№62. ほんわか
よし、ひとまず整理しよう。彼がアークバスター、つまり破壊の聖卿だな。見たところ二〇かそこら、ボクよりは少し上か。それでテンヤ・イガラシ、となればまぁ、十中八九そうだろう。西の方でもこんなあからさまな名前は少ないだろうし。
「しかし、アマテラスですかぁ。僕は少し縁がありましてね。故郷ではその名前が——」
「ちょっ、ちょっと待った! アルお姉様、ナナ。悪いけどボク、二人で少し話してくるよ」
「うん? まぁいいが、気をつけるんだぞ」
「はは、はい。よし、テンヤ君。ちょっと下の店まで行こうか」
アルさんとナナを引き離すように、グイグイとその背中を押していった。城門を抜け、街を歩き。彼は戸惑ってはいるが、大人しく従ってくれている。前世のことがバレる、それ自体はまだいいのだが、何かと面倒事になりそうだからな。隠すに越したことはない。
「えっと、そうだな。テンヤ君はいくつなんだい? ボクよりは上だろうけど、有名なのは昔からだよね?」
「あ、はい。今年で二四ですが、十五くらいから聖卿になってたので。八年と少しくらいですね」
「へ、へぇ。それはスゴいね。ボクなんて十六だからさぁ……む、意外と似てるのか?」
案内をしつつ、やってきたのは小さなカフェだ。人が少ないわけじゃないが、ここなら個室もあるからな。聞かれたくない話にはうってつけだ。
カランと鐘を鳴らしながら、雰囲気のある扉を押し開いた。可愛らしい店員さんの挨拶を受け、そのまま奥へと案内してもらう。さて、と。
「……ふぅ。えーっと、何から聞くべきかなぁ」
「僕も緊張しちゃって……恥ずかしながら女の子慣れしてないので。はは」
そういう話じゃねぇんだよな。アマテラスに反応した以上、彼が元日本人であるのは確かだ。ただ、そのアマテラスで気づかないものなのかな。ゼノヴィオは気づいてたが、あの人は勘が良い方か、それともテンヤが鈍いのか。
「まぁいいや。もうこの際、ド直球に尋ねるけどさ。テンヤ君、日本人だよね?」
「んなっ!? なななっ、な、何言ってんのさ! 違うよ! 僕は……違うよ!」
なんて分かりやすい動揺なのか。日本と聞いてその意味を理解しちゃってるじゃんか。たぶん鈍いんだな、彼は。
「別に、だからどうって話じゃないよ。ただボクも……うん。前世の記憶があるから」
「へっ……? もしかして同郷、だったり……?」
「認めちゃってるじゃん。そうだよ。ボクも元日本人、転生者だ」
隠すことなく、はっきりと伝えた。思えばなんで同郷だからと話しているのか。考えるほどに分からないが、縁があるのは確かだ。あるいはどこか、仲間意識みたいなものがあるのかも。
「へぇ……そうなのか! はぁ〜、だからアマテラスかぁ。いやぁ、気づかなかった」
「気づかなかったのか、やっぱり。ねぇ、この世界にはどれくらい向こうの人間がいるか知ってる?」
「えっとねぇ……。結構いるよ。有名なのは竜王ゼノヴィオさんだけど、他にも目立たずに転生してる人もチラホラ。日本以外からも多いしね」
「そんなにいるのか……」
でも、思えばそうか。転生なんて結局ホルネィ様の裁量次第みたいなところもあるし、日本だけとは限らない。転生者は強力な加護を貰うのが基本かとも思ったが、意外とそうでもないのかも。
「いやぁ、嬉しいなぁ。転生者仲間って言うの? シンパシーというかさ、なんかこう……あるよね!」
「ボクも意外だよ。三番目の聖卿がこんなほんわかした人で、転生者だなんてさ」
「ほんわかって……言われるほどかな?」
言われるほどだよ、と呟きつつ、頼んだミルクティーをちょびと飲んだ。甘い香りが鼻を抜ける。美味しいな。今度ナナにも作ってもらおう。
「テンヤ君は若く見えるけど、破壊の聖剣に前任者はいたの?」
「僕は会ったことないけど、いたらしいよ。一代前は五〇年くらい昔らしいけど。それで言うと、メルナちゃんのは君が初代だよね?」
「そうじゃ! メルナと余は一心同体。他の聖剣とはまるで違うのじゃ!」
「ちょっ……急に出てきちゃダメだって」
突然にツクヨミが飛び出し、今日はボクの隣にちょこんと座った。そして興味津々にミルクティーを眺め、一口飲み。目を輝かせる。なんだコイツは。可愛いな。
「えっと……その子は?」
「ツクヨミっていう魔剣で、同時にアマテラスの意思、らしい」
「か、カッコいい……! アマテラスとツクヨミって、神話じゃん! カッコいいなぁ! 女神様ったら贔屓してるんじゃないの?」
「そんなことは……ないとも言い切れないな」
実際にボクを贔屓しているかはさておき、するかしないかで言えば絶対にするタイプだもんな。可愛いとか好みで転生させるようだし、絶対に寵愛を受けてる存在はいる。絶対に。
「……あっ、ていうか本題さ。天魔の森に入ろうと思うんだけど、メルナちゃん行ける?」
「うん、行けるよ。ベルアルドお兄様もいるし、もしかしたらアルお姉様も来るかもしれないけど」
「あの美人のお姫様か。戦力が多いのは良いことだよ。じゃあ……一旦城に戻ろうか。案内してくれる?」
「前世のことは内緒だからね」
ボクの忠告に「うん」と短い返事をし、席を立った。どこか抜けた性格ではあるし聖剣の性質もまだ知らないが、漏れ出た魔力から分かる。この人は強い。見た目以上に。ボクは彼を案内するように、甘味にとろけてしまったツクヨミを抱えて店を後にした。




