№44. 三つの聖剣保持者
「ワシぁしがないガラクタ屋よ。もっとも、用は別のようだが……?」
「あ、はい。知りたい情報がありまして」
「ちょいと待っとれ。トイレの時間だ。ルリ、茶でも出してやれ」
「はい、かしこまりました」
鷹丸は重い腰を上げて、ルリはパタパタと足音を立てて部屋を出た。先に戻ったのなルリだ。盆に五つ、緑茶を乗せて。ボク達と鷹丸の分か。
「……ねぇ、トイレの時間って何? 周期が決まってるの?」
「さ、さぁ。世の中、色んな人がいますからね」
ボクのつまらない質問に、ナナは律儀に答えてくれたが。……出された緑茶をちびちびと飲みながら辺りを見渡す。やはり、この部屋には大したものはない。小さな魔導具はあるが、どれもランプか加熱器なんかの家具ばかりだ。
「さてさて、じゃあ話に移ろうか」
「あ、お勤めご苦労様です」
「お勤めてねぇんだわ」
扉を開けて戻ってきた鷹丸は、いくらかすっきりしたような顔だ。出し切ったのかな。……いや、あんま汚いことを考えるのはやめとこうか。得ないしな。
「急ですまない、鷹丸。会えて良かった」
「あぁ、しばらくは旅をしてなかったからな。運が良かったとでも思っとれ。用件は侍も同じか?」
「いかにも。拙者も彼女らと同じ、求めるのは魔剣の情報にござる」
「最近はそればっかりだな。まぁ仕事はしてやるさ。報酬は……そうだな。殿下への恩返しということにしてくれ」
律儀な男だな、と眺めていると、彼はポケットからいくつかの紙切れを取り出した。魔法が込められているようでもない。ただ何か……奇妙な形なだけだ。
「探してこい、お前達」
鷹丸がそう呼びかけると、十ほどもある……いや、もっとだろうか。とにかく大量の紙屑が、何か鳥のような形を取って飛んでいった。窓を開き、山の向こう、見えなくなるまで。
「あれは……?」
「形代っちゅーもんだ。こやつらがワシの目となり耳となり、情報を集めてくれる。かつてヤマトと呼ばれる者が編み出したと言われる、陰陽師の技能だ」
「陰陽師……ですか」
なるほど、つまり彼はその術を使って情報屋としても働いてると。じゃあ本業はガラクタ屋……もとい修理屋なんだな。しかし陰陽師、鷹丸は違いそうだが、そのヤマトとやらは転生者かもしれない。割といるもんだなぁ。
「さて、あいつらが帰ってくる間に……」
「鷹丸さん。なんでルリはバニーガールの格好をしてるんですか?」
「なぜって、可愛いからに決まっとろうが。バニーは男の夢だ! どうだ、お前さんらにもくれてやろうか。バニー服」
「あ、いえ。結構です」
確かに可愛いけどね、バニーは。ボクもぶっちゃけ好きだよ。大好きだよ。ナナとか……アルさんは恐れ多いけど、着てくれたら喜ぶよ。でもボクは着たくないんだ。
「貴殿はその、魔剣について知ってるのか? 何か」
続いて、藤玄が質問を投げかけた。続いて、なんて言うとボクの質問があたかもマトモな質問だったように聞こえるが。とにかく、鷹丸はそれに少し、考えてから口を開いた。
「形代が何を見つけるか、それ次第だがな。ワシも現状は特に知らんよ。魔剣ツクヨミ、それが西側にあるっちゅーこと以外はな。ただ、それはみんな知ってる噂だろうよ」
「あ、見てください、メルナ様。桜の髪飾りができてしまいました。ほら、私が結って差し上げましょう」
「おぉ、ありがとう。綺麗だな」
「おどれら人の話を聞けや」
頭をナナに預けながら、耳だけは話に向けていた。誰も彼も、具体的なことは何一つ知らないときた。じゃあその噂を流した始まりはどこなのか。どこからツクヨミの話が出てきたのか。考えても無駄なのかな。そう思いながら茶を啜っていると、アルさんがピクリと反応した。
「ん……帰ってきたようだぞ」
「耳がいいんですな。術者より先に気づくとは何事だか」
やれやれといったように、窓から帰ってきた紙の群れを机に乗せた。鷹丸の口調からするに、まだ情報を得られてないのかな。しかし彼が手をかざした次には、その形代は淡く光ってから鎮まった。
「……むむ? はっはは、こりゃあ面白い。ふふ、面白いことになっているぞ」
「面白いこと……?」
「よし。順に話そうか。まず、このホノヤマ王国には今、お前さんらを含めて四つ、大きな力が集まっている」
鷹丸は声高らかに笑ったかと思えば、四本指を立てて説明を始めた。ボク達を含めて四つか。それらしくなってきたじゃないか。あれ、でも藤玄は元々ツクヨミを探してたんだからボク達の仲間ってわけじゃ……まずは大人しく聞くとしよう。
「まず一つがお前さんら……言うなれば剣聖チーム。数は一番多いな」
「……四人ですが」
「他が二人か一人なんだよ。……で、もう一つが第八の剣、重引の聖剣『ラグナロク』保持者、ロキ・ラグナロクとその仲間が一人だ」
「第八の……」
また聖剣持ちか。それにロキ……北欧神話だったかな。ラグナロクしかり、ちょいと地球の言葉な気がするが、まぁ一旦はよそに置いておく。
「三つ目の勢力が恐らく最大。最初の剣、堕天の聖剣『アルスメード』保持者、ロード・アルスメード」
「マジか……」
嫌な予感はしてたんだ。何か裏があるような話だったし。そんな男が来ていないはずがない。王なんてカッコいい名前しやがって……流石に相手が悪いな。交戦はできないぞ。
「……ん? 四つ目は?」
「素性不明な少女が一人。どこか異質な雰囲気だった。人間ではなかろうが……あるいは大魔公級の悪魔の可能性だってある」
「いよいよただ事ではないな。メルナ、今なら引き返せるぞ」
「んん……」
引くのが得策だとは思う。いくらアルさんがいるとはいえ、流石に大魔公やロード・アルスメードには敵わない。だが、ううん……果たして引いていいものか。諦めても平気なことを、ゼノヴィオはわざわざ話すだろうか。
「……いや、探しましょう。たぶん、ボクには大切なことなので。……もちろん、アルさん達には強要できませんが」
「何を水臭いことを。いざというときに逃げるためにも、わたしたちは必要だろう?」
「拙者も微力ながら助太刀しよう。魔剣とやらは見たいが、より適した持ち主がいるのなら、何も拙者が握る必要はない」
ナナも目を閉じたまま、深く頷いて見せた。命の危険があるかもしれない。対立の仕方によっては。そうなれば、過去最も危険な課題だろう……が、不思議と恐怖は少なかった。背中を押してもらえると、こうも軽くなるものか。
「ははっ、良い良い! では奴ら全てが集結しているのはここから北西、コテツ村のヤタノ大山。そこがお前さんらの戦場、恐らく! 魔剣ツクヨミの眠る地だ!」
机を叩きつけながら、一枚の地図が広げられた。ここ、コダマ峠からさらに数日進むことになる。遠いは遠いが、今までの道のりと比べれば、そしてこれからの試練に比べれば。ボクの心はすでに、そんな道程は越えていた。




