№63. 破壊の聖卿
「——ていう感じに、調査を優先しましょうか。天魔の森を抜けるときは僕とメルナちゃん、ベルアルドさんにアルナリュートさん。道中は騎士団も少し連れてって感じで」
「うん、分かった。いつでも出られるように備えてたんだけど、明日でいい?」
「はい。戦闘準備もしといてください。もしかしたら接触するかもしれませんから」
客間にボク達は腰を下ろし、作戦会議をしていた。もっとも、作戦会議と言えるほど深いものではなかったが。結局のところ、実際に行かなければ分からないことも多い。
「例の大魔公が何者か、何をするつもりかは現状では分かりませんが、縄張りに入った人間を無視はしないはず。四人いますから、なんとかなるでしょう」
「よし、そうとなれば……メルナ。今日の特訓は軽くしておこうか。明日に差し支えがあると困るからな」
「あ、今日もするんですね……」
「おぉ、せっかくだ。今日は俺も付き添おう」
アルさんがボクの手を掴み、引きずるように連れて行く。軽く、とは言うが、彼女の軽くはこれっぽっちも軽くはない。逃げられないものか、なんて考えてもそんな術はなかった。
「……特訓と言うならメルナちゃん。僕と軽く打ち合いしないかい?」
「えっ?」
「聖剣持ち同士、力のほどは知っておきたい。他の二人も、僕の力は知りたいでしょうし」
「いいじゃないか、打ってこい、メルナ。後で私も胸を借りようかな」
そんなに乗り気じゃなかったんだが、断る理由も見つからない。それどころか、アルさんが背中を押すものだからそんな道など残されていなかった。渋々、そのまま訓練場へと向かい、アマテラスを抜くことになる。
「解放はなしで。本気で打ち合っては崩壊してしまいますから」
「分かった。じゃあ性能のお披露目みたいなものだね」
距離を空け、鋒を向ける。解放しないとなると、月の焔は大規模には使えないか。それ以外は加護の強さも制限される。とはいえ模擬戦、出力は重要じゃない。
「……いつでもどうぞ」
「じゃあボクから……ッ!」
地面を蹴り、突進。構えた剣を振り下ろした。衝撃が伝い、テンヤの足元を砕く。抵抗が少し、ボクの剣を押し上げた。その拍子にひょいと跳ね上がり、そのまま一度距離を置いた。
「細い身体で、随分とまぁ。……あっ! 変な意図はないですから!」
「分かってるって。何もセクハラで訴えたりはしないよ」
筋力増強の加護がある分、腕力はボクの方が上かな。ただし原初の聖剣、破壊の名前を冠しているんだ。何かしら、大きい力があるのは間違いない。
「なら次は僕が。防御、してくださいね……!」
「うん……っ!」
距離を詰め、刃が振られる。魔力を纏い、高い音を響かせながら受け止めた。やっぱり、力はボクの方が上だ。——なのに。不思議な力に殴り飛ばされた。
「かっ、はっ。けほっ、けほっ」
「……大丈夫ですか? 加減はしましたが」
「いや、問題ない。擦り傷だよ」
寝転がっていた石畳から身体を起こす。改めて拳を握ってみるが、力が抜けたわけじゃなさそうだ。それなのに弾かれた。魔力に押されたわけでもない。
「もう一回、来てくれる?」
「えぇ、いいですよ。構えてください」
言われた通りに剣を握る。今度は冷気を纏った月の焔を溢れさせ、全身の力を底上げしてみた。果たして受け止められるか。……たぶん無理だろう。
「せー……のっ!」
「くっ……!」
より速く、その接近に打ち返す。今度は受け止めるだけじゃない。逆に斬り飛ばすつもりで。一瞬、押したのはボクの方だ。刃が交わされ、このまま押し続ければ——
「ぐっ……うぁっ!」
「っと。……強いですね、思ったより」
一度目と何ら変わらず、また彼の腕力に押し負けた。地面を転がり、擦りむくほどではないが、痛くないわけじゃない。違和感はある。間違いなく、腕力で言えばボクの方が上なんだ。最初は剣技の差かとも思ったが、やはり違う。
「……見たところこれが破壊の加護ってところかな。たぶん、絶対に押し負けない。絶対に攻撃は通る。そんな能力でしょ?」
「ははっ、今の二回で分かるんですか。そう、その通りです。攻撃特化の力なんです。他の聖剣とは違い、加護も対魔と破壊だけ。圧倒的な物理能力」
こっちが防御に回ったら絶対に負ける。逆に、防御させれば勝ち目はある。あるいは防御もさせずに斬ってしまうか。相手がこんなじゃ無理だろうが。
「メルナちゃんの剣聖の加護は成長なんでしょう? 僕と打ち合えばどこまで伸びますか?」
「学習できるのは相手の剣術と能力の抵抗力。あとは身体能力が少しずつだね。でも、加護を完璧に無効化することはできないよ」
魔法ならばいずれは無効化できるんだが。とはいえ、多少の抵抗、つまり抗体のようなものは得られる。便利なようで根本的には脳筋だからな。剣を交えるだけ得だ。
「じゃあもっと伸ばしましょう。……と思ったけど、明日のことがあるから。もうちょっとだけ付き合ってください」
「ちょっとだけだよ」
ちょっととは言いつつも、結局は半刻ほど。あるいはもう少しだったかもしれない。ボクが攻撃したときは押し勝ち、逆のときは押し負ける。解放したらまた違うかもしれないが、その間は拮抗した打ち合いになっていた。




