」
「……どうかしたのか、メルナ?」
「あ、いえ。何でもありません」
ほんの刹那、南風がやけに暑い——いや、熱い気がしたが気のせいだろう。こんな寒い季節なんだ。そんな熱が漂うわけもない。しっかりしないと、と頬を締める。そしてまた笑顔を浮かべながらアルさん達と話し、何事もなく部屋に戻った。




