№61. テンヤ・イガラシ・アークバスター
聖都ハルノを発ち、バラムランデに戻ってから数日。向こうでは悪魔がどうのと言われたが、何かが動いた気配もない。天魔の森に行くか、とも思うが、送ってくれるという聖議員も音沙汰なしだ。
「どうしようかなぁ。そろそろ来る頃だとは思うんだけど」
「そう焦る必要もないのではないか? 大魔公が何をするのかは知らないが、そう考えなしに動けるものでもないだろう」
「……それはそうですね。でも、対処するなら早い方がいいじゃないですか」
ボクの部屋に、アルさんを迎えて話をしていた。ちなみに彼女の膝の上でゼルは喉を鳴らして眠っているが、まぁ無視だ。
ともかく、ボク達が国を離れていた間も悪魔の動きが特別多かったわけでもないらしい。もちろんゼロとは言わないが、いつもと同程度だとか。
「そういえばお姉様、お兄様から聞いたんですが、その……また強くなられたんですか? 聖議会への加入が見えるほどに」
「ん? あぁ、まぁ……なんだ。私も鍛錬はよくしているからな。そろそろ次のステージが見えてきそうではあるんだ」
「ステージ?」
「もう少し、だがな。感覚ではあるが……強くなるぞ、私は」
そう言ってアルさんは自分の拳を握り締めた。これといった根拠があるわけでもないようだが、彼女がそう言うならそうなのだろう。魔力が増えるのか……あるいは何か、新しい加護でも得るのか。
「……ボクも欲しいんですよね、加護。聖剣が持ってるものじゃなくて、ボク自身の加護を……一つくらい」
「メルナは持ってないんだったか。ただ聖剣一つで四つも加護があるわけだからなぁ。十分に思えるが……」
「確かに十分かもしれませんが。もし聖剣がこの手から離れたとき、ボクは一人じゃ何もできないってことじゃないですか」
魔法や体術でも多少の戦闘は成立するだろうが、それでも聖剣の加護が失われたら戦力がガタ落ちする、なんてものじゃない。魔力の出力だって並程度なんだ。加えてこのままじゃ、ボクはロードみたいなヤツには敵わない。
「そんな心配は必要なかろうて、メルナ」
「わっ……ヨミちゃん、急に出てくるなぁ」
「そなたは余の主じゃ。余はそなたの剣じゃ。剣が主の手元を離れるなんてことはない」
「……そうなの?」
短い問いかけに頷くと、腰に差したアマテラスは独りでに揺れ始め、勝手に鞘からボクの手に移った。ツクヨミが動かしたのか。これがボクの手から離れることはない、ということなのか? 仮に奪われたとして、帰ってきてくれると。
「へぇ、スゴいじゃん! ボクの力が足りないことには変わりないけど、それでも心配事が減ったよ」
「言っとくが、自由自在に飛び回れるわけじゃないからな。投擲に使っても確かに戻ってはくるが、そなたの意思で手放したとなれば余の意思では動かしづらくなる」
「なるほど、分かった! 飛翔剣術は無理ってわけだ。でも十分だよ」
そうとなれば憂いもない。ただひたすらに力を極めればいいだけだ。となるといよいよ、ボク自身にも加護があると嬉しいよな。でも、今まで何度も戦って身についたこともないし。
そもそもアマテラスが聖剣の中でも異質。アマテラスの加護は全部ボクのものとも言えるのかもしれないし。結局鍛えるしかないのかな。……剣聖の聖剣、やっぱり脳筋か。
「メルナ。お前は晴れて聖議会に入ったわけだが、議席順位はどんななんだ?」
「あぁ……なんか五〇って言ってましたよ」
「今は全部で何人だったかなぁ。確かお前で五〇と何人目かのはずだ。理由としては議員として功績を上げてないからだろうが、今はほぼ最下位だな」
議席順位とやらには詳しくないのだが、単純に議会内の序列を表す数日らしい。一位がシア、二位がオルトレイ、三から九位は他の聖卿が並んでいるらしい。ベルアルド殿下は十位とかだったかな。
上位十二名が主要議員と言われるらしいが、あの場にいたカタロフとやらは十二位だったかな。ボクの挨拶だったのに……本当に全然来てなかったんだな。
「順位を上げる特別な理由があるわけでもありませんが、せっかくならトップを目指したいですもんね。のし上がってみますよ」
「ふふ、その意気だ。大魔公を討伐できればグンと上がるだろうしな」
座っていたベッドから立ち上がり、両手を天井に向けて伸ばした。その拍子にゼルは跳ね起きたが、変わらずアルさんの膝で寝てやがる。ボクだって膝の上で寝たいのに。つまみ出してやろう、そう思ったときだ。コンコンと、部屋の扉が叩かれた。
「ナナか。どうした?」
「あの、メルナ様にお客様がいらっしゃいました。聖議会から、だそうです」
「やっとか! よし、じゃあボクが出よう。案内してくれ」
「私もついていくよ。気になるからな」
結局、ゼルは膝から退かされてボクの肩に乗ってきた。ふん、ざまぁ見やがれ。というのは一旦後にして。そう重くない空気で……というより、なんなら和気あいあいと話しながら城の玄関、そして門へと向かった。
「こちらです、足元にお気をつけて」
「うん、ありがとう。……で、あなたが」
門を開けた先、青年が立っていた。若い青年だ。あどけなさも残るような、どこか頼りなさげな雰囲気の。ボクと同じような黒髪に、腰には剣を差している。……言うまでもなく聖剣だ。何番目の剣だろう、と思っていると、彼は優しく口を開いた。
「え……と。初めまして。僕はテンヤと言います。テンヤ・イガラシ・アークバスター。第三の剣『破壊の聖剣』アークバスターを持ってます。……です」
「テンヤ……五十嵐?」
「は、はい。メルナ・アマテラスさん……ですよね? び、美人さんで……。それにしても、いやぁ、お城って間近で見ると大きいですね! バラムランデに来るのも初めてで……あっ、すみません、馴れ馴れしく」
「え、あ、いや。うん……馴れ馴れしくていいんだけど」
第三の剣といえば、第一の剣アルスメードと第二の剣ドラグメイデンに並ぶ原初の聖剣だ。しかも破壊を冠する圧倒的な暴、それがまさか……こんな好青年の手に。テンヤ・イガラシ、五十嵐天夜という名も恐らく転生者。あまりの属性過多に、ボクの頭はズキズキと痛んだ。




