№55. 融合属性
「炎と氷の融合属性ですか。これはまた面白いですね。聖剣の加護によるものですか?」
「いえ、たぶん違いますね。聖剣も似たような魔力を持ってて、それがボクの二つの魔力を溶かしたといいますか、繋ぎ合わせたと言いますか」
王宮の魔法訓練室、そこでボクとミリア殿下は魔法の話を弾ませていた。手のひらの上で氷を揺らし、あるいは炎を固めて。熱も冷気も自由自在、そんな魔力に興味津々のようだ。
「そもそも、属性を二つ扱える時点で希少なんですけどね。融合属性ともなればさらに珍しい」
「……あれ? 珍しいと言うと、いないわけでもないんですか?」
「例えば地と炎、この二つの属性が融合して溶岩になるなんてこともありますし、風と水で天候になるということもあります。ただ、相反する属性で、全く新しい性質になるのは初めて見ますね」
属性が混ざること自体はあるにはあるのか。でも珍しいというくらいなんだから、世界的にも数えられる程度だろう。だからどうという話でもないが、それがアドバンテージになるかどうか。認知されすぎるのは考えものだ。
「……融合属性について、気になるのであればこちらの本を。今までに確認されたものについて記録されたものです。似たようなものもあるので、一つくらいなら差し上げますよ」
「えっ、本当ですか!? やった! ありがとうございます、お姉様!」
「お気に召したようで良かった。ついでにこちらもどうぞ。最近完成した魔法指輪というものですが、収納に便利だと思いますよ」
そう言って人差し指に、白い宝石が嵌まった銀の指輪が通された。宝石じゃなくて魔石か。魔力を通すと何か……空間が拡張されるように引き伸ばされる。いわゆるマジックバッグみたいな、形のない袋みたいなものか。容量は……それこそバッグ一つ分くらいかな。
「ところでメルナちゃん。ゼルから聞いたんですが……」
「うん? どうかしましたか?」
「……メルナちゃんの聖剣解放、とってもエロいって言ってましたよ。ねぇ私にも見せてください」
「なッ……!? 何を言うんですか! もうっ、知りません! 魔法指輪はありがとうございました。ナナ、行くよ」
プリプリと頬を膨らませながら、ナナの手を引いて訓練室を後にした。後ろでは興味深げに笑みを浮かべているが、無視だ無視。あの人は本当に、急に何を言い出すかと思えば……。
「ふんっ、まったく……」
「メルナ様、そう急いでも熱は下がりませんよ。……ゼルをどうするおつもりですか?」
「……尻尾を引きちぎる」
靴の音を廊下に響かせ、ボクの部屋へと戻っていく。少しずつ冷静さを取り戻し、片手に持った本をチラと覗く。よくよく考えたらこれを読む意味はあるのか、とも思うが。月の焔を扱う上でのヒントを得られるかもしれない。そう思えばまぁ、勉強と悪くはないか。
「おい、ゼル!」
「にャんだ?」
「ミリアお姉様に変なこと言ってんじゃねぇ!」
「痛ェッ! なんだ、何に怒ッてるんだ!? 心当たりがありすぎて分からねェ!」
くそっ、コイツもコイツで無敵だな。なんかもういいや。怒るのも疲れたというか、うん。尻尾を引き寄せ、そのままゼルはベッドの足元に放り投げた。
ボクはといえば、ミリア殿下から譲り受けた本を抱えて、そのままベッドに飛び込む。パラ、と。一枚捲ってみると、なるほど。想像以上に文字の羅列だ。長い歴史で見ると流石の母数だ、数そのものは少なくない。
「炎と闇で物質を貫通する炎、雷と地で破裂。ふーん……属性さえあれば再現性はあるみたいだけど、出力が桁違いみたいだね」
「お茶、淹れましょうか? メルナ様。それともジュースでも……」
「いいよいいよ。ね、ナナも一緒に読もうよ」
「……仕方ありませんね。ではお隣、失礼します」
一つずつ丁寧に読んでみるが、一言で表せる現象が六割、新しい現象になるのが四割ってところかな。つまり、ボクみたいに非現実的な性質もあるわけだ。ただ確かに、ある程度の属性相性はあるらしく、例えば炎と水や氷、光や雷と闇が混ざり合った記録は見当たらない。
「……あ、見てください、メルナ様。これ、三属性ですって」
「三つかぁ。現代にはいないんだよね、確か。……やっぱり色々いるんだな」
ナナに指されて見つけたのは、光と炎、そして雷。あまりに攻撃的で、なんというか……主人公みたいな属性だ。性質は太陽、全てを焼き尽くす、か。三つの属性なだけあって、破壊力も別格なのかな。
「時代は六五〇〇年前、じゃあ聖剣が生まれたのと同じくらいか。……ん? コレ、似たような属性じゃない?」
「あ、本当ですね。月の属性ですって。これも同じ時代じゃないですか」
氷と闇、そして風。問答無用で奪う空間。こっちもこっちで規格外だな。基本的には風に触れた全ての敵を凍らせ、飲み込む魔法か。魔法を飲み込む魔法……月というより宇宙って感じだな。
「地と風、水で樹の属性だってさ。これは優しそうだな。時代もさらに昔だ」
「……こっち、全属性ですって、メルナ様」
「はぁ? 全部? 全部って……どこからどこまでだよ」
ナナが開いていたページに噛み付くように顔を寄せた。三属性でさえもほんの数個しか記録がないのに、四、五も飛ばして全だなんて。そんな規格外がいるものなのか。
「どれどれ。……本当だ。全てを有し、そして融合した先にあるのが創造の属性。……あぁ、コレは神話だよ。主神ホルネィの力、そりゃ世界の神なんだ。そんなもんでしょ」
「じゃあ人類の……というかこの次元の者は三つが限界、ということなんでしょうか」
「そうなんじゃない? ま、もしかしたら可能性はあるかもしれないけどさ」
何千年と、三属性を超えた記録がないのならそういうことだと認識してもいいだろう。そう頭で整理しながら、また一つずつ、丁寧に読んでいった。炎や氷の意外な使い方なんかが見つかるんじゃないか、なんて思いが半分。もう半分は、カタログを見るような楽しさ半分で。




