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転生TS少女の異世界譚 〜戦乱渦巻く魔法の世界。女の子になっちゃったけど二回も死にたくないので女神様から与えられた聖剣一つで生き延びます〜  作者: わらびもち
第六章 エルフの国

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№37. 暴風の聖卿

 世界樹を駆け下りて、のことだ。息を切らしながらも、なんとかその脚を回して下へ下へ、と。そこに広がっていたのは予想していたものとはかけ離れており……いや、悪いことはないのだけれど。意外、その一言に尽きた。


「姐さん、あたしらを弟子にしてくれっス!」


「姐さん!」


「む、弟子は取らぬぞ。そもそも、お前達はなんだ?」


 斬り伏せられた巨大な魔物。巨大なヘラジカ……それに鳥の顔を合わせたみたいな、そんな姿が転がっていた。その紫色の身体からは、みるみるうちに瘴気が失われていっている。死んでるのは間違いないが、気になるのはそこじゃないな。


「……トリュネル、これは一体どういう状況?」


「ダークエルフがこちらに来る道中、あの魔物に襲われててな。それを見つけたアルナリュートが倒してしまってな。おそらく、Aランクの魔物だったと思うんだが」


「……それで、なんでこう?」


「ダークエルフというのはね、私達とは違って海辺に国があって。少々荒っぽいところがあるんだ。そのせいで、見ての通り不良気質なところがあってね」


 上品さのないヤンキー種族ってところか。魔物の階級はよく知らないが、つまり化け物を退治してくれたアルさんに惚れ込んでしまった、てなところか。なんでここにきて面倒なことになるかな。


「えーっと……誰かな、あなたは。アルさんは悪いけど、国があるから連れて行けないよ」


「あたしらは見ての通りダークエルフっスよ。あたしはイェラティ、コイツはユラエル」


「っス」


 褐色肌に尖り耳。イェラティと名乗った方は背丈の高い女のダークエルフで、もう片方は少年だろうか。どちらも白い髪を持っており、気性の割には美しい姿だ。


「アルさんって言うんスか? あたしら、姐さんに惚れちまったっス。舎弟にしてほしいっス!」


「だから言っているだろう。舎弟になどできない。諦めてくれ」


「ほら、本人が言ってるんだから。下がりなさい」


「うっせー! 黙ってろっス、チビ娘」


 これは……なんだ。斬ってやろうか、コイツ。人が優しくしてると思ったら。アルさんの妹分はボクで足りてるってんだ。それにチビってなんだ。ボクはチビじゃねぇよ。


「……なんスか、アンタ。文句があんならその腰の飾り、抜いてくれっスよ。アンタが勝ったら大人しく引き下がってやるっス」


「不良がよ、お前。上等だコノヤロー。二言は無しだからな」


「……え? メルナ様? 何やる気になってんですか?」


 困惑するナナにゼルを抱えさせながら、ボクは聖剣を抜いていた。ボクは優しいからな。大抵のことは見過ごすが。アルさんを困らせるなら重罪だ。


「てりゃーっ!」


「ふんっ」


 槍を握って襲い来るイェラティをいなし、そのまま得物を払って刃をその首に押し当てた。もちろん、魔力は通してないから斬るようなことはない。


「へ……?」


「ほう」


 彼女にとっては一瞬だったのか。ボクの刃に触れている恐怖より、弾かれた手の痺れを見つめていた。外野からはルヴァルクの感嘆に近いような短い声が漏れていた。


「ひぃ……っ! あ、あたし、負けて……っ!?」


「ボクにすら手も足も出ない者が、アルさんの弟子になれるわけないだろ。一昨日来い」


「一昨日は行けないっスけど……?」


 金属の触れ合う、小気味良い音を響かせながら鞘に収める。イェラティはといえば、すっかり戦意を失って呆けているだけだ。ユラエルは呑気に蝶々を見つめているが。


「君、イェラティと言ったな? まぁ彼らとのことは一件落着のようだが、なぜまたこんなところに? 森は焼けないからと奥までは入りたがらないだろ」


「……へっ? あ、そ、それはっスね……」


 焼け……ん? 焼けない? まさか燃やすという意味ではない、なんてことは分かってるが。もしかしてダークエルフの褐色肌って日焼けなのか? 実はめっちゃスポーティな種族ってこと……? なんか、それは種族がどうのというより趣味の話だろ。


「アンタに会いに来たんスよ、ルヴァルク。あたしらの集落よりずっと北東の山に、大蛇の魔物がいるんスけど、分かるっスか?」


「……あぁ、アレか。なかなかにデカい魔物だね」


「アレがいるとさ、木の実を採りに行けないんスよ。討伐してもらおうって、遥々《はるばる》やって来たっス」


「なるほど、素材は僕にくれよ。また後日でいいからさ」


 当たり前っスよ、なんて何事もないように笑っているが……ボクには何がなんだかさっぱりだ。もちろん、ナナとアルさんも。その魔物がどれほどの魔力を持っているかは知らないが、相当に魔力感応力に優れたボクでも捉えられない。イェラティはそもそもその場所を知ってるとして、なんでルヴァルクは……。


「……あぁ、不思議そうな顔をしているね。無理もないか、これは僕の聖剣の力さ。暴風の加護って言って、風の流れを読んでるに過ぎない。見てるのは魔力じゃないが……ちょうどいい。メルナ、そこで見ているといいよ」


「見てるって、何を……っ!?」


「巻き起これ、『アランレーム』!」


 それはまるで寝ている仲間を呼び起こすような、そんな穏やかさと勢いのある声だった。そしてそれに呼応するように彼の聖剣の姿は消え……いや、違う。本来の姿に変わった、のだろうか。彼が握っていたのは光を透過する風の剣だった。


「後輩の前だ、気張れよ。暴風の聖剣の力、よーく収めろ……ッ!」


「……っ!」


 後輩、というのがボクを指すのかアマテラスを指すのか。そんなことはどちらでもいい。見えない刃は振られ、そのまま風に乗って……ボクは感知できないが、確かに何かを遠くで斬った。


 森の木々は斬り倒さず、透過するように目標だけを。鞘に収められたとき、アランレームは綺麗な剣に戻っていた。聖卿、今まではよく分からなかったが、ボクは確かにその力の一端を見ていた。

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