№53. ラジオ体操
身体を起こし、伸びをする。まだ腹部や節々は痛むものの、ちょっと動かすだけで全身に血が巡る気分だ。ラジオ体操って良いもんだな。ラジオないけど。
「いっち、にっ、さん、しっ」
「しっかし……アルスメードと戦って本当に魔剣を取るなんてよぉ……流石に驚いたぜ。いや、聖剣なんだっけ?」
「いいや、余は魔剣じゃ。しかし同時にアマテラスの意思、つまり聖剣でもある。そも、メルナがその二つの性質を持った存在、そこから生まれたアマテラスもまた同じじゃ」
「……それがボクもよく分かってないんだよなぁ」
他の聖剣は最初に世界に現れて後から主を選んだと言うが、ボクの場合は最初に与えられたのがアマテラスだったからそこの違いなんだろうか。ただ、二つの性質とは言ってもこの身体を作ったであろうはホルネィ様だ。結局、あの人の趣味というふわふわした理由であることも否定できない。
「お姉様、どうしましょう? 魔剣を得たんじゃ、この旅の目的は達成したということ。王国に帰りますか?」
「……うん、そうだな。お前の傷が癒えたらそうするか。だがそう急ぐ必要もないだろう」
これからはどうするか。……気になるのは二つだな。真世界っていうのと、それから魔剣と聖剣を統べた者がどうとか、という話か。
前者はまぁ今はいいとして、後者はあまり実感しないんだよな。ボクの場合はやっと揃ったというか、ただ解放できるようになっただけだし。……ロードのことも気になるが、今はどうしようもない。
「だがアマテラス。お前、身体の負担があるなら聖剣の解放にも慣れておいた方がいいぞ。俺も少し気になるし、聖議会への連絡も必要そうだ。一度見せてくれるか?」
「わがままのようだが、拙者も見てみたい。魔剣と聖剣を得た力とやらを」
「あ、うん、分かった。じゃあ外でやろっか」
そっか、ロキと藤玄は見てないんだったな。それからシェリンもか。ロキに至っては、素直にボクが魔剣の主と認めてくれてるのが意外だ。……まぁツクヨミ本体がこんなにボクにべったりだし、仕方ないか。
「……ん? お、なんだ、起きとるじゃないか。ワシに知らせの一つや二つ寄越さんかい」
「あ、鷹丸のお爺さん。部屋、ありがとうございます。ルリもありがとうね。……相変わらずの服装だけど」
「いえ、お気遣いなく」
「ふん、生娘が血ぃ流しながら運ばれて、貸さねぇほど冷たくねぇのよ。まぁ気にすんな」
生娘とは……まぁ、うん。よそから見たらそんなものか。でもボクの中身は男だもんな。なんなら真反対だぞ。……そんなことを言うつもりもなく。ボク達は階段を降りてガラクタ屋の外に出た。
「さて……ヨミちゃん。尻尾、下の方向に出してくれるかな。スカートが破れるのは困っちゃうから」
「……いいけど、あんまり尻尾動かしちゃダメじゃぞ。スカート捲れちゃうから」
「あぁ……うん。よし、おいで、アマテラス」
「ほう……凄まじい魔力だ……」
剣を抜き、魔力を走らせる。身体の底から湧き出る魔力と熱が、剣を、そして肉体を変質させていく。尻尾が生えて、刀に変わり。立ち昇る魔力が風を揺らした。
「ふぅ……こんなものかな」
「なるほど、確かに解放だな。……強力ではあるが、俺達と違うのは肉体が変わってることくらいか」
「不思議なものだなぁ。髪も伸びてるし、皮膚にも少し鱗がある。角も生えてるじゃないか」
「角……? ひゃっ!」
アルさんの手が頭に伸びて、そこにある何かに触れた瞬間。たまらずボクはしゃがみ込んだ。なんだ、今のは……? くすぐったいって言うか……神経を撫でられたような。神経とか魔力とか、集まってる部位なのかな。改めて手を伸ばしてみると、なるほど。確かに小さな塊……角がある。
「す、すまない、メルナ。まさかそんな敏感だとは」
「あ、あぁ、いえ。お気になさらず。私も少し、びっくりしただけです」
アマテラスを収め、解放状態を解除しながら膝を伸ばして立ち上がった。驚きはしたが、身体に影響はない。解放するのもそれ自体は負担にはならなかったし、奥の手として使えば問題ないかな。
「……まぁ、魔剣と融合したからと特別なものは感じないな。シェリン、お前から見てどうだった?」
「変化幅は大きいようですが、ロキ様並びに他の聖卿の方達と大きな違いはないかと。魔剣を取り込んだというだけあって、悪魔に近しい魔力も半分ほど満たしているようですが……」
「が?」
「聖剣と魔剣、二つを統べたとは言っても、世界を支配するような力にはほど遠いですね」
そこだよな。まぁ伝承なんだから、鵜呑みにするのもどうかとは思うが。とてもじゃないがそんな大層な力はない。これでやっと、他の聖卿に並んだってところだろう。少なくともシアやロードほどの高みじゃない。
「まぁなんでもいいさ。晴れて十番目の聖卿の誕生だ。近々、聖議会の方から連絡があるだろう。バラムランデに戻るならそっちに送っとく」
「あ、あぁ。世話になったよ。……いや、あんまりなってねぇな。バイバイ、シェリン」
「まぁ、そんな愛らしいご挨拶を貰っては別れるのが惜しくなるというものです。……しかし、えぇ。私はロキ様の従者ゆえ、またの機会にお会いしましょう」
少し違う恐怖を感じる相手だが、悪魔にも色んなヤツがいるんだな。月の民、か。ロードがどう動くか知らないが、もしかしたら悪魔達も……大魔公達も動くのかもしれない。ボクものんびりできないな。
「おゥ、小娘。俺様はスルメが食いてェ。買え」
「……お前はマジで斬るぞ。許してないからな、まだ」
ゼルは何食わぬ顔でナナに抱かれてるのが何よりムカつくんだ。見た目は可愛い黒猫のくせして、中身は完璧なクソ野郎なんだから。
ロキ達を見送った後は再び部屋に戻って。その翌日には藤玄が流れ旅に戻ると言って別れることになった。ボク達もそこからもう一日だけルリのバニー姿を堪能……もとい世話になり、その早朝にはバラムランデに出発した。




