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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第十章 天魔の樹海

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№65. 御欠月

 吸血鬼の王とロード・アルスメードが繋がっている。ヤツ一人でさえ手に負えないというのに、そんなことがあっては一体どうしろというのか。


「おい、ジハークって言ったか。ロード・アルスメードとはどんな関係だ?」


「何、つまらないものですよ。詳しく話しても構いませんが……生憎、語る理由もないので、ねッ!」


「ぬぁっ!?」


 空中で手を回すと、天地が歪み、立つことすらできなくなった。仕方ない。まずはジハークを倒すことに集中しよう。相手は七大覇王《セダレクト》、余裕を見せられる相手じゃない。


「知っていますよ、アマテラス。強力な能力を持った我々にとって天敵だと……!」


「くっ、このっ!」


 一瞬、前方にいたはずなのに突然にボクの前に現れた。剣を振り、襲いくる手を受け止める。ギリリと押し合う音が鳴り、なんとか押し返す。が、向こうはこっちの認識を歪める能力に加えて血も操るときた。突き放しても不利なだけだ。


「メルナ! 援護は任せろ!」


「っ、ありがとうございます!」


 弾丸のごとく飛ばされる血の塊を、アルさんが剣で弾く。数えられるものではないのに、その全てを叩き落とす勢いだ。パワーはないらしいが、剣の速さがそれを補っている。


「僕らだっているんだぞ……!」


「そうだ! 覇王と言えど貴様は一人ッ!」


 ベルアルド殿下の激しく、そして速い剣戟。そして防御も叶わないテンヤの斧。二人の連携に大気が軋み、森は続々と斬り開かれていく。


「ふふ、何度やっても無駄なことです。あなた方は私を捉えられない」


「ぐぁっ!」


 マントを揺らし、血の弾丸が直撃した。ジハークに近寄れば近寄るほどに認知が歪むのか。だとしたら距離を取らないと……いや、そうすると決定打がなくなる。対魔の加護を持つテンヤはまだ対抗できるが、ベルアルド殿下では正確に視認することすらできない。


「交代しましょう、お兄様! ボクが斬ります!」


「っ、バカを言うな! まだ解放はしないだろう!? 死ぬだけだぞ!」


「いいや、大丈夫です! もう学習しました!」


 脚に魔力を込め、地面を割る。その様子にアルさんは咄嗟に理解してくれたらしい。ボクの前方、血の塊を斬り落とし、道を開いてくれた。


「おいで、アマテラス」


「よし来た! 余の感覚を与えてやろう!」


 蹴り上げ、突進する。剣には冷たい炎を、全身には熱い氷を纏わせた。まだ少し、近づくと平衡感覚を狂わされる。が、それはあくまでボクの感覚だ。ツクヨミはすでにジハークを捉えている。


「『月の焔(フレイアウト)』!」


「なッ……!?」


 剣が空を焼き斬り、そのまま皮膚を掠めた。一歩、見誤ったか。それでも届いた。急激に魔力が湧き上がり、ボクの身体が変化する。聖剣はひとたび、刀へと姿を変えていく。アマテラスを解放すれば、まともにやり合えるはずだ。


「……ロード・アルスメードは言っていました。あなたとの戦闘は時間をかけるべきではないと。参りましたね。そこまで時間をかけてはいないはずですが」


「ふざけんじゃねぇよ、余裕な顔して。……テンヤ、言いたいことは分かるね?」


「……はい、お気をつけて」


 一歩、彼は交代した。現状、コイツと対等に戦えるのはボクだけだ。けど、解放したとしてボクは経験が浅く地力も拙い。ボクが弱らせ、能力を維持できなくしてから後方に託す。現実的なのはこんなところか。


「いいんですか、一人で。殺しますよ?」


「仕方ないだろ。お前の力の特効がボクだけなんだから」


 剣に魔力を迸《ほとばし》らせた。月の焔は消せないし砕けない。魔力で掻き消すことはできても、解放中はそれもほぼ不可能と見ていいだろう。少しずつだ。少しずつでいい。


「能力ゆえに、私は斬り合いは苦手なんですがね。……力を貸せ、魔剣ブラドムーン!」


「なっ……!」


 呼び起こすと、彼の手元は血の滝に塗れ、そこから一つの鎌が現れた。魔剣、思えばそうだ。悪魔の武器、大魔公ともなれば、ひいては七大覇王《セダレクト》ともなれば持っていてもおかしくはない。


「狩りの時間だ……ッ!」


「くっ、危ねッ!」


 目を離してすらいない。次の瞬間には背後から、ボクの首に刃を当てていた。斬り落とされる直前、刀でそれを受け、身体を逸らす。振り抜かれた先、視界に映る木が刈り取られ、血の飛沫がそれを枯れさせた。


「ふっ、とっ……」


「軽い身のこなし、流石ですね」


「お前は鈍重だもんな……!」


 再び大地を蹴り上げ、崩壊させながら斬りかかった。鎌は大きく、相変わらず距離を取るのは得策ではない。休む暇なく、素早く刃を振り下ろす。


「くっ、この……! やかましい……!」


「知らねぇよ……。『御光陽炎《ごこうかげろう》』!」


「がっ、あぁぁっ!!」


 最大出力の炎熱、それが氷になって振り下ろした。鎌を、そして腕を凍結させ、焼き尽くす。それが転換となり、魔力が格段に落ち、鎌を持つ手も緩んだ。繋ぐなら今、せめてもう一太刀、弱らせておこう。


「『氷結……』」


「ぬぁあっ! 『御欠月《ミカヅキ》』!」


「ッ……!?」


 魔力を解放し、一帯を凍結させようとしたところだった。熱と氷で腕は動かせなかったはず。いや、動いてなかったんだ。全身から血が吹き出し、それが刃となって周囲を斬り裂いた。


「メルナ!」


「はぁ、はぁ……っ、くそっ。よもやここまでやるとは……」


「ぬっ、ぁっ! くぁっ……!」


(おいメルナ! しっかりするんじゃ!)


 意識が飛びかかるほどの激痛。解放はいつの間にか解け、魔力も垂れ流しになっていた。全身が刻まれていたが、それ以上の違和感。左肩から下がいやに熱い。動かしても感覚がない。まるで焼かれたような、ひどい熱。視界の先には、腕が一つ転がっていた。


「くっ、あぁっ……!」


「よく頑張ってくれました、メルナちゃん! あとは僕達に任せて……!」


「アルに見てもらえ! すぐに王国に帰還するぞ!」


「くっ、小賢しい! 邪魔をするな!」


 地べたでのたうち回るボクを抜け、テンヤと殿下が斬りかかった。想定外の重傷にジハークは撤退を選択したようだが、この好機を逃すまいと。


「あぁっ、ぁっ! くっ、ぅ……」


「しっかりするんじゃ、メルナ! 痛みに耐えろ!」


「メルナ、回復薬《ポーション》だ。少しずつでいい、城に戻ったら完全回復薬《エリクサー》もある。一旦しのいでくれ」


 左肩がキツく縛られ、血が消えていく感覚が薄くなる。アルさんから与えられる薬液が血と混ざって鉄の味がした。少しずつ、少しずつ。意識が浮上するにつれ、痛みはより鮮烈になった。


「が、この……貴様ら……ッ!」


「はぁっ、はぁっ……決めるぞ、テンヤ!」


「はいっ!『破壊斧撃《ジルヴァーダ》』!」


 上半身をなんとか起こし、その顛末を見届けた。殿下が身体を細切れにし、それをまとめて叩き潰す。まさに破壊の一撃に、ジハークは姿を消し——


「セメテモノ抵抗ダッ!」


「なッ! 危ない、メルナ!」


「げほっ、え……?」


 血の塊となったソレが、全員の油断を縫ってこちらに突進してくる。血に溶けた鎌の刃が迫る。アマテラスを……それを掴む暇もない。ツクヨミも実体化できない。『死』、全身が冷たく硬直した。


「『天閃』」


「ナッ……!!」


 目にも止まらなかった。銀色に輝く細い剣が、その血の塊を二つに斬ったのだ。アルさんの髪は銀に揺れ、瞳はひどく鋭かった。


「……メルナ、早く帰ろう。お前の左腕を治さなければ」


「……は、はい」


 その一瞬、痛みは気にならなかった。それ以上に、目の前の強さに。そして戦いが終わったことに。幸運なのはジハークが直接戦闘に弱かったこと。そしてボクの相性が良かったこと。この二つだった。

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