№69. 落雷
崩壊したバラムランデを月光は無慈悲に照らしていた。どこからが人々の声が響く。明かりはランプや火魔法ばかり。たくましいと言えば聞こえはいいか。
「……メルナ、魔物はいそうか?」
「いえ、痕跡はありますが。魔物の魔力はなさそうですね。たぶん、方々へ散ったんだと思います」
地面は割れ、囲いの壁も崩れ落ちている。有り様は酷いものだが、魔物がいないのは幸いか。人の被害もそう大きくはなさそうだ。ふと、一人の騎士が駆け寄ってきた。
「……っ! 王太子殿下に団長! メルナ様とテンヤ様もお帰りなさいませ! 申し訳ございません。ただいま救助や退治がちょうど一段落したところでして——」
「構わん。騎士団は国中に散っているということか?」
「はい。通信機が上手く作用せず、大混乱でして。何が起こったのやら。怪我人は少なくないですが、今のところ死者の確認は取れておりません」
「よし。国民の命を優先に、お前達も無理はするな。緊急事態だ。できるだけ不安を抱かせるな」
アルさんの凛々しい声に彼は深々と頭を下げ、再び向きを変えた。遠くにチラと見える大きな光。王宮だろうが、どこかいつもとは形が違う。やはりあそこも崩れたのか。
馬は足を響かせながら、また一歩ずつ進んでいく。聞こえてくるのは誰かの怒声や子供の鳴き声。声を出せるだけの気力があって良かった、なんて言ったら怒られるかな。
「ここも酷いことになったな。おい、誰かいないか!」
しばらくかけて、その場所にやってきた。崩れ落ちた城、砕けたガラスが輝く地面。そんな中でアルさんの声は凛々しく響き、返ってくる視線は一つや二つではなかった。
「おや、アルナリュート殿下。お帰りですか。皆様もお揃いということは……」
「タロンか。あぁ、大魔公は倒してきた。吸血鬼の王、ジハークだったよ。なんとか勝てたのだが、これはロード・アルスメードの仕業らしい」
「なるほど……いえ、ご無事で何よりです。さぁ、こちらにお上がりください。皆様いらっしゃいますよ」
タロン、アルさん専属の老執事が現れ、ボク達は馬から降りた。そのまま彼に案内され、崩れた城の中を進む。外から見れば完全に崩壊しているようだったが、意外と柱が残っていたようだ。魔法で補強し、部屋はいくらか残っている。
「タロンさん、でしたっけ。僕もついて行っていいんですか?」
「えぇ、構いませんとも。むしろぜひに。我らが宝である三人と共に戦ってくださったのですから」
「そういうことなら遠慮なく」
テンヤはどこか恭しく、肩を縮めて歩いていた。彼はこういうロイヤルな雰囲気にはあまり慣れていないんだったか。……バラムランデは言うほどロイヤルな雰囲気じゃないがな。
「……あっ、メルナ様!!」
「おぉ、ナナ! 無事だったか!」
「にャッ!?」
偶然ボクの姿を見つけたのか、ナナは躊躇わずに駆け寄り、抱きついてきた。少し膝が震えるが、そんなものは押し潰すように。肩のゼルを弾き飛ばしてからしっかりと抱き留めた。
「無事だったんだね、良かった」
「こちらのセリフですよ。心配しておりました」
「おい小娘、その腕はどうした?」
「え? うん、まぁ色々あってね」
同じ悪魔だからか、ゼルはどうにも鋭いらしい。いや、形も少し違うんだから当然か。ナナはすぐに距離を取り、そのままゼルを連れてどこかへ戻ってしまった。ボクのために寝床の準備をしてくれるらしい。
「さぁ、この先に国王陛下並びに皆様がいらっしゃいます。どうぞお進みください」
「あぁー……僕ここで待ってますよ。家族水入らずというか、流石に気まずいので」
「そうか。うん、分かった。タロンも案内ありがとう」
ベルアルドさんとアルさん、そしてボク。三人でその壊れかけた扉を開け、進んだ。元々は食堂だった場所だ。そこには国王様と王妃様、ミリア殿下とルーク殿下が座っている。
「おぉっ、お前達! 無事だったか、良かった。すまない、『継天の腕輪』がなぜか発動せず、こちらに転移させることが叶わなんだ」
「いえ、無理もございません。それよりそちらこそご無事で何よりです」
そのまま歩みを進めて、そこの輪に並ぶ。相変わらず全巻揃うと威圧感というか、高貴な空気に押されてしまう。が、大丈夫だ。落ち着けば、この人達みんなシスコンみたいなものなんだから。
「それにしても早いお帰りでしたね。聖議会の任務の方は?」
「終わらせました。が、一連のことについては俺から説明を——」
そうして少し、ベルアルドさんが説明をしてくれた。天魔の樹海にいた大魔公がジハークだったこと。それを、七大覇王の一角を落としたこと。ロードが天変地異を引き起こしたこと。そのどれも、とても一度に許容できる内容ではない。
「ふぅー……。なるほど、お前達はこちらより大変だったようだ。すぐにでも休ませるが、少しこちらの頭がパンクしそうでな。……メルナよ、我のことをお父様と呼んでくれ」
「え、はい。……え? お父、様?」
「ぐはぁっ!」
「何やってるんですか。こんなときに、マジで」
呆れつつ、血を吐いて倒れた国王様を起こそうと思ったまさにそのときだった。ドン、と。空が激しい光を落としたと同時、何かを叩きつけるような轟音が外に響いた。領外すぐ近くに雷が落ちたのだ。




