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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第十一章 真世界

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№79. 新月の日

「……おいで、アマテラス」


「ちょっ、メルナ! あやつと戦うのは無茶じゃっ!」


 ツクヨミが止めようとするが、それどころではない。なんとかアマテラスを抜き、解放した。が、カタカタと震えるこの手ではただ振るうのも一苦労。そして相手は最強、どうしたものか。頭も上手く回らない。


「困ったものだろう、互いに。よもや主が……」


「……お前、ボクが誰か知ってるのか」


「メルナ・アマテラスであろう。剣聖の。……複雑なのは我の方だ」


「はっ、バカ言え」


 必死に虚勢を張りながらヤツを見据える。腰に差しているのは二つだ。一つは聖剣アルスメード、そしてもう一つ、見慣れない剣。アレがスサノオか。だとしたら——みすみす逃すわけにもいくまい。しかし不思議なのはなぜ、ロードはボクを知っているのか、だ。


「考え事か?」


「ッ……!」


 音よりも速く、彼の剣が抜かれていた。刃がボクの首に迫る。反射か、あるいは勝手にか。刀に変化したアマテラスが腕を動かし、高い音とともにそれを弾いた。


「くそっ、速ぇな……」


「主もな。見ないうちに……随分と腕を上げたようだ」


「くっ、ぬっ!」


 距離を取る暇もなく、一手二手と迫ってくる。防御で手一杯、反撃の隙がまるでない。同じ七大覇王《セダレクト》、けれどジハークとはまるで次元が違う。


「このっ……『氷結世界』!」


「無駄なことだ」


 魔力を解放、半径十メートルほどを凍てつかせた。地面だけでなく、雨も大気も。それをまるで意に介さず、ロードは静かな刃を振った。


「くぁっ……! へへっ、近寄りやがって」


「っ、なるほど……!」


 肩に刃がめり込む。痛く、熱い。が、接触している。この一瞬、肩を落とされるまでのほんの刹那。氷の熱を変え、一帯を炎上させた。バチバチと激しい音の中、雨が凍り、熱に変わる。周囲の木は氷の灰になって消えた。


「どうだ、こんにゃろー……」


「けほっ、けほっ。やるな、思った以上に。ジハークとの戦闘で磨きがかかったのか」


 魔力の出力は最大だった。それでもロードには今ひとつ届かない。消耗させたところで、膝をつかせることもできないとは——。


「げほっ、ごほっ!」


(メルナ! じゃから無茶じゃと言ったろう……!)


 何の反動か、口から溢れたのは血の味だった。生えた尻尾がビクンと跳ね、弱々しく項垂れる。聖剣の解放はボクの身体には相当の負荷だが、ほんの数分の全力で音を上げるはずがない。精神が乱れていたから、か?


「……ふふ、相当に参っていたように見える。それもそうか。主は世界から消えたような扱いを受けたのだから」


「何、を……」


 どういうわけか、ロードは剣を収めた。やはりコイツ、何かを知っている。ボクを殺しに来たんじゃない。そして偶然でもない。この地に何かを確かめに来たんだ。


「真兵器『スサノオ』、この剣は理を破壊させる代物だ。かつての我が友、メビウスの遺品。起動には聖と魔のエネルギーを要するが……なぜ今、いや、数日は前のことだったがな。悪魔共の力まで起動したか、分かるか?」


「……知るか。そんな話をしに来たのか……?」


「そうツレないことを言うな。単純な理由だ。今だから、起動したのだ。……本当は魔剣を手に入れて、我の力だけで起動したかった。本音はな」


 ボクは溢れる血を抑えながら、解放状態を解除した。——コイツは何を言ってるんだ。やけに饒舌じゃないか。ボクを殺そうともしなければ、まるで嬉しそうに語ってやがる。気味が悪い、なんてものじゃない。


「我の求める『新月の日』。それは森羅万象を無に帰すこと、世界の全てを破壊することだ」


「ボクらがそれを黙って見てるわけがないだろ……っ!」


「そうだな。それで当然。世界を壊そうとする我、そして守ろうとする主達。単純な話だろう。しかし、我にも壊したくないものの一つや二つあるのだ。……主はどうやら見たようだな」


 メビウス、あるいはホルネィ様か。全ての起点が彼女達の復讐だとしたら、当人達を破壊することは望まない。しかしそれが何なんだ。ホルネィ様は理の外側にいる主神、メビウスは遥か昔にすでに死んでいる。……結局何なんだ、ロードが言いたいのは。


「……理解していないか。無理もない。主には説明してやるとも。聞く権利が、そして義務があるからだ」


「何なんだよ、本当に……」


 ロードは濡れることも気にせずに近くの岩に腰を下ろした。いや、濡れてなどいない。薄い魔力の膜を張り、丁寧に雨を弾いている。敵を前に余裕とは気に障るが——悔しいが、今のボクは血を吐くだけの飾りみたいなものだ。


「時に、理とは何と心得る? 答えは信頼だ。あらゆる定義、秩序、法、力。全ての事実は信頼ゆえだ。そして信頼こそが理。理の乱れはその信頼の崩壊を指す」


「人によるだろ、そんなもん」


「確かにな。しかしスサノオの指し示す理とはそれだ。理の崩壊は全ての事象を乱す。天も地も、世の法則も。そして過去も、だ」


「過去……っ!?」


 心臓が大きく跳ねる。あの映像の違和感、そしてボクを今まさに襲っている歪んだ現実。にわかには信じ難い。けれどその一言で全て片付いてしまう。


「これは序章だ。過去の崩壊、そして世界の崩壊。いずれこの世界は全て、無くなる。言葉の通り全てだ。天も地も、過去も未来も。我も主も」


「イカれてんのか……お前!!」


「主も主だ。前世の記憶を持ちながら、この世界に命を懸ける気でいる。よほど愛着があるようだ」


「っ……! 何を言って——」


 前世のことを知っている。なぜだ、ロードには話していない。聞かれてすらいないはずだ。なぜそれを知って……なぜそんな話を……。


「言ったろう、メルナ・アマテラス。主には聞く権利と義務がある、と。主の前世とはこの世界とは異なるものだったろうが……その前世とやらが、本当の主と思っているのか?」


「何を、言って……」


 嫌な音を立てて心臓が跳ね続ける。何を言っているんだ、コイツは。何を言っている? ボクはボク、ボクの記憶だ。それは間違いない。ならばロードが言っているのは——。ボクの頭が悪いのか、一向に結論を出せなかった。

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