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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第十一章 真世界

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№82. 怪物決戦

「『日食《アメノヤミ》』!」


「くっ……!」


「メルナ……!?」


『月の焔』を纏った太刀を振り下ろした。刃に斬られた箇所が氷、そして爆発。炎を超える熱量がロードと森を吹き飛ばした。


「うぉっ、見た目によらねぇ破壊力! お前さん何者だ!?」


「……十番目の聖卿だよ。ほら、構えて。こんなんじゃこれっぽっちも効いてない」


「ははっ、そうだな。しかしこれは良い誤算だ。まさか魔力を魔力に纏わずとも、攻撃を倒せるたぁな。これが終わったら俺の妾になるか?」


「冗談は終わってからにしてって」


 アルさんはまだ、ボクが動くことに不安げだが。今はそうも言ってられない。刀に青白い魔力を立ち昇らせながら構える。視界の先、煙の中からこともなげに起き上がる様はまさに鬼。


「流石、メビウスの魂だ。以前よりもさらに磨きが……先ほどよりもずっと鋭さがある。それだけに残念だ。我が手を下さねばならない」


「なんだ……連れ帰るのは諦めたってことかな?」


「ここまで反抗されては仕方なかろう。主がそれを望むのであれば……もはや我にできることもない。我はただ、この世界を破壊するのみ……ッ!」


「っ、急な……ッ!」


 目にも止まらない速さで繰り出される突き。刀の腹で受け止めるが、衝撃は貫通、ボクの腹を貫いた。内臓が歪み、血が迫り上がる。直撃しなくてもこれだ。


「げほっ、げほっ……『氷結世界』!」


「『月炎の剣閃(ルナステン)』……ぐッ!」


 跳躍しながら後退、同時に魔力を解放し凍結する。その一瞬の固まりに剣を抜き、アルさんの一撃が叩き込まれた。しかしそれも一瞬、防がれながら反撃を受け、剣が軋んだ。溶けない氷が砕け、ガラスのようにキラリと輝く。


「良い連携だ。我に喰らいつくとは思わなんだ」


「てめぇも、スカしてると怪我するぜ……ッ!」


「っ、オルトレイ……!」


「『魔力大砲《マナブラスト》』ォ!!」


 剣を振ったせいでガラ空きに。氷が散らばるよりも速く、オルトレイの脚がその腹部に当たる。大地も空気も揺らす爆発を起こしながら、とても人体から発せられたとは思えない破裂音が響く。そして人影が彼方へと蹴り飛ばされた。


「……くそっ、手応えがねぇな。なんなんだ、アイツはよぉ」


「怪物なのはあんたもでしょ。ただの蹴りがなんでああなるんだ……」


「加護もなけりゃあ魔法も使えねぇんだ。代わりに魔力出力だけには自信があるぜ」


 まるでカッコつけるようにそう語った。確かに、単純な魔力と蹴りだった。だからこそ理解し難い。筋力増強と魔力増幅の加護があるボクでも、あそこまでの破壊力は……なんて考える暇もなく、奥から巨大な影が伸びた。


「触れるな! 何か分からん!」


「はいっ……! ですが、これは……」


 影そのものに魔力がある。それも一つではない。二つ、三つ……それ以上に。その一つ一つが強大で厄介。飛び跳ね、木の枝に乗ってから見下ろした。


「何、警戒するほどでもなかろう。これらは我が殺した悪魔達。従属の権能により堕天使になった者達さ」


「なんでもアリかよ……ッ!」


 影から這い出てきたのは十を超える悪魔の群れ。そのどれもが黒い翼を持っていた。堕天、というだけあるが。なぜ武力に飽き足らずそんな加護まで持ってやがるんだ。


「全部、魔王か大魔公級か。……どうします、あんなの——」


「余裕だな、主らは」


「てめっ……!」


 いつ背後に回ったのか、蹴り飛ばされ、群れの中に落とされた。禍々しい魔力に無意識に尾が跳ねる。これだけのものを召喚しておきながら、ヤツの魔力に底が見えない。


「くそっ……野郎が!『火炎世界』ッ!」


「うぉっ、おい! 待っ——!」


「ほう……」


 堕天使共の獲物がボクらを狙うより先に、魔力を全方位に解き放った。青白い炎が一帯を包み込み、焼き尽くす大爆発。大丈夫、アルさんは同じ魔力を持っている。怪我はしないはずだ。


「びっ……くりした……。急じゃないか、メルナ」


「はぁ、はぁ……っ。急じゃないと、防がれると思いましたから……っ」


「俺も防げなかったけどなァ! 可愛いから許してやる! むしろ興奮したくらいだ!」


 それは良かった、と強がりながら見渡す。消し飛ばせたのは何体だろうか。正確には分からないが、残っているのは大魔公級の二体。代償としてボクの魔力がほとんどなくなってしまった。しかしそれも、瞬きの次には消え去ることになる。


「『大噴火《バームストーム》』!」


「ギギャッ……ァッ!」


 オルトレイが拳を振り下ろし、大地を割った。大層な名前をつけているが、ただ破壊力を地面を伝って全方位に打ち込んでいるだけだ。だけ、で済ませられるものでないことくらい百も承知だが。


「……この短時間でどれだけ言ったか分からぬが、舐めていた。すまぬな」


「ったりめぇだ。こちとらテメェと同じ七大覇王《セダレクト》だぜ」


 オルトレイはそう言うが、まるで勝機が見えない。二人は攻撃を通すだけで二倍以上は魔力を消耗する。ボクは今の爆発で魔力を一気に使いすぎた。対してロードはほとんど消耗ゼロ。アルさんが落とした右腕、怪我はただそれだけ。そもそもまるで隻腕の動きじゃない。


「では……ッ!」


「ッ……かはっ!?」


 何が起こったのか。睨まれただけだ。それだけでドス黒い魔力が刃を帯び、それがボクらの魔力を斬り裂いた。魔力という防壁を裂かれ、その刃は止まらずに体内へと侵入する。そして——


「がふッ……ごぷっ!」


「げほっ、メル、ナ……っ!」


 喉を、肺を。全身に深く突き刺さった。溢れる血は滝のごとく、鉄の味が口内を占領する。アルさんはまだマシなようだが、魔力の壁がほとんど剥がれていたのか。痛み以上の息苦しさが先に襲いかかり、視界を歪ませた。


「全てだ。……全て壊す。主がメルナだと言うのなら……主は我の敵だ」


「メルナ……待てっ、待ってくれ……ッ!」


 アルさんの悲痛な叫び。無慈悲に刃が振り下ろされる。ロードは表情も変えず、ただ静かに飛び散る赤。雨が洗い流す中で、鮮血がやけに輝いて見えた。——ボクの血じゃない。


「がはっ……かふっ……!」


「動けるとはな。四大聖王《フィアレクト》、伊達ではない」


「褒めてもらえて……嬉しいぜ……。そんなら恩返し、させてもらおうか……ッ!」


 オルトレイが刃を受け止めていた。剣を掴みながら、それでも止められなかった勢いが肩にめり込んで。血を吐きながら、そんな痛みはわけないと言わんばかりに魔力が底から湧き上がる。どこにそんな力があるのか。次の瞬間にはその魔力が一気に膨張した。


「浴びてくれよ、一緒によォ……!」


「参ったな……。身動きも取れぬ……」


「『大々爆果《バァスターズ》』!」


 属性は炎ではない。と言うのに、激しい熱量が間近から押し寄せた。魔力が弾け、天地を揺らす。熱風がボクの傷を焼き、そして一帯を吹き飛ばした。咄嗟にアルさんがボクを抱き寄せ、魔力で保護する。出ぬ声を絞りながら『ありがとう』と呟きながら、静かに刀に魔力を走らせた。


「はぁっ、はぁっ……オルトレイの奴め……。メルナ、大丈夫か?」


「あっ、ぃ……おあげ、さぁで……」


 大気の震えが鈍い音を奏で、平野に変わった一帯には土煙が立ち昇っていた。激しい魔力の残滓のせいで、誰がどこにいるのか、感知も難しい。何秒後か、次第に晴れ。煙の中に影が——二つ、落ちていた。


「……天晴れだ。これほどまでの破壊規模とは恐れ入った」


「っ……オルトレイ……!」


 アルさんの悲痛な叫びが響く。そこにあったのは全身が炭に変わったオルトレイの姿。そしてその胸部を左手に持った剣で貫き、悠然と立っていた。


 服の一部は焼け焦げ、爆発も黒ずんでいる。それでも欠損は相変わらず右腕のみ。恐怖と絶望。超常の怪物としか思えない、が。白銀の刃が背後から、ロードの胸を貫いた。


「ッ……がふっ!?」


「ゼェ、ゼェ……ッ!」


 ボク自身いつの間に背後に回っていたのか、よく覚えていない。ただこの程度では彼は殺せないと。爆炎では絶対に死なないと知っていたのだ。だから『月の焔』を纏った刀で貫き、その傷口から全身を凍らせた。尻尾がピクリと跳ねると、一秒も経たず。刃は剣に戻っていた。

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