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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第八章 ヤタノ大山

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№49. 一番目と二番目

 山に響くのは呼吸の音ばかり。背後の戦闘音はいつしか消えていた。とにかく、目指すのは山頂だ。それだけが最優先。そう括って走っていると、ボク達の間を何かが飛んだ。


「っ……!?」


「誰も彼も、そう焦らずとも良かろう。どうせ我からは逃げられぬ」


「くそっ……もうかよ!」


 ボクのすぐ隣を飛んだとは藤玄の身体だ。左腕が斬り落とされ、赤い血が胸元から散らばっている。冗談キツいぞ、ほんの数分も経っちゃいない。


「お姉様、先行って!」


「っ……分かった! 生きろよ!」


 こんな状況じゃ、人の生き死になんて気にする余裕もないというのに。ボクは剣を抜いて立ち止まってしまった。なんでこう……損な動きをしちゃうかな。


「アマテラス……だったな、主は。今、退くのなら我の刃も収めてやろう」


「ははっ……そっちが退いてほしいな……」


「無理な相談だ……」


「……ッ!」


 一瞬、理解するより先に首が動いた。一筋、首に熱が走る。避けなければ、今の一瞬で首が跳んでただろう。冗談じゃない。速さもまるで別格じゃないか。


「ほう……新参と思っていたが、存外、動けるではないか」


「褒めてくれてありがたいよ」


 既に抜かれた聖剣・アルスメードを視認し、次はきちんと構えを取った。ロキと戦ってなければ、あの成長がなかったら避けられなかった。どうする? 埋まる差じゃないぞ。ゼルでも盾役で連れてくるんだった。いや、アレにはナナ達を守ってもらおう。


「ふぅー……大丈夫、落ち着け。落ち着け……」


「さて……小娘を斬るのは気が引けるが……」


「お前一人じゃ、役に立たねぇだろうがよォ!」


「二人も同じだ」


 剣を振る、筋肉の収縮と同時に剣を受け止める。魔力が重い、押されながら、加勢に来たのはロキだった。一人では止められない力を、二人の聖剣で叩き落とすように。


「起きろ、『ラグナロク』!」


「『火炎の剣』」


「……解放もできないのか」


「できなくて悪かったな」


 ロキは槍の姿を解放し、ボクは炎魔法を纏わせた。ロードはやはり、解放はしない。舐められてるのか、あるいはそれなりの理由があるのか。いずれにしても、関係ない。


「『無邪気な戯れ(オルトリズム)』!」


「『日の御子(ヒノミコ)』!」


 ロキの連撃、その隙を補うような炎の太刀。避ける隙間なんて存在しない。受けられるような勢いじやない。はずなのに……。


「言ったろう、二人じゃ何も……変わらないと……!」


「くぁっ……!!」


 太刀は触れなかった。擦りもしてないはずだ。ただの魔力放出とその残滓、それだけでボクの炎は掻き消されていた。あまりに重い、重すぎる魔力がボクを持ち上げ、そのまま闇へと掻っ攫う。


「っ、はぁっ、はぁっ……!?」


「バッ……カ野郎! とっとと加勢しやがれっ! 重力も効きやしねぇっ!」


「何……くっ……」


 次の瞬間、ボクの身体はなぜか、彼らよりも十メートルは離れたところに転がっていた。知らずうちに額はどろりと鉄の匂いが溢れている。今の一瞬に何が……いや、一瞬だったのか? 意識を失ってたんじゃないのか? 魔力に当たっただけで……。


「くそっ! はぁっ、『氷結世界』!」


「むっ、これは……」


「くっくっ……上等だ……ッ」


 アマテラスを杖になんとか腰を上げ、揺れる視界を持ち上げた。同時に、氷の魔力を全解放、見える限りを白く冷たく変える。足場も何も、全てが固まった。先の気絶で、魔力はずっと成長している。強固な氷、それでもあの怪物には一瞬の隙だ。その隙を、全霊を込めて——


「『御光陽炎ごこうかげろう』!」


「『終末世界ラグナロク』!」


 最大出力の火炎の剣、そこに魔力の刃を乗せた一撃が、余波で山の地面を溶かす。重力にエネルギーを与えた槍が、大振りと共に天を穿つ。ボクとロキの、精一杯の魔力。一瞬の足止め、当たれ、当たれ……ッ!


「哀れなことよ。我との距離を見誤った。……尚も息があるのは、加護のおかげか」


「っ……がふっ」


「ぐぁっ……かっ」


 天地を割る頃には、すでにそこに影はない。避けられたのか、咄嗟に振り向いて気づいた。戦いが終わっていたんだ。


「がッ……ぁッ」


 鉄の味が止まない。腹が深く捌かれ、内臓をこぼしそうになっていた。ほんの刹那のことだったはずだ。見えない速度でボクらの間を抜け、さらに速く剣を抜いていたんだ。


「……二人とも、トドメを刺すとするか。先を急がねばならぬゆえ、遺言は聞かぬ」


「はぁっ、げほっ……やめっ……」


 向けられた刃に反射した顔は酷く青ざめ、体液に歪んでいた。血、涙、汗。死の間際の、全てを流した無様な顔。死ぬ……のか? 冗談じゃない。


「アマ……テラ……」


 覚醒するならしてくれよ。少年漫画みたいに、窮地で逆転してくれよ……っ。解放できたら何かが変わるかもしれないじゃないか。そんな期待も、まるで反応を示さない。刃が振り下ろされる。死が、強まる。


「ちょいちょい、手ぇ出さんと。その子はうちのお気に入りたい」


「主は……っ!」


 聞き慣れた声と共に、剣が交わる音がした。ロードの剣はいつまで待っても首を跳ねない。空より降り立った彼女が、すんでのところで守ってくれたんだ。なぜ来たのか、なんてボクには分からないが。ボク達に味方してくれる人が来てくれた。


「龍狩の……アナスタシア・ドラグメイデン」


「三人も聖剣持ちが集まっとるかと思ったら、魔剣があるて? 面白いなぁ。ハカタから飛んで来た甲斐があったねぇ」


「……主で四人目だ。一番厄介な者が来るとは」


 両者の魔力が押し合い、大気を揺らす。それだけで傷が開くのだからよしてくれと……そう言うのは贅沢だろうが。助かったのか、そう思った矢先。今度は山頂付近で、もう一つ大きな魔力が押し寄せた。


「っ……これ、はっ……」


「なんね、コレ?」


「動き出したか……っ!」


「あっ、おい……! げほっ、けほっ」


 山頂の少女のものだ。悪魔らしく、悪魔ではないという少女の。量ではロードに劣りつつ、やはり悪魔に近い魔力がここまで流れ、それを察知した彼は空を裂く速さでここを走り去った。止める力も気力ももうない。アルさん達が襲われないことを信じるしか。


「メルナちゃん、無茶しちゃあいかんと。回復薬ポーションあるけん、一旦休みぃ」


「んっ……! んぐっ、んくっ……」


「ロキくんも飲みんしゃい」


 半ば強制的に、ボク達は薬を流し込まれた。すぐに立ち上がることはできないが、少しずつ、流血は治っている。例の少女が動いたということは、みんなが接触できたのか、あるいは魔剣の方に何かがあったか。どちらにせよ、あっちもあっちで化け物なことに違いない。


「はぁっ、はぁっ……く、そぉっ……!」


「気にせんとって。ロードはうちから見ても怪物たい。守るんはできたっちゃけど、交戦はしたなかばい。……互いにね」


 それでも、歯が立たないのは悔しいものだ。シアはまだ守ることはできた。ボクにはできない。魔剣が欲しいなんて大層なことは言うくせに、まるで実力は伴ってない。買われた加護も、遠く及ばない。


「……シア、行かないと。ボクは魔剣を獲る」


「ふふっ、元気っちゃね。元気な子は好きやけん、うちが守っちゃる」


「はぁ、はぁ……生き残っただけ御の字だろ。俺ぁもう……やる気も起きねぇ。……シェリンを回収して撤退するぞ」


 三者三様、ここに来てまた目的がズレたようだが。目指すところはどのみち山頂だ。剣を持ち、傷を抑えながら、痛みを堪えて後を追った。

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