№52. 勝利
◇◇◇
白い空間、見渡す限り何もない。そこに一人、変わらず見た目だけは美しい女性がいる。流石に三回目だ。ボクだってすぐに分かる。
「……ホルネィ様、ボクまだ死んでないと思うんですけど」
「おー。確かに死んではないね。だけど君さぁ、ツクヨミを手に入れたんだろう? なら多少は説明しなきゃなって、気絶してる間に呼んだのよ」
「えぇ……。でも女神様の話って長そうなんで嫌です」
「見ないうちに図太くなったね。別に長話にはならないからさ。まぁま、腰掛けなさい。どうせ現世の方の時間は私で整えてあるから」
そう言いながらヒョヒョイといったように指を振り、無の空間に椅子と机を作り出した。時間も整えてあるって……さすが神様、なんでもありだな。この人の話聞かないと帰してくれないか。
「さぁて、何から話そうかなぁ。……うん、成り立ちからか」
「いや、結論だけでお願いしますよ」
「君、転生させるよ? ねぇ、あんま私のこと軽んじてると勝手に転生させちゃうからね?」
これが女神様ジョークってやつか。冗談でも、もう転生はしたくないぞ。せっかく今の生を堪能してるんだし。いよいよ諦めて、どこからか出されたお茶を啜りながら口を噤んだ。
「まずこの世界がどんな形をしているか、知ってるかい?」
「真樹があって、その根を覆うように大地がある、でしょう? 世界樹の森にも行きましたから、その辺の話はおおよそ聞きましたよ」
「うん、その通りだね。その認識は確かだ。じゃあ、その『下』は?」
「……下?」
ええと、根っこがあって、大地があって、そこから飛び出してる枝が世界樹で。じゃあその下っていうのは……大地と根っこの間か? それとも、そのさらに下? あるのは空洞か、地核かな。いや、この世界は地球のようで少し違うんだから、そんな単純な話じゃないか。
「……ははっ、そう複雑な話じゃないよ。真樹はいわゆる木とはまるで形状が違う。ま、球みたいなものさ。少し違うけどね。その中に、もう一つの空間があるんだ。その空間は『真世界』と呼ばれてる」
「あぁ! ルヴァルクが言ってたな。真世界って……確か竜がそこの住人だったとかなんとか」
「正確には天使だね。あ、別に神の使いとかじゃないよ? 地球のイメージする天使とは違って、まぁ始まりの種族みたいなものだよ。人間もそこの子孫ってわけさ。竜じゃないけどね。真世界はそれらが生まれた世界、今もあるけど……現世界が大きくなってるから、そんな大きなものじゃない」
古代遺跡みたいなところをイメージすればいいのかな。始まりの種族、人間や動物の祖ってことは……どういうことだ? たぶん、聖剣よりも前の話だよな。……あ、たぶん関係ない話だ。今のコレは。
「うるっさいなぁ。順を追ってるんだよ。……まぁいいや。で、もちろんその天使ってのの対になるのが悪魔だってのは分かるね? 何十万年も昔のこと、悪魔は『真樹の世界』にはいなかった。『月の民』だったんだ、元々は」
「へぇ、月の。地球の月じゃなくて、この世界の月ってことですよね?」
「もちろん。ザックリ言うとだね、彼らがこの真樹の世界にやってきて、真世界にしかなかった魔力という力を現世界にも持って来た。そこで始まったのが『満月の日』、いわゆる『真樹の世界』の住人と、月の民の争いだ」
それがおよそ七〇〇〇以上前に始まった、悪魔と人間達の争い……か。今でこそ少し大人しくなったらしい悪魔だが、それでもその争いは終わってないのは明らか。……つまり、その『満月の日』とやらは現世界に溢れ出した者達による殺し合い……。
「……? え、結局、その話が何なんですか?」
「君の聖剣、アマテラスはね、その二つの因子を持ったものだ。厳密には君が、だが。そんな解放なんてそりゃあ大層なエネルギーを使うものさ。気をつけなよ。無理して使い過ぎたらお陀仏ってやつだ」
「なっ……!? ちょっ、それってどういう……」
「私は主神、肩入れはしないよ。与えるのは知識だけだ。じゃあね〜」
◇◇◇
最後に視界に映ったのは彼女がヒラヒラと手を振る姿だった。肩入れをしない、だって? 嘘吐いたな、あの人。ボクの容姿やらを趣味でいじったくせに……。話に飽きたとかそんなとこだろ、実際は。
「……あ、おはようございます。アルお姉様、ナナ。……クソ猫は寝てんのか」
「っ! 起きたか、メルナ! ……良かった、目を覚まして」
「心配かけました。……シアは?」
「あぁ、起きるな起きるな。寝たままでいい。シアは帰ったよ。特にこっちでやることもないからと。私達は無事、それから藤玄も、道中でロキとシェリンが拾ってくれて、一命は取り留めたよ」
お腹で丸まったゼルを無視しながら指された方向を向くと、ロキを始め確かに三人、そこにいた。斬られたはずの腕も繋がってるようだし、高級な回復薬でもあったのかな。死人がないなら良かった。
「ここは……」
「コダマ峠の鷹丸の店だよ。部屋を貸してもらったんだ」
「ヤマト大山の方もお気になさらず。メルナ様が凍らせてくれたおかげで、村は怪我人もなかったようです。氷は溶けなかったようですが、面白かったので置いてきました」
ナナが嬉々として話した内容は良いのか悪いのか……まぁ面白いなら良しだな。しかし、月の焔は氷の性質を強く出すと溶けない氷になるのか。炎は消化できないとか、温度が下がらないとかかな。強力なことには変わらなそうだ。
「それと、スカートの穴は縫っておきましたのでご安心ください」
「おぉ、助かるよ。でも困ったな。解放するたびに穴をぶち空けるんじゃ恥ずかしくて……」
「それは仕方ないってもんじゃ。余の尻尾は力の象徴でもあるんじゃ、威張れ威張れ」
「わっ、いつでも出てこれるのか。びっくりした」
嬉しそうに首に巻きつく感触には相変わらず戸惑いながら、上半身だけゆっくり起こした。問題はまだ残っているし、手放しに喜べることもないが。ひとまず、魔剣を勝ち取ったのはボクだ。この争奪戦、勝ったのはボク達だ……!




