№39. メルナの潜在能力
「そらそら! 腰が引けてるぞ!」
「ぬっ、くっ……!」
鉄の叩く音が響き、足が縺れないように気をつけながら、斬れず斬られずの距離を保つ。あと一歩、侵入を許せば負けるのはボクだ。あと一歩、侵入できればまだ……やりようはあるが。
「『火炎の剣』!」
「っ……ふふ。そうだ、色々試すといい!」
炎魔法を纏った剣で、アルさんを斬るつもりで襲いかかる。聖剣の加護だけでは、普通にやっては腕力もスピードも、彼女には届かない。はっきり言って化け物だ、この人は。勢いと火力が特徴の炎の魔法を纏っても、やっと五分か少し上かな。
「『月燈』!」
「ふっ……」
大振りの振り落とし、アマテラスが地面まで衝撃を伝える。防げるパワーじゃない。のに、アルさんの細い剣はそれを的確に弾き、そのまま——
「ははっ、悪くないパワーだぞっ!」
「ぐっ……な、ならっ! 少しは怯んでほしいですね!」
鋭い突きが頬を掠め、後から風圧が押し寄せる。身体を捻りながら勢いを加え、また一振り。それもまた軌道を逸らされてしまう。ただ……違和感もあるな。未来予知と言ったか。……いや、未来予知みたいなもの、だよな。
「すぅーっ……」
「……? どうした、深呼吸なんか……」
アルさんの攻めをなんとか受け流しながら、呼吸を整え、魔力を引き出す。炎を引き出しながら、もう一つも。難しいというか、やりづらいというか。意識を二つに割かなければ……いや、でもやるぞ!
「『氷結世界』ッ!」
「冷っ……! そっか、二つか……!」
一瞬のうちに視界は白み、ボクの身体も冷え始めた。ただ聖剣に纏わせた炎魔法、それだけはなんとか保たせている。半径五メートルに絞った氷魔法。それも軽々と跳ね上がり、躱されてしまったが。今、動きが良いのはボクだ。
「わっ、とっ……動きづらいな」
「氷の世界ですからね……呼吸だけでも痛いでしょう……っ!」
一太刀、二太刀。振るたびに押しているが、変わらずあと一歩、届かない。やはり、勝利の加護とは未来予知のような力らしい。ボクの動きが分かっているようで……けれど知ってるわけじゃないな。
「たァッ! はっ、はっ……! ……最適解、ですか?」
「ははっ、よく見抜いたな!」
「……っ!?」
さらに一振り、アマテラスを目一杯落としたところ。空を斬り裂いて視界が開けた。いや、まさか。ボクの周りは氷点下、足元も悪いんだ。なのに……視界には揺らめく炎を纏った剣しかなく。髪に降っていた霜がハラリと落ちた。
「ふふ、やはり筋はいいな。主属性が二つあるのも大きな強みだ」
「ひゃいっ……!?」
ボクは集中してたんだ。それを突然、背後から頭をポンポンと叩かれては、こんな情けない声も出よう。背中を取られたことに肝が冷え、それと同時に穴の空いた風船のように、へにゃへにゃとそこに座り込んだ。
「確かに、最適解を見る力だよ。勝利の加護というのは、言葉の通り勝利への道を示してくれるんだ。もちろん万能ではないぞ。何が起こるのかは私は予測しかできない。ただおよその対処法を教えてくれる」
「結局、未来予知みたいなものですね。やっぱり」
「言ったろ、万能ではない。明確な区切りはないんだがな、魔力にしておよそ二倍、それくらい差がある相手にはまず発動しない。それ未満でも、私以上の魔力を持っていては完全に見切れるわけでもないんだ」
ボクは魔力量は人並みらしいし、スケスケだったのかな。……なんかえっちだな、スケスケって。出力はアマテラスの魔力増幅の加護があるから相当だが、それは関係しないのか。いずれにせよ、ボクはまだまだってことか。
「そう凹むな。まだ細かな動きの差で私が勝ってはいるが、パワーはお前の方がずっと上だ。ずっとずっとな」
「……え? そうなんですか?」
「もちろんだ。私はお前の……いや、聖剣のかな? とにかく、その怪力を利用してるに過ぎない。加えて戦闘中もお前は私の太刀筋を吸収していくのだから……参ったものだよ」
そう……なのか。確かに、アルさんの剣はボクとの正面からの打ち合いはしていなかった。太刀筋の吸収、というのは剣聖の加護のおかげかな。戦うほどに武が洗練される。……そんなところだろうか。
「お姉様。ボクはもっと強くなりたいです。もっともっと、お姉様もみんなも守れるくらい。こんな世界でも、何が起こっても生き残れるくらいに……! いや、なります!」
「……はっはっ! 夢のない夢のようで……つまり世界最強を目指すということか? ふふ、なれるさ、お前なら」
「え、あ、いや……そんな大層なつもりじゃ……」
あまりの期待に否定しようにもしきれず。でもそうだな。目指さない理由もない。だからこその、魔剣ツクヨミ、それを得るための旅……。あれ、そういう話だったのか?
「さて、身体も動かしたところで。ほら、コレを付けなさい」
「動かしたってレベルじゃないんですが……。ブレスレット、ですか?」
「『継天の腕輪』という、国宝だよ」
されるがままに、柔らかい右腕にその輪っかを通された。重くもなく、特別軽いわけではない。金の螺旋状の装飾が施されたありきたりな腕輪に見えるが……。
「これはいざというとき、王宮に帰還するためのものだ。バラムランデ王国に危険が及んだとき、あるいは私達の力が必要になったとき、この腕輪に魔力が飛ばされ、王宮に強制転移させる、という代物だ」
「ほぉ……一方通行ってことですよね?」
「そうだな。私達の方に危険があったとしても、そこから逃げ出すものじゃない。国に危険があったときに守るためのものだ。旅の道中はこれを身につけること、それが条件だ」
なるほど。確かにアルさんもボクも国の要人であり、同時に戦力でもある。そんな二人を旅に出すのかと、最初は驚いたものだが、いつでも引き戻せるのなら問題も少ないか。まぁ……そのボク達の危険はどうしようもないのだが、可愛い子には旅をさせよと言うしな。
「それで、西の大陸に行くんだったか」
「はい。竜王はそう言ってました。そこにツクヨミがあるだろう、と」
「予言のような類かな。私には分からないが。ひとまず、西にいる鷹丸という者を訪ねようと思う。情報屋だ」
「え……鷹丸?」
めっちゃ和名というか……元日本人なのかな。あ、でもあれか。西にはハカタもあれば忍びもいるらしいしな。バラムランデは比較的西洋に似た雰囲気だから、そりゃあ日本っぽいところもあるか。そんなことも思いながら、まずは一息、しばらくは休めていた。




