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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第八章 ヤタノ大山

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№51. 剣聖の聖卿

 頬を擦り寄らせ、尻尾が嬉しそうに巻き付いてくる。見た目の割には身体が軽く、まるで羽のように一切の負担がない。……いや、角が当たると少し痛いが。


「うっしっしっ! 会いたかったぞ〜、メルナよ。余はそなたを待っていた!」


「待って……?」


 やっと巻き付きが解かれたかと思えば、今度はその小さな手が首にしがみつく。ヒラヒラと黒い和服が揺れ、視界の半分を覆ってしまった。……何も分からん。この子がツクヨミだというのはまだしも、それがアマテラスの意思というのは……。


「……アマテラスの意思、だと? 主は……主らは何者だ」


「ふんっ、言ったじゃろ。そなたに説明する趣味はないと、そろそろ理解しろ」


「な、なぁ、ツクヨミ。……いや、アマテラス? ボクも何が何やら……」


「話は後じゃ。とりあえず脅威をなんとかするとしよう。さぁ、解放しろ」


 解放……解放? 聖剣の、だよな。そっか、ツクヨミはアマテラスの意思。となれば今、ボクはアマテラスの意思を聞くことができてる。えーっと……どうすればいいのか。直感、なのかな。いや、考えてる暇なんてなさそうだ……っ!


「魔剣は我のだ。主には渡さん……手を離せ!!」


「くっ……もう! おいで、アマテラス!」


「ははっ、なんじゃそれは。腑抜けた呼びかけじゃが……良いぞ、メルナ!」


 ロードは地面を蹴り、軋むほどの魔力を帯びた剣が円を描く。摩擦が空気を鳴らし、キンと音が響く。ほんの刹那、振り下ろされるまでの、瞬きすらできない一瞬。ツクヨミが肩から消え、腹の底から湧き上がった魔力がボクとアマテラスを包んだ。


「くっ……ぬ、ぅっ……!」


「チッ、間に合わなんだか……っ」


 二つの聖剣が交わり、高い音を奏でる。その音が山を揺らし、木を落とした。その防御が跳ね返ることはなく、どこかに分散することもない。


(感謝するんじゃぞ。余が先の斬り合いで対魔の加護を成長させとったんじゃ。奴の堕天の加護の特効ってところか)


「……頭の中から声がするんだけど」


(当然じゃろ。余の実体はそなたであってアマテラスなんじゃから)


 融合、みたいなところか。ボクの黒髪は伸び、皮膚も変質している。……いや、それ以上に尻尾が生え、アマテラスは真っ白な日本刀に変わっていた。これが聖剣の解放……聖卿の境地、か。


「『火炎の剣』……」


「……むっ」


「『月燈ルナ』!」


 解放によって得たツクヨミと同等の魔力を白い刃に纏い、振り落とした。今までよりずっと強力なはずだが、ほんの少し、力を込めただけで受け止められた。ふと、その刀に違和感を覚えた。熱いようで、熱を感じない。いつもの炎とは何か違った。


「……? なんだ、コレ。青白い炎? 炎魔法を纏ったはずだけど……」


(アマテラスは太陽の炎、ツクヨミは月の氷じゃ。その二つの属性を兼ね、共存した性質の魔力、それがその『月の焔』じゃ。それは——)


「先より、良い威力だな……っ!」


「くっ……! んの野郎ッ!」


 視界から消えたかと思えば、突然に現れたのはすぐ目の前だった。速い。が、まだ追える。片足に重心を寄せ、鋭い刃を避けた。頬を掠めたが、その熱のままに、青白い刀身を斬り上げる。


「っ……流石は剣聖の。変わった力だ」


「げほっ、げほっ……」


 ボクの刀が掠めたのはあまりに浅く、布地を裂いただけだ。だが確かに、その断面は凍てつき、灰のように崩れ落ちた。その刃もすぐに弾かれ、それが中に響いたか、血が唇を伝った。


「……ふっ!」


「くっ……のぉッ!」


 砕けんばかりに交差する。光を反射する太刀が、光を折り曲げよう勢いで。心臓を狙って飛び出した剣を逸らし、そのままの勢いで刀を首に目掛けて振り抜く。空を斬るばかりで、やはり当たりはしない。


 ツクヨミの魔力と融合して分かったことがある。一つ、刀になって両刃じゃないのはほんの少しの不便を感じるが、太刀の重さは桁違いだということ。そしてもう一つ、ボクはてっきり、ツクヨミとロードは拮抗しているのだとばかり思っていたが……まるでそんなことはなかった。


「はぁっ、はぁっ……ごほっ。ったく、怪物めが……。まだあっちは解放もしてねぇってのに、どうしろってんだよ……っ」


「我も同じだ。そう簡単に始末できる相手でもなくなってしまった。加えて魔剣と一対の異質な聖剣……主を斬り殺しても得られなさそうだ。互いに不毛だな」


「んなこと言うなら……」


 肺を迫り上がる血液があるが、そんな痛みは後に回すしかない。悪態を吐きながら、炎をたぎらせる。燃え広がる氷で一帯を覆った。ロードの出方を伺い、隙を突くしかなさそうだ。緊張の中、そんな作戦を企てていても、そんなことは気にもせず、彼は剣を大地に突き立てた。


「がふっ……はっ、はっ……?」


「『天落』……。あぁ、撤退しよう。魔剣が手に入らないなら……『新月の日』はまた別の機会だ」


「何を……っ!? なっ、どこ行った!?」


 目を離したわけじゃない。なのに、消えた。突然に、目の前から。向ける刃を失い、凍らせ、燃やす相手もいなくなった。火が潰れるような音と共に、月の焔は消え失せる。


「はっ、はっ……」


「メルナ! 平気か!?」


「メルナ様ッ!」


「わっ……!」


 心配そうに涙を浮かべ、アルさんとナナがボクに抱きついた。なんて可愛い顔を……いやいや。落ち着こう。……よし。そりゃあ姿形が変化したんだ。不安の一つや二つ、あるだろう。


「強かったばい、メルナちゃん! これで君の聖卿ばいね」


「……シア、君は手伝ってほしかった。……ツクヨミを得ても、ボクよりずっと強いでしょ」


「バカ言ったらいかんよ。最初の戦いはちかっぱ大切やけん、手出しするほど無粋じゃないたい。それに、あれはたぶん分体やけん。そんな強ないっちゃん」


「命がかかってるのに……」


 ただまぁ、なんとなく言いたいことは分かる。死にそうになったら助けてくれただろうし、そうならなかったんだから良しとしよう。分体、というのは聞き捨てならないが……いや、もういいや。ふぅ、と深く息を吐き出し、そのまま解放を解除しようとしたとき。身体が小さな浮遊感に襲われた。


「……? あれ、なんだ……ッ!?」


「なっ……みんな、掴まれ!!」


 アルさんに呼ばれ、みんな一箇所に寄った。いや、寄るのすら難しく、引き寄せられた。浮いてたんだ、おかしな話だが。足は大地にあるというのに、踏んだはなかった。咄嗟に魔力を解放しつつも、そのまま雷でも落ちたような轟音と共に、土煙と倒木がボク達を包んだ。


「はぁっ、はぁっ……危なかった。……ロードの野郎、バカな置き土産していきやがって」


「はっはっ! まさか山をぶち壊すなんてねぇ! 恐ろしいばい」


「笑い事じゃないぞ。助かったよ、メルナ。……いや、私達はともかく、街が危なかった」


「いえ、そんなこと。……わっ! ちょっ……お尻破けてるじゃん!!」


 恐らく大地への突き立て、あの一突きで山を壊したのだろう。山そのものが崩壊を起こし、なんとかボクの魔力で凍らせたから災害には至らなかったが……。そんなことよりも、生えてた尻尾が戻ったことで、スカートの腰元にはぽっかりと穴が空いていた。


「ちょっ……み、見ないでーっ! ボクのお尻……お尻じゃあないかっ! じゃあ良かっ……けほっ、げほ……ごぷっ……?」


「メルナ……? おい、メルナ!!」


 突然、恥じらいも冷めきらぬまま膝から崩れた。意識するまでもなく聖剣が手からこぼれ落ち、その手が口元を、鼻を覆う。なぜか、血が止まらない。手のひらを真っ赤に染め上げ、自分の血に呼吸を遮られながらそれは足元に溜まっていく。いずれ、視界は黒く回転し、いつしか意識は沈んでいた。

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