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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第八章 ヤタノ大山

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№48. 山頂へ

「やめろォ! 尻尾を引ッ張るんじャねェ! 猫にとッての尻尾は人間にとッての尻尾と同じだぞ!」


「じゃあ何の価値もねぇじゃねぇか。千切ってやる!」


「ぐァああ! やめろォー!」


「さっさと来てくんねぇかな。同盟解消すんぞ」


 猫型に戻ったゼルを引っ張りながら、仕方なくロキの方へと足を進めた。こいつの断罪は後回しにしておこう。まずはロキとの協力、それからツクヨミの確保が優先だ。


「さて、まずは何から話すべきか……」


「ボク、お前、嫌い」


「黙れ。先に剣を抜いたのはそっちだろうが。お互い様、その件に関しては不問にしておこう」


 そう言われると返す言葉がない。いや、単に気に入らない性格ってだけだが、まぁ言われた通り黙っておこう。また無駄な争いになりそうだ。ボクは静かにアルさんの横を陣取り、膝の上にゼルを押さえつけた。


「ボクはさ、色々と縁あってツクヨミが欲しいんだけど。そっちはどんな理由で探してるの? 話ぶりからするに、聖議会の任務とかじゃないんでしょ?」


「まぁ個人的な探し物ってところか。なんてったって聖剣は手中にあるんだ。なら魔剣も欲しいってもんだろ。世界を支配する力、そりゃあ欲しいだろうよ」


「うわぁ、俗っぽ」


「さっきから可愛い声して棘があるじゃねぇかよ。弱肉強食、力はあればあるだけ良いんだよ」


 まぁなんだかんだ言い分はもっともだな。ここは地球じゃない。魔物も悪魔も、人間同士の争いも多い。綺麗事ばかりじゃ回らないか。ボクもなんだかんだと言ったが、否定するような話でもない。


「まぁ仕方ねぇ。協力する以上は、まずは俺達の誰かが魔剣を確保し、持ち主を決めるのはそれからだ。それで……俺がお前達と協力すると決めた理由だが、お前だ。アマテラス」


「へ……ボク?」


「他の奴らも多少の戦力としては期待できるが、それでもアルスメードを相手取ることを考えればまるで足しにゃならねぇからな」


 ほう。……ほう? まぁいくらアルさんや藤玄といえど、確かに世界最強を前にしたら見劣りするのかもしれない。……あれ、もしかしてボクが当てにされてるのか?


「あいつの力はまるで規格外。聖剣を解放してるところすら見たことねぇが……お前の成長の能力には可能性がある。あいつに対抗する可能性が」


「……いや、無茶でしょうよ。そりゃあさ、いざってときは剣を抜くけど、戦いたくはないよ。逃げられれば吉だ」


「そりゃそうだが、逃げるにしても、だよ。限りなくゼロには近いが、お前の力にはその可能性を見出してるって言ってやってんだ」


 弱気なのは趣味じゃないが、現実を見れてないわけじゃない。相手が聖剣を解放せずともロキを上回る怪物という前提で、ボクの方はその解放すらできないんだ。加護の限界……はなくとも、追いつける差じゃないだろう。


「……まぁいいや。結局、やることは何も変わらねぇんだ。で、魔剣を探すにはどうすればいい」


「それもまぁ、特別な当てはねぇが……シェリン」


「はい」


 ロキの呼びかけに応じ、シェリンが話に入ってきた。威圧感は大してないが、この人……人? 悪魔も悪魔で、相当の怪物なんだよな。魔王ゼルがかつて戦った龍の分体と同程度だと思うから、大魔公ならその数倍はあると見ていい。……はず。


「私、戦闘の合間に視界を飛ばしていました。私の権能は混乱、物理的にも座標を乱すことができまして。頂上に居座っている少女、あの子が何かを握っていると、そう予感します」


「あぁ、悪魔の少女のこと? もしかして、すでに魔剣を見つけてるとか?」


「いえ、それならこの山に留まらないでしょう。それより、あの子は恐らく、悪魔ではありませんよ?」


「……え?」


 そんなはずは……。鷹丸は確かに大魔公級の悪魔かもしれないと言った。あくまで可能性の話だったが、それは実力の話だったはず。悪魔であるのは確かだと思うが……んん?


「あの子の容姿は黒いツノに尖った耳、黒く太い尻尾にところどころの鱗。髪は黒く、確かに悪魔らしくはありますが、龍かドラゴンのようでもあります」


「龍は悪魔でしょ? ……じゃあ、悪魔じゃないならドラゴン……ってこと?」


「いえ、そうでもありません。似てはいますが何か異質。……いえ、断言しましょう。アレは悪魔なんかではありません」


「お前が言うなら俺は信じるが……一応な。だが謎は深まるばかりだ」


 とはいえ人間でもないんだもんな。少女が何者か、というのが大事な気がする。わざわざ魔剣があると思しきこのヤタノ大山で、その頂上に居座っている。悪魔のようで違い、人間でも、他の種族でもない。でも、そこにいるのは確か、と。


「……番人、とか?」


「番人?」


「魔剣って悪魔の武器なんでしょ? それの番人がいたとして、それが悪魔に近い何か、って可能性はあるんじゃないかな? それこそ、魔剣の意思、みたいな」


 伝説の武器を守る者なんてのは、こういうシチュエーションにはよくある話だろう。根拠のない突拍子な話にはなる気がするものの、ボク的には謎の説得力もある。


「意思……いや、どうだろうな。聖剣にも意思があるが、それは主が引き出して初めて分かるものだ。魔剣も同じだと仮定して、主のいない状態で、しかも実体化する意思なんて考えられない」


「そもそも魔剣と聖剣じゃあ違いもあるでしょ。ならその可能性も無いとは言えない、そうじゃない?」


「それもそうだな。……いや、いずれにしても、だ。その少女とやらに会うことにしよう。目指すは頂上だ」


 その合図で、全員腰を上げた。幸い、この山はさほど高くない。舗装された道からは逸れてるが、ボク達にはあまり関係もなく。そのまま駆け上がろうとした次、ぬるり、と。異物が喉を通るような錯覚に見舞われた。


「……なるほど、山頂。確かにな」


「っ……!?」


「お前は……ッ!!」


 背後から響いた低い声に、意識するより早く振り向いていた。そこにいたのは長い白髪の青年。これといった特徴はなく、腰には剣を差しているだけ。なのに……なのに、だ。殺気とも言えないプレッシャーが、ボク達の距離を埋めていた。


「いずれにしても、邪魔をする者は消すつもりだった。下がれ。そしたら刃には触れぬ」


「……っ、っ!!」


 振り上げた剣に釘付けになる。脚が動かない。呼吸ができない。怖いのか? ここに来て? 死ぬんだぞ、動かないと。動け、動け……ッ!


「ッ、くぁァッ!!」


「っ……ぷはっ、はっ……藤玄——」


「行けェッ! 今すぐ、走れッ!」


 振り下ろされた剣を、藤玄が受け止めた。いや、振り下ろす直前の刃を受け止めてくれた。ボク達はすぐに翻し、緩やかな坂を駆け上がる。誰も、何も言う余裕はない。後ろでは金属の交わる、そして砕ける音が響くばかり。シェリンもアルさんも、ロキさえも。ただ息をして、走ることしかできなかった。

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