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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第十一章 真世界

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№83. 起・承・転・

 くい、と刃を捻る。するとその氷像は心臓から崩壊を始めた。すぐ隣には黒く崩れたオルトレイの姿。命を懸けて、隙を作ってくれた人。


「ゼェッ、ゼェッ……」


 氷像は崩壊し、ガラスの破片のようにキラリと輝きながら塵へと変わった。世界最強ともあろうものが、情けないものだ。なぜこうも、狂ってしまったのか。知らぬ間に、ボクの瞳から一筋、雫が伝い落ちた。


「メルナ……っ」


「あぃあ゛っ……あぃ、あ゛ず」


 ボロボロの身体が倒れ込もうというところ、地面と衝突する前にアルさんが抱き留めてくれた。潰れた喉では声も出せず、感謝の言葉も紡げない。けれど彼女の優しい顔は、ボクの言葉を受け取ってくれていた。


「……痛いだろう。今は喋らなくたってい。ほら、回復薬《ポーション》を……」


「待つんじゃ、アルよ。メルナはついさっき完全回復薬《エリクサー》を飲んだばかり。飲ませるにしても下級のものをゆっくりにしてやってくれ」


「あぁ、なるほど。そんな無茶をしたのか」


 薬液の入った小瓶を口に当てられ、小さく一口ずつゆっくりと飲まされていく。魔力が触れ、傷口に沁みた。痛みも苦味もいつもなら嫌だと言いたいくらい。けれど今は大人しく、アルさんの膝の上で半目瞑りながら受け入れていた。


「ところで、何があったと言うのだ。メビウスの図書館に入って……おかしくなったのはそこからだ」


「それは余が説明しよう」


 コクコクと飲まされている間、ツクヨミがアルさんに一部始終を説明した。メビウスの図書館で見つけた資料、そして見た過去。スサノオの影響とロードの計画。そしてボクの持つ魂がメビウスのものだったということ。アルさんはたまに目を見開きつつも、静かに話を聞いてくれていた。


「なるほど、合点がいった。戦闘の最中は確認する暇もなく、なんとなく聞いてただけなんだ。……大変だったな、メルナ」


「いえ、ボクなんて……メビウスの記憶も今こそあれど、元はありませんでしたし」


 霞みながらも、しっかりと発声できる。回復を感じてからは重い身体を起こし、ロードのいた場所へと歩みを進めた。氷漬けになりながらも、なおも形を保っている剣、スサノオ。それを慎重に手に取る。


「これも本当は、世界を壊すためのものじゃないんですよ」


「……というと?」


「どうにもできない厄災が訪れたとき、それをなかったことにするための兵器なんです。もちろん、過去を塗り替えるわけですし、その影響で現世がめちゃくちゃになる可能性もある。だからこその最終手段」


 本当は世界を守るためのもの。ロードでもどうにもできなかったときに、最後の最後で手に取ってほしいと思っていた守護の剣。魔力を走らせると氷に亀裂が入り、そして砕け散った。


「……直って、いく……?」


 歪んだ空が修正を始め、雨も次第に勢いを失っていく。理が元に戻っていくんだ。緊張から解き放たれ、倒れそうになったところをツクヨミが絡みついた。


「おっと、気をつけい、メルナ。主は身を削りすぎじゃ」


「ははっ、反論もないよ」


 また一度、視線を落とす。黒い破片と、青白い破片。かたやボク達に倒され、かたやボク達に勝機を与えてくれた存在。なぜあんなにアッサリと命を捨てることができたのか。それだけロードが脅威であり、ボクらに希望を見出してくれたのだろう。


「あっけないな、まったく。……セクハラおじさん、愉快だったのになぁ……」


「お前が病むことはない。彼は彼なりに使命を全うしたのだ。武人の心、分からないわけではあるまい?」


 正直、こういう愉快な人は死なないんじゃないかと思っていた。戦いが終わった後にも軽口を叩いてくれるんじゃないかと。どんな怪物も人は人、死ぬときは死ぬ。涙が流れないのはボクが冷酷だからだろうか。


「……真世界に一度戻ろうか。ナナが待っている」


「はい。……?」


 鼻をツンと刺す痛みを堪えるように、ゆっくりと顔を空に向けた。曇ってはいるが、雨が止んだ空。一箇所、異常に黒い影がある。おかしな形の雲……ではない。


「むむ……? くははっ! 激しい魔力が蠢いていたかと思えば、お主、メルナではないか!」


「えっ、ゼノヴィオさん……!?」


「いかにも。それよりなんだ、この戦闘跡は?」


「え、えと、これは……」


 空を覆うほどの黒い巨体、現れたのは竜王ゼノヴィオだった。ロードとの戦いを嗅ぎつけてきてくれたのか。だとしたら少し遅かったが、良い足にはなってくれるかもしれない。


「これは今、ロードとの戦いがあって……」


「あれ、メルナちゃんやん。久しかね。どげんしたと?」


「シア! 久しぶりだけど……来てたんだ——わっと!」


 黒い巨体からひょっこりと顔を出し、そのままボクに抱きついてきた。弱った身体では受け止められないが、それも理解していたのか。フワリと甘い香りが漂う程度に抑えてくれた。


「今、ちょうどロードとの戦いが終わったところだ」


「何だと? お主ら、アイツに勝ったのか!?」


「不意打ちと、オルトレイのおかげだけど……」


 この二人にはもう少し早く来てほしかった、と言うのはわがままだろう。だろうけど。七大覇王《セダレクト》に数えられる二人、彼らがいればもっと違ったかもしれない。あるいは油断も隙も与えてくれなかった可能性もあるが。結局、過ぎたことは仕方ない。


「ゼノヴィオさん、悪いんだけど! ボク達を背中に乗せてってくれないかなぁ? 真世界を経由して、王国に戻りたいんだ!」


「おう、乗れ乗れ! 我がこの背中で休むと良いさ。本当は命を捨てるほどの戦いと思っておったのだ。それくらいわけもない」


「ありがとう。さぁ、アルお姉様も行きましょう」


「うちが乗せちゃるばい。手ぇ出して」


 ボク達はシアの手を借りながら、ボロボロの身体をゼノヴィオの背中に持ち上げた。黒髪硬い鱗がクッションになり、見た目の割に心地良い。重い身体も、竜王からしてみればちっぽけな質量。翼を広げ、飛翔すればひとたび、涼しい風が頬を撫でた。

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