№57. 火炎の聖卿
飛空艇のバルコニーに、ボクとナナは彼と一緒に風を浴びていた。オルガリア・フォン・オルフレイム。その名の通り、彼は第四の剣、『火炎の聖剣』オルフレイムの所持者だ。どこぞの国の偉い貴族だったか。当たり前のように聖卿らしいが、一つ、他の者とは違うところがある。
「オルフレイムは一族で継承してる、って話は本当なの?」
「あぁ、事実だ。オルフレイムも他の聖剣と同じように主は選ぶんだがな、先祖代々、俺達一族が主になってる。まぁ家で保存してたってのもあるが、我が家に加護でもあるんかね」
「まぁ……確かに、聖剣なんて保管しようとしてできるものでもないか」
意思がある聖剣を留めておくのは簡単じゃないだろう。少なくとも、余計なことをしたら主として認められることなんてないだろうし。……オルフレイム家……元はタルファス家なんて名前らしいが、その血に惚れ込んでるのかな。
「安心せいよ、メルナよ。余の主はそなただけじゃ。後にも先にも、余はそなただけの剣じゃぞ」
「うん、ありがとね。別に心配してないけど」
「それがアマテラスか? 懐いてるのもそうだが、異様なまでにくっきりと意思があるじゃねぇか」
「ふん、当然じゃろ。余は余であるゆえ、そこらの聖剣とは違うのじゃ。そも余は魔剣、アマテラスの意思ではあるが……うわわっ」
余計に長く語りそうなツクヨミを首から下ろし、抱えた。腕の中の彼女は軽く、暴れる様子もない。むしろボクの胸に頭を預けてリラックスしてるくらいだ。
「まぁなんでも構わねぇが……こちとら久しぶりの招集でよォ。わざわざ来てやってるってのに、素直に集まる奴は少ねぇらしいぜ。聖卿も俺とあと一人、それ以外もあんまり来ねぇようだ。冷たい先輩だよなぁ?」
「元から癖の強い人達だって聞いてたからね。別に期待はそんなにしてないよ」
「こりゃあ顔が立たねぇな。せめて七大覇王に数えられてる奴くらいは顔出してやりゃあいいだろうに。忙しいんかね」
オルガリアの発した言葉に、ピクリと耳が跳ねた。七大覇王、聞き馴染みがないような……あるような。いつかどこかで聞いた気もするが、思い出せるような知識がない。
「……ナナ、七大覇王って何?」
「えっ、ご存知ないのですか? えーっと、一言で言うならこの世界で最も強大な七人のことを指す総称ですよ」
「大半は簡単に動ける奴じゃねぇし、そもそも人類側じゃねぇ奴もいるから仕方ないが」
その七大覇王に数えられるのはシアとロード・アルスメード、竜王とエルフの王。それから古龍と吸血鬼の王、そしてオルトレイという人間が一人、という構成らしい。
明確に人類に味方してくれているのはシアと竜王、会ったことはないがエルフの王とオルトレイか。七人……人? かは分からないが、そのうち四人、四大聖王と呼ばれる者達が人類側なのは良いことか。まぁ数の差があってもロードは別格なんだろうが。
「お前、ロード・アルスメードと出会ったんだろ? どんなもんだった?」
「どうもこうも、怪物だよ。ボクとロキの二人がかりでもまるで相手にならない。シアが来てくれたから良かったけど……それでもアレは分体だって言うしさ」
「シアさんは強ぇからなぁ、あの人以上となると想像もしたくねぇ。俺は……アルスメードとはそんなに会ったことねぇしなぁ」
意外とオルガリアはなんか……馴染みやすいな。赤髪で眼光が鋭いだけあって近寄り難い風貌ではあるが、気の良い兄ちゃんみたいな。ところどころの荒さはあるが、良い人そうな雰囲気だ。
「……やっぱり、聖卿同士でも序列はあるの? あるいは七大覇王の間でさ」
「……あるなぁ。あんまり、俺としては話したい内容でもねぇがよ。例えば原初の三本を持つ奴らは別格だ。いや、シアさんやアルスメードは更に格が違うが」
「他は横ばいってところ?」
「まぁ……うぅん。相性次第ってところもあるが、それでも優劣はあるぜ。氷娘よりは俺は強いがな、絶対に。七大覇王や四大聖王内も……多少はあるな」
相性か。まぁそれは当然として、おおよそのアベレージは似たようなものなのかな。ならボクも、聖卿の中では弱くもなさそうだ。たぶん、聖議員の中でも。
「メルナ様、そろそろ中に戻りましょう。外は風が冷えます」
「うん、そうだね。ボクはともかく、ナナが風邪をひいたら大変だ。話の続きがあるなら中で——ッ!?」
ナナと一緒に、艦内に戻ろうとしたと同時、後方に何やら大きな魔力を見つけた。それはあまりに大きく、そして早い。地上ならまだしも、ここは空中で、飛空艇だ。危険なんてのは言うまでもない。
「くそっ……なんでこんな……」
「クキャァアア!!」
「っ……うるさ!」
姿を見せたのは、目測三〇メートルはあるだろう巨大な鳥。赤や紫の賑やかな色だが、あいにくこの旅にそんな賑やかさは求めてないんだ。接近した瞬間に羽を斬り落とすか……いや、やはり船が危ないか……。
「どうするか……月の焔は、この距離じゃ船体を巻き込んで——」
「カッカッ! 来たぜ、来たぜ、ハプニング! やっぱり旅はこうじゃなくちゃなァ! 上がれ、オルフレイム!!」
「っ……ちょっと! こんなところで戦っちゃ——」
制止するよりも早く、彼の聖剣は火を吹いた。いや、炎を帯び、炎そのものに形を変えたんだ。ボクの魔力をも焼き尽くすような、純粋な火力、ただひたすらの熱。
そんな熱気に大きな飛空艇は揺れ、加速と減速を繰り返した。斬撃はその炎に乗って、炎は魔力に、風に乗る。なんの抵抗もなく、次の瞬間には鳥は全身を炎に包まれ、いつしか墜落していた。
「雑魚にゃ時間もかけねぇよ、無駄だもんな。カカッ……どうだ、惚れちまったろ?」
「いえ、まったく」
キン、と気持ちの良い音と共に鞘に収められると、空気を威圧していた熱もすっかり冷えて。飛空艇は再び、空の自由旅に戻った。船の一部に点火して、操縦士にめちゃめちゃ怒られたのは名誉のために忘れておこう。




