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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第八章 ヤタノ大山

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№47. お前は斬る

 また髪を掴まれ、地面に叩きつけられようと、その直前。突然頭が軽く……いや、重くなった。手が離れたんだ。何が起こったか、一瞬目に映ったのは——


「っ……くっくっ。なんだ、お前は?」


「主の危険を止めるのは、従者の務め……ッ!」


 短剣二振り、両手に握ってナナが襲いかかった。流石に真剣だ。たとえロキでも防御はする。だがそれだけ。ナナの力じゃもって数秒、その間に立たないと……ッ!


「ぐっ、あぁっ!」


「ふぅ……勝てねぇ相手の隙を突くのは当然。が、隙と言えるほどじゃなかったなぁ」


「そう言う割にャあ迂闊じゃねェか?」


「ほう……悪魔もいたのか」


 なんとか身体を持ち上げられないか。力を入れても逆に沈むばかり、そう奮闘している間にも頭上ではロキが止められている。声はゼルだ。だが何が起こってる。ナナはどうなった……?


「魔王級か? お前も俺の邪魔をするか?」


「いやァ、構わねェが。そのナナッつーのは俺様の好みなんだ。手ェ上げるなよ。あとそこのアルナリュートもだ。メルナは好きにしろ」


「……なるほど」


 くそっ、あの野郎は殺す。絶対に、ロキより先に斬ってやる! だからそのためにも、今なんとか……この腕を立たせねぇと。戦いの土俵に立たねぇと……ッ!


「うおぉッ!」


「は……? なんで立てる? 対魔の加護でどうこうできる力じゃねぇぞ」


「くっ、ぁ……はぁっ、はぁっ。さぁ……てめぇの加護に聞きやがれ」


 膝を震わせ、けれど確かに、ボクは立っていた。視界に入るのは倒れたアルさんと藤玄、そして膝をついたナナに憎たらしい悪魔の姿に戻ったゼル。自分でも不思議だ。ロキの力が弱まったわけじゃない。ボクのパワーが跳ね上がったわけでもない。


「んなことより……。のやろぉ、ゼルシアス!!」


「うォッ! なんで俺様だ!?」


「ボクは好きにしろってどういうわけだ! ボクだって美少女だぞ! ……ナナ達を連れて下がってくれ。あとはボクが頑張る」


「あァ。そろそろ俺様も重くなってきた」


 改めて、聖剣を握る手に力を込める。やっぱり、アマテラスの加護だ。剣聖の聖剣・アマテラス、その加護である『剣聖の加護』、真髄は青天井の成長。ただ今は腕力じゃない、加護の成長だ。特に対魔の加護が成長すれば……。


「……なるほど、慣れたってところか? それがアマテラスの権能か」


「げほっ、けほっ……斬るぞ、次こそ」


 鼻血を親指で拭いながら、剣を構える。どうしたらいい? 確かに重力に対する抵抗は得た。それ以前に、地力が違う。これで勝てるならアルさんも藤玄も苦労はしない。


「ふぅ……」


「精神統一ってやつか? くくっ、いいぜ。少しは待ってやる」


 体内では魔力が踊っている。外では重力が空気を潰している。ボクが優れてるのは出力だ。魔力の出力、それだけは胸を張れる。なら何を引き出すか。答えは明白だ。


「『氷結の剣』……」


「羨ましいなぁ。本格的な二属性はよぉ」


 剣に纏ったのは氷の魔法。視界は白み、森も凍える。風は冷え、大地も固まる。スピードと剣技、それを補うには敵の能力を下げるべきだ。なら、炎は向いてない。


「興が乗って来た。魅せろよ、お前の……」


「『月影ルナイト』!」


「ッ、喋ってる途中だろうが!」


 横振りの一閃、踏み締めた地面と触れた刃に冷気が走る。ロキの手足に伸びるより先に、押し負けたのはボクの方だ。剣が弾かれ、足が浮く。体勢が崩れた。


「『無邪気な戯れ(オルトリズム)』!」


「くっ、ぬぅ……ッ!」


 右からの隙を突いた大振り、魔力を目一杯に込めた防御で受ける。だが止まらない。次は左に、下に。鞭を振るように攻め立ててくる。


「このッ……『氷結世界』!」


「またそれか……ッ!」


 氷魔法の爆発、先よりも遠慮ない一発だ。大気の水が結晶になり、半径十メートルほどの全てが白く固まり、そして砕ける。ロキはといえば……彼の周辺には冷気が及んでない。


「氷なんてのはよぉ、届かなけりゃあなんてことも……」


「『氷の霧雨(コルドレイン)』!」


「効かねぇってんだよォ! 起きろ、『ラグナロク』!!」


「ッ……!!」


 ロキの呼びかけに応じ、ラグナロクは姿を変えた。螺旋状の柄を持った禍々しい巨大な槍。人の背丈を超えるほどの、つまりこれがラグナロクの真の姿むてわけだ。


「……おいおい」


「くく、大人げないなんて言うんじゃねぇぞ。聖卿の力がなんたるか、お前に教えてやるんだからよぉ」


「剣じゃねぇーじゃねぇか!」


「どこにキレてんだお前はッ!!」


 一気に距離を詰め、射程の内側に入った。リーチで負けてるなら離れるのは得策じゃない。そう思って振った氷の一撃。……受け止めた螺旋の柄は、一片の氷塊すら残さなかった。


「なッ……!」


「解放もしてねぇ聖剣なんかが、立ち向かえると思うなよ!」


「んなの、こちとらやるしか……」


「『破世の一振(グングニル)』!」


 迫り合いのまま降ろされた一振り、防御の上から謎のエネルギーが体内を走った。恐らく重力に関係する不可視の力だ。それが身体の内側を斬り裂き、地面を破壊した。


「がふっ……!」


「おらおらァ! んなもんか、お前はァッ!」


「なっ、く……!」


 大槍とは思えない小回りの連撃にいつまでも押され続ける。やっぱりだ、地力が違う。なんとか受け止めるのがやっと……。


「……ッ!?」


「はっ……!」


 一撃、力で押し返した剣がラグナロクを弾き返した。高い音を奏でて距離が離れる。なんだろう、今の一瞬、対等な力で打ち合えたような。


「つぁらッ!」


「はァッ!」


「くっくっ……はははッ! 良いじゃねぇかよ!」


 圧倒的な重さの一撃、それを似通ったパワーで受け止めた。そして離れたスピードも剣技も、少しずつ埋まっていく。成長が少しずつ、ロキの力を学んでいるんだ。だがこれでは……ッ!


「こっ、のぉ……『氷結月燈セルナ』!」


「確かにッ……だがてんでダメだなァ!」


「くぁっ!」


 刃が交差し、跳ね飛ばされる。パワーもスピードも追いつきつつあった。それでも付け焼き刃、この小さな身体じゃスタミナが足りない。加えて相手は解放した聖剣、長引けば差が埋まるようで、どこからか距離が離れていった。


「『地天丸呑(フェンリル)』……!」


「くっ……『氷結……』」


 魔法が発動するより早く、崩れた大地が隆起し、何か大きな口に変わった。それがボクの周りを覆い尽くし、牙を立てて押し潰そうと……。ロキの属性は地だったか。考える暇もなく、光は閉ざされた。


「……くっ、ぁ……?」


「はぁっ、はぁっ……」


「間一髪……で、ござったな」


 意識が消えるかと思ってた。てっきり、あの隆起した大地に潰されるのではと。次に光を見たときにはボクの身体はふよふよと浮遊しており、大地の口は斬り崩されていた。


「おっと、気づかぬうちに離れてしまってたか。能力射程を超えていたようだな。さて……」


「……?」


「お前らの力は理解した。良いだろう、協力してやる」


 鞘に収める前には、ラグナロクはすでに剣の形に戻っていた。もっとも、それが戻ったことかどうかは分からないが、見慣れた姿に戻ったのは確かだ。


 幸い、痛みと出血の割には傷も浅く、手持ちの回復薬ポーションだけで全快……とまではいかないか。何はともあれ、ひとまずの戦闘は終えた。これでツクヨミには何も近づいてないのだから、参ったとしか言う他ない。とりあえず後でゼルのことは斬っといてやろう。

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