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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第九章 聖議会

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№58. ルミナス・フラムパラード

 飛空艇に揺られておよそ一日、到着したのは北大陸の聖都ハルノ。そこは見渡す限り真っ白な街で、澱み一つない、まさに聖なる都だった。あの女神様には似ても似つかないような……彼女のいる空間は確かに真っ白かったけど。


「うぅ……ダメだ。ちょっと酔ったかもしれない……」


「無茶はなさらないでくださいね。初めての空の旅でしたから、無理はありません」


「弱ッちィ小娘だなァ、てめェは。おい、ナナ。向こうから良い匂いがするぞ」


「ゼルも、あまり勝手してると捕まってしまいますよ。メルナ様に」


 地面に降りたボクは、よろよろと揺れながら近くのベンチに腰を下ろしていた。ゼルは変わらずムカつくようなことを言うが、言い返せるほど気力がない。というか、まさかこんなに酔うとは思わなかった。前世の飛行機じゃあ酔ったことないんだけどな。


「飛空艇は揺れも多少はあるが、魔導船以上に巨大な魔石を使ってるからなァ。魔力に当てられて酔う奴も少なくねぇんだ。人それぞれだな」


「へぇ、そりゃまた……。運が悪いのかな」


「メルナ様、サンドイッチ食べますか? この街のお肉は美味しいですよ!」


「……うん、ちょっと落ち着いたら食べる」


 ゼルには勝手にするなと言ってたが、自分は匂いに従ってたのか。ナナはこういうところあるよなぁ、割と。強《したた》かというかなんというか……まぁ頼もしいことには違いない。


「じゃあ俺は俺の方に行ってくるからよ、また議会で会おうな」


「あぁ、うん。色々ありがとうね。また」


 ヒラヒラと手を振りながら、オルガリアとはそこで別れた。呼び出されてるのは明後日、時計塔と呼ばれるお堂だったな。時計塔って言うくらいなんだから、大きい時計があるんだろう。……確かに、街の中心辺りに薄っすらと塔が見える。


「……ナナ、アレが時計塔?」


「えーっと……はい、そうですね。時計塔とは言いますが、大聖堂のようなものです」


 ナナからサンドイッチを貰い、一口齧る。瑞々しい野菜と柔らかくモチモチなパン、その中に香り高い鶏肉が入ってる。確かに美味い。さすが聖都、良いのは見た目だけじゃないか。


「なんで時計塔なんて呼ばれてるの?」


「象徴なんですよ。主神ホルネィ様は時空をも超越した存在。その偉大さを表現しようと、大きな無限時計が建てられたんです」


「ふーん。……無限時計ってのは?」


「大層なものではありませんよ。動かない時計なんです。絶対に動かない。機能していないというわけではなく、どんな力でも進められないものなんだとか」


 なんか無駄というか、そんなことを言ったら怒られるんだろうけど。それにしたって動かない時計って……芸術みたいなものなのかな。まぁでも、ホルネィ様らしくはあるか。あの人は働いてはいるだろうけど、サボり癖とかありそうだし。……もっと怒られそうだな。


「おい、俺様にもちョッとくれよ」


「……ほら」


「あむッ……うん、なかなか美味いんじャねェか?」


 サンドイッチの、パンの耳を千切って食わせた。なんでこう偉そうなのかな。猫は黙って愛でられてればいいのにさ。


「さて、酔いも覚めてきたし。じゃあナナ、そろそろ——」


「メルナ・アマテラス……ですね。炎小僧と来ていたようですが……」


「誰……わおっ」


 呼ばれた声に振り向くと、目の前にいたのはあまりに綺麗なお姉さんだった。真っ白な長髪、そして鮮やかな碧眼。絵に描いたような美人だ。冷ややかな目線も……うん、良いものだ。


「知らぬわけではないでしょう。私の名はルミナス・フラムパラード。せっかく顔合わせのために来たのですから、私の顔くらいは覚えてくださいね」


「は……はい」


「ふふ、よろしい。またお会いしましょう。あの炎小僧には誑《たぶら》かされないでくださいね。どうせつまらぬことを吹聴したのでしょうが……まぁいいわ。では」


 それだけ言って、彼女はそのまま踵を返した。なんかよく分からん人だったけど、分かったのも一つあるな。たぶん、オルガリアとは犬猿の仲だ。……いや、たぶんというか確実に。


「フラムパラードというと、氷結の聖剣ですね。第五の剣……あんなに綺麗なお方だとは」


「ね。……さぁさ、宿に行こうか。ボク疲れちゃったよ」


「あ、はい。どうぞこちらに」


 ナナの案内についていく。白い街じゃ前も後ろも分からなくなるが、流石は一流メイド。……いや、関係ないかもしれないが。いつの間にか現れていたツクヨミを肩に乗せて、視線を移ろわせながら宿を目指して歩いていく。


「……おい、メルナよ。余の勘違いでなければ……この街、何かいるぞ」


「……? 何かって……いや、ほんとだな。何かいる」


 オルガリアもルミナスも魔力量は相当のものだったが、それとはまた異質な魔力だ。他にも聖卿が? 聖議会の人間は他にもいるらしいから、あるいは聖剣と無縁の何者か、かもしれない。


「まぁ、今は気にするほどじゃないよ。揺らいでるせいで場所の特定もできないし、そんなに強大ってわけでもなさそうだ」


「そうじゃな。対処の必要があるんなら、他の奴らに任せりゃいい。そなたはしっかり休むことじゃ」


 そのまま十数分、ナナの後ろをただ歩いた。幸い、例の魔力からは異質さはあれど悪意は感じ取れない。気になることではあるが、気にすることでもないだろう。


「ふぅ、やっと着いた。なんか……キラキラしてるね」


「聖議会が用意した高級宿ですから。……聖議会とは言っても、ですが」


「おぉ、よく来たね、メルナ! ナナもお疲れ様。さぁ、ついてくるといい。部屋まで案内しよう」


 相変わらず、明るく優しいのはベルアルド殿下の声だ。聖議会を通して彼が用意したのだろう。無駄に高く快適な宿だからそうだろうとは思ったが……。ただ、いくらシスコン兄とは言っても部屋は別だ。ボクはナナと二人部屋、断る理由は何もない。


「ありがとうございます、お兄様!」


「ぐはぁっ! や、やめてくれ……ごはッ」


 部屋に入り、ドアを閉める直前。とびきりの感謝と笑顔を込めた上目遣いの一撃に、殿下は虚しく撃沈した。これだけお礼をすれば満足だろう。ボクはそっと、彼の遺体……もとい血を吐いて倒れた姿を確認しながらドアを閉めた。

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